〜アンドリュー君の昔語り〜
まあ、騒動と言っても大したものじゃないんだよ?
……期待しないで欲しいんだけど……。
とに角、カーテンコールを終えて、楽屋に戻って来た皆で記念写真を撮って、ってやっていたら、ミロのご家族が尋ねていらしたんだ。
お母さんと、妹さん二人。
一人はまだお母さんに抱っこされていたよ。随分歳が離れた兄妹だな、って思ったのを覚えている。
それで、まあ、さっきも言ったように、ミロの、その、闇売り用の写真がまだだから、少しお時間を頂いて、席を用意して待って頂いていたんだ。
そうしたら、なんだか突然お姉ちゃんの方が泣き出してしまって……。
ミロもびっくりしていたけれど、僕達も相当うろたえたよ……。
母上だけは全く気にされた風も無く、何時もとミロの様子が違って見えるから驚いたんだろうって、泣いている妹さんの手を取って外で待っているから、と出て行かれたんだ。
まあ、ミロは当然落ち着きを無くすよね。
で、これはもう何を言っても駄目だなぁって傍目にも見えてきた頃、突然立ち上がって、「ちょっとだけ!」とか行って部屋を飛び出してしまったんだ。
着替えないで……。
丁度その頃、着替え終わったロスが出てきて……。
何度も言ったと思うけれど、ミロの仮装はサプライズ企画だったから……その、とに角うちの寮の人間以外に写真は撮らせるなって事で……。
…………。
うん。
怒鳴られたよ…………。
直ぐに追いかけろってさ…………。
……そんな、何処に行けばいいのか見当も付かないのに……。
でも幸いな事に、それは、杞憂に終わったよ……(本当に幸いだったかどうかは各自の感覚に委ねたいと思うけれどね……)。
ミロがスカート捲し上げて疾走していった道筋は、両脇に固まって口を忙しく動かしている人の様子で一目瞭然だったから……。
あれは、もう、スミス寮の一種の伝説だね……。
サガの時とは違う意味で……。
まあ、とに角、僕らスタッフは、小さな妹に、明らかに大きすぎるドレスを着せて抱っこしているミロを引きずりながら、ミロが落としていった付け毛やイヤリングを拾いつつ、控え室に戻った訳だよ……。
あれからもう十年以上か……。
もうミロの事でロスに怒鳴られるような事は無くなったし、彼も随分落ち着いてきた。
今は精々ミロを肴にカミュがからかわれるくらいだ(もちろんアイオロスに)。
それでも、ちょっと目を離した隙に何処に走って行っちゃうのか分からないところは、全然変わってないみたいだね、彼は。
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