居を共にしている訳ではないので、いくら受け入れたい気持ちは在ってもそれなりに事の始まりは辛い。辛いと言うのは、痛さなどという負の因子のみではなく、気持ちが先走って辛い、という事も含まれる。ミロは、事を起こし始めると、言葉ではなく、熱心な行動で彼の心情を表すので、時々追いつくのに必死になる。必死と言うのは、先ほどまでの素面の感覚を捨てて、きちんと彼の情熱に答えるよう努める事で…それでも、殆ど無心といった体で自分の体を愛しまれるの事は、かえって自分の感情を冷やしてしまう事もあり、それをミロに気付かれないようにするにもまた「理性」というものを働かせる結果に繋がり…こうして要らない事を考えてしまう自分自身を持て余す。
だから…少しはお酒でも飲んで理性を若干緩めてから事に及びたいのに…。
と思うことが既に無駄だと、何度目になるか知れない溜息をカミュは飲み込んだ。正直、ミロが自分の体を欲してくれることは、嬉しい。とても嬉しい。けれど、何がどうなれば、あれほど真剣に議論していた事が、こういう事に繋がるのか、カミュにはさっぱり見当が付かない。ただ、長年の経験で染み付いてしまった『機会を逸する』事に対する微かな恐怖から、兎に角そんな時はミロの意向を全面的に受け入れ協力してしまう傾向に在った。
優しすぎるくらい慎重に解してくれた場所に、遠慮がちに侵入してくるミロに、カミュはまた溜息を飲み込んだ。
そんなに、怖がらなくてもいいのに…。
言っても信じてもらえないので、カミュは近頃ではこうした事始にミロをぎゅっと抱き寄せる事にしている。そうすると、ミロはほっとしたように体の力を抜いて、カミュの体を抱き返し、最後まで進んで来る。顔中にキスをされて、首筋に歯を立てられて、お互いに達してぐったりしていると、それはやってくるのだ。
「でさ、体罰禁止って言うけれど、酷い場合じゃ体罰じゃなくて少し肩を叩いて励ますとかそういった事でもセクシャルハラスメントとして訴えられるんだ。それこそ人間の教育を促す現場に於いて矛盾に尽きるだろ? 他者との接触を避けて学校生活を終えたとしてもそれの行き着く先や、叩かれた事の無い人間が叩く以上の殺傷事件を引き起こしている現状を、どう考えて方針なんか立てているんだろう?」
カミュは、今度こそ本当に溜息を付いた。体の中の微妙な場所に、微妙なものを入れられてする話なのだろうか? 一度ではなく、何度か辞めて欲しいと遠まわしに頼んだささやかな願いを、今日も言わなくてはならないのだろうか、と思った時、ふと頭の中を掠めるものがあった。
まさか? と思ったが、ちょっとした悪戯心と軽い意趣返しでつい言ってしまった。
「ミロ…分かったから…そんなにテレなくても、お前は十分男前だし、気持ちよかったよ」
犬が鼻をこすり付けるようにカミュの体に懐いていた体が、カッと熱くなったことを、カミュは自分の皮膚で感じた。そして……あ、縮んでる……。
カミュ・バーロウは、思慮分別を持ち合わせた大人なので、金色の髪で隠れて見えない真っ赤になったミロ・フェアファックスの頭を抱きしめて、人形湯たんぽと化した大きな体躯を、ポンポンと労わってやっるのだった。