01:ミロ視点
02:カミュ視点
03:ミロ視点
04:カミュ視点
05:ミロ視点
06:…
四日目
うわ、甘い……。
ブラームスを弾く音が、凄く甘い……。
現金なもんだ、と自分でも良く分る。
カミュはどう思ってるだろう?
後ろのソファでスコア片手にこっちの演奏を聴いてるカミュの存在を思うと背中がムズムズとして落ち着かない。
カミュの顔色を窺わない、と決めておいて本当に良かった。
カミュが自分自身に求めるクオリティーでかつ満足がいく合奏はできはしないと分っていた今回の合わせ。カミュは相当無理を重ねて、それでも悔しい思いをするだろう、と予測してた。
それはもうどうしょうもない現実で、それでもカミュにピアノを投げ捨てて欲しくなくて俺が誘い込んだんだから、カミュのその辛さを見て俺がうろたえちゃだめだと敢えて合わせの最中は楽譜に視線を固定させた。
カミュが体を壊さないように、細心の注意を払う。でも、カミュの顔色を覗き込んで「傷付けた」とうろたえるな。と、そう決めてた。
でも、昨日の晩みたいに、あんな風にカミュにやられると、陽の高いさなかでも目のやりどころが無い……というか、頭がそっちの方に引きずられて困る。
カミュはパブリックの頃から人当たりがいい。
一見、とても柔和で落ち着いた感じに見える。
でもその中身は、かなり厳しい。
厳しい、っていうのは、自分自身に課しているものが物凄くきっちりと決まってる、というか、決めていてそれ以下の事を良しとしない激しさがある。
常に「こうありたい自分」というものがあって、そう在り続けられる様に努力している。
俺には真似出来ない。
カミュがそうやって自分の人生の中で自身に課しているようなシビアな枷は、敢えて言うなら音楽に対してしか俺の中には存在しない。
だから、カミュは全体の殆どが、かなりストイックなもので占められていると思う。
そういう人が、……ああいう事をするっていうのが……なんて言うか……かなり、心臓に悪い……。
なんか凄く、俺を喜ばせたがる、というか……騎上位を取りたがるし、ディープスロートだって……あんなに……(3回も……)。
そりゃ、本音のところでは、やっぱり相当気持ちいいけど……でも、カミュがそんな事自分からやらなくてもいいっていうか……うわっ、ヤバイ……思い出したら顔赤くなってきた……。
ロスや他の男友達でも、そういう猥談みたいなものは平気で楽しそうに話しているけれど、俺はダメだ……。なんか、カミュの表情とか、手とか、足とか、抱きしめてくれる感触とか思い出したら絶対に笑って済ませられない……。
カミュはそういう時の雰囲気が、なんかもう普段と全然違ってて、本当に腰に電気が走るというか、甘いしそれから一途だ。
ああいう体の関係の最中で、一途って言葉を使うのもどうかと思うけれど、でもカミュは切なくなるくらいやさしい。全部許してもらってる気がする。
カミュを女の子を抱くようにして抱く事も、きつい思いをさせる事も。
多分男ってのは単純に出来てて、まず自分の欲求が発散出来たら気持ち良い。その自分本位な行動を、相手が気持ちよがってくれるていると感じるとまた更に付け上がる。
カミュは、そういう意味で、本当に俺を付け上がらせるのが上手い。
で、有頂天になった俺はついつい色々と心配りを忘れるわけで……。
結果、今日のカミュは事務所のソファに横になってる。
……いや、自分でも馬鹿だと思う。
カミュをそうした原因は俺で、反省しなきゃいけないって分ってるのに、つい、こう、気が緩む……。
「……そんなそんな甘い演奏も出来るようになったんだ? お前も年を取ったって事なのかな?」
通しでブラームスを引き終えた後、カミュのやわらかい声が「意外」とか「面白い」とかの響きをまとわりつかせて背中に当たった。
……誰のセイだと思ってるんだよ……!
言い返してやりたかったけれど、情け無いけど顔が赤くなってるって分ってたから振り返らずに、
「なんか気が付いたトコある?」
と聞いた。
「いや? 私は今はテンポの確認をしているだけ。コメントするような立場じゃないよ」
カミュの声はまたやわらかかった。
こういう時のカミュの顔は、見なくても分る。
唇の端が少し上がっていて、目を見開いてる筋肉が緩んでるって言うか、少し目蓋が閉じ気味なんだ。
カミュは顔立ちが少し古風な感じだから、そういう表情を浮かべるとなんだか雰囲気が若くなるというか、華やぐ。
見たいな。
振り返って見つめられて、抱きしめて、キスしたいな。
無限ループにはまりそうになる衝動を堪えて、俺はもう一度弓を握りなおして息を吐いて構える。
背中にカミュの存在を感じる。
それが、熱いのか、温かいのかよくわからない。
体の芯がうずく。
確かに、ブラームスだったらこんな風に甘く弾くのでもいいか……。
でも、この感じを本選にもっていくとなると、師匠にはバレバレだよな……バカンスの間何してたかなんて……。
ふとした瞬間にカミュの指が譜面を捲る、その空気の流れを感じる。
楽器を弾く時、一度音にだけ意識が集中した後、感覚が広がる。息をするのも光を感じるのも自分の筋肉が動くのも、全て軽やかにしなやかに感じる。
そういう時は本当に音を繰り出しているのが幸せだ。
カミュのあたたかい存在を背中に感じながら楽器を弾くことに没頭する。
やさしい時間のようで、真剣勝負の厳しさもあるような時間。
ただ音楽を好きな人間に聞かせているわけじゃない。
師匠や同業者の秤にかけられるうような空気とも違う。
カミュの目は、俺の音楽と体の膜を透り抜けてもっと俺の全部を見通す。
俺の構成の甘さも、突っ走る勢いも---沢山の不完全さ、沢山のキズ、そういうものをものともしないで全てを見ようとする。
どんな粗だって見透かすカミュに真剣に音楽を聞いてもらえる事は、いつだって背筋を正す瞬間だ。けれど同時に、カミュが俺の音楽に心を傾けてくれる言いようの無い幸福に似た安心感がある。
パブリックの頃は、自意識とそれに対する罪悪感で人に俺個人の演奏を聴かれるのが嫌だった。
カミュが控えめに(そう。いつも絶対に強く主張してはこなかった)合奏をしようと言ってきた時、俺は本当は困ったな、と思っていた。
サガの真似をして優等生の演奏をしても見抜かれるし、かといって適当にやれはちゃんとピアノを聴いていないと注意される。
だったら最初から、どんな口実をつけてもカミュと一緒に楽器を弾かないで済むよう考えればよかったのに、何故かカミュと一緒には居たかった。
合奏をする間、その空間にあるのは確かに自分とカミュと二人きりで、誰にでも好かれるカミュを独り占めできてるような満足感があって、それを手放せなかった。
今思うと、カミュの思いの深さを一体どれくらいパブリックの頃の自分が理解していたか、甚だ怪しくて、カミュには申し訳なく思う。
多分、パブリックを卒業して、大学に行って、音楽を諦めざるを得ない状況になって、初めて自分の不安や脆さに直面しなきゃならなくなって、カミュと別れて、また音楽に戻って来て……やっと今、カミュの気持ちに見合うだけ対等になれたんじゃないのかと思う。きっと、10年前より今の方がカミュの事がちゃんと好きになってる。愛してる。
愛してる、という意味を分っていると思う。
カミュが辛かった事も、分っていると思いたい。
思い思いに課題曲を弾きこなし、またブラームスに戻る。
第三部の変形主題の音の切れが気に入らなくて、何度も頭の中でオーケストラの音を思い描きながら弾いているうちに、事務所の窓から見える外の明かりが薄暗くなっている事に気付いた。
夏のローマは夜の7時を過ぎても明るい。その明るい筈の日差しがこんなに薄暗くなっているという事は……!
はっと振り向いてカミュを見ると、カミュはまだソファに横になっていて、驚いた俺の顔を可笑しそうに見上げていた。
「なんだ? やっと一休みするのか?」
「え……あ、ずっとカミュ、ここに居たのか?」
「居たよ? 昔より格段に全体の構成という言葉を理解しているようで嬉しい発見だった」
恐る恐る目ン玉だけをスライドさせてもう一度外の様子を窺う。
間違いない。8時は回ってる……。
「それにしても相変わらず凄い集中力だな。お前こそ根を詰めすぎて体を壊すなよ?」
ゆっくりとカミュは体を起こして、起こしきった所でふうっと息を吐いてソファの背に一度体を預けた。
「さて。それじゃ夕飯、何か作るよ。何が食べたい?」
カミュの目がやわらかく細まって、口紅なんてしてないのに赤い唇がふわっと両端を持ち上げた。
まずい……っ!! カミュが、凄く綺麗だ……っ!!
胸が一気に苦しくなって、俺は慌てて楽器を仕舞い、カミュの居る長椅子の横に急いだ。そして、ブランケットをたたんで腰を上げようとするカミュの肩を掴んでまくし立ててしまった……。
「カミュっ、い、いいよ! 夕食は俺が作る! そ、その間に、カミュは体あっためておいでよ! ここ、クーラーかけてたから冷えただろう?!」
カミュの目がまん丸に開かれた。じっと俺の顔を凝視している。
あまりにも下心が見え透いていたか、と自分の言葉に気付いた俺の顔は一気に熱くなった。けれど、目を逸らすわけにもいかなくて、尚も見開かれたままのカミュの目を歯を食いしばって見返していたら、小さく空気のもれる音がした。
カミュが、唇に深く弧を描いて笑い出したんだ……。
「お前……本当に元気だな……」
くつくつと肩を震わせて笑うカミュの体を支えつつ、俺は唇を尖らせて言ってしまった。
「……無理強いはしたくない。嫌だったらちゃんと言ってよ」
「無理強いされた事なんて一度もないよ……そもそも、そのために来たのだし。でも、今日はもう朝までは駄目だけどね」
カミュの手が俺の髪を掻き分けて頭を一撫でした。ぞくっとして目を閉じると顔に温かなカミュの息を感じた。カミュが口付けてくれた。
目を閉じてカミュの匂いを吸い込んで、もっと深い口付けをねだる。
心臓がどきどきしてたまらない。
カミュの小さい声が耳に響く。
カミュの手が俺の首裏を撫でて、指が頬をなぞった。そして、カミュの体が微かに身じろぎして俺から離れようとするのを感じた。え? と思ってカミュの腰に腕を回して抱きしめると鼻先を齧られた。びっくりした。
「……何度も同じ事を言わせるなよ? お前は夕飯を作る。私はその間にシャワーをすませる。何か質問は?」
カミュの目はもう笑ってなかった。甘くも無い。
その気になったらついそのまま勢いに巻かれるのが俺。カミュはいつもそれに待ったをかける。
事前に絶対にシャワーを使う、というのがカミュの俺とやるにあたっての不文律。分ってる。ちゃんと覚えてるけど、でもそんなに急には頭が切り替わらないのも本当で……。
それでも最近はちゃんと不満は言わなくなったつもりだ。一度、シャワーを使う前にカミュに口でされそうになって物凄く焦ったから、なんとなく、カミュが何を嫌がっているのか生理的に理解できたと思うから。
結局名残惜しく思いつつ、バスルームのドアの前で束の間のお別れのキスをして俺は台所へ。
冷蔵庫を開けると、本当に何も無い。食材としては牛乳とバターとリコッタチーズ、パルメジャーノレッジャーノの皮、作り置きのマリネラソース半瓶。野菜室の中に小さなカップに入ったヨーグルトとしなびかけてた人参が2本。冷蔵庫には入れない野菜を入れてる引き出しには小さな玉ねぎが二個。しなびかけたジャガイモが四つ。冷凍庫の中にはいつ買ったか覚えていない冷凍ブロッコリー。
考えた末、トマト料理には直ぐ飽きたというカミュの事を考えてルーを使ったシチューにする事にした。
玉ねぎを細く切ってオリーブオイル、塩、コショウでよく炒めて、外に出しておいたバターを加える。バターが溶けたら小麦粉を入れて火がちゃんと通るまで粉を炒める。
粉が炒まったら牛乳を少しずつ加えて生地を滑らかにして、後はジャガイモ、人参、パルメジャーノレッジャーノの皮を入れて茹でてる鍋にこのルーを入れて味を調える。ついでに冷凍ブロッコリーも入れて煮込む。
かなりあっさりした味だけれど、物足りなかったらきっとカミュが手を加えるだろうと思い、火を一番小さくしてシャワーを浴びに階段を駆け上がった。
大急ぎで最低限体を洗ってまた事務所に駆け込むと、カミュがバスローブを着た姿で台所に立っていた。
「火をつけたままストーブの前を離れるな」
眉間に皺を寄せたカミュに睨まれた。
「それから髪! いくら夏だからと言ってももう少し乾かせ。手入れが出来ないなら切れ」
ビシッと言われたので慌てて浴室に駆け込んでドライアーのスイッチをONにした。
顔一杯に熱風を受け、軽くなった頭で台所に入るとカミュが既に皿にスープを盛り付けてくれている所だった。肩越しにキスをすると、髪の乾き具合を確認するみたいにして頭を撫でられた後にお返しのキスをしてもらった。
「カミュ、パン、残ってるチバッタでいいか?」
「ああ、私はスープだけでいいよ」
返ってきたカミュの言葉に、思わずちゃんと食べなきゃ駄目だと言うと、カミュは今日一日寝ていただけだからお腹は空いていないと言う。見れば、テーブルの上のスープの量も、俺とカミュじゃ全然違う。
ああだこうだと言い合って、結局カミュの「寝しなに食事はしない」という気迫の篭った一言に言い負かされた。
質素な夕飯を終えて、歯を磨いて、屋根裏部屋に戻る。
食事の進まなかったカミュのを見ているので少し気が重くなっていた俺は、さっさと寝室に足を進めるカミュの手を取って聞いた。
「本当に、カミュ、今日大丈夫? 指とか、筋肉痛とか、体、しんどくない?」
なんかね、イタリアにわざわざ呼び寄せて、ピアノを無理矢理弾かせたり、夜に付き合わせたり、いくらカミュが無理強いされた事はない、って言っても負担は全部カミュの方だから、いつでもカミュが気を変えてもいい逃げ道は作っておくべきだと思うんだ。
けれどカミュは、呆れた顔をして振り返って、溜め息をついて言った。
「それでお前が『平気』だと言うのなら、お前も疲れていることだろうしきちんと健康的な生活をしようか? 早寝早起き、だ」
言葉に詰まった。
平気か平気じゃないか、どちらだと聞かれたら、そりゃ平気じゃない。
でも……。
半分身を捻るようにして振り向いていたカミュの体をゆっくりと抱き寄せた。
「カミュにピアノも弾いてもらいたい。でも、カミュとセックスもしたい。カミュにもそう思ってもらいたい。けど、その後でカミュ一人がしんどい思いをするのも嫌だ……」
カミュが、小さく笑った気配がした。
「……心配しなくても、こちらにもその気がなかったらああいう事は出来ないよ。それに今日一日十分休めたしね」
カミュの唇が俺の顔の皮膚を掠めるようなキスを繰り返して、もういちど吐息を漏らすと両腕を俺の首に回してきた。
「……午前零時まで、だ。時間がもったいないだろう……?」
ドキドキしている俺の胸と、深い息を繰り返してゆっくりと上下するカミュの胸が重なった。カミュのひんやりとした頬の皮膚が、火照った俺の頬にピタリと合わさる。
唇を重ねる。
離れるのがもどかしくて、抱き合ったまま何歩か部屋の中を歩いて寝台のマットに二人で崩れ落ちるようにして落下した。
カミュのバスローブをはだけて手探りを始めると、カミュの手も俺の皮膚に直接触れてくる。キスの合間に背中や肩や胸を撫でられて息が上がってきたところに、ことさらゆっくりとカミュの手の平が俺の腰骨を辿った。
頭の先から腰にかけて電気が流れるような痛みを感じて、鳥肌が立った。
キツイ感覚を堪える俺の背中を、カミュの片手が宥めるように滑る。
「口でするよ?」
カミュに耳元で囁かれた。ぐらっときそうになる意識を総動員して、俺は頭をカミュの肩口にこすりつけるようにしながら言った。手でして欲しいって。
本当にそれでいいのか確認されて、それでいいと言うと、カミュは首元にしがみ付くようにしてくっついている俺の顔を上げさせて自分に口付けるように促した。
カミュの唇と俺の唇が重なって、舌と舌が触れ合った時、それまで俺の腰に添えられてたカミュの手が動いて俺の性器をそっと握りこんだ。
最初は撫でるように、そしてゆっくりと握りこむような力を加えつつ、カミュの手は動いた。カミュの指の一つ一つの動きが、まるで直接脳みそを触られてるみたいにリアルに体に響く。
その一つ一つの衝動を、息を詰めるようにして堪えていると、カミュの舌が遠慮無しに俺の口の中に入ってきて口を開かせる。
うわ、これは声が漏れる、そう思った瞬間、結構な呻き声が鼻に響いて、慌ててキスを止めようとしたらもう片方のカミュの手にがっちり後頭部を固定されてしまった。
なんか、カミュの口の中に向って喘いでるみたいで、凄く格好悪い気がするんだけどカミュは全然お構い無しのようだった。
カミュの舌に自分の舌が舐められ絡み取られる感覚と、徐々に追い上げられる直接的な刺激に腰に熱が集まる。頭の中がカッとして、我慢できなくなってカミュに捕らわれていた唇を外してカミュの肩をしっかりと抱きしめた。
結果、カミュに覆いかぶさり、抱きつくような姿勢で最後までカミュに追い上げてもらった。
そのしがみ付くような態勢のかっこ悪さにに気付いたのは吐精の衝撃から呼吸がやっと落ち着いた頃で、薄闇の中でカミュの表情を探ると、カミュは笑っていた。
「どうする? もう一度手でやるか? それとも口でしようか?」
汚れてない方の手で頬を撫でながら、カミュは俺に訊いた。
「……どうしてそんなに平気で『口でする』なんて言うんだよ……」
なんだかカミュにからかわれているような気がして、それが面白くなくてついむくれて言い返すと、
「それは、お前が気持ち良いからだろう? いいじゃないか別に気持ち良いならそれで。で? どうする?」
とカミュの指先が物凄く敏感な部分を撫で上げた。濡れた手が薄い皮膚を滑って背中がぞくりとする。
「……手でされるのはいいけど、もう口はイヤだ。というか……」
知らず自分の性器をカミュの腹に押し付けるような動きをしてしまっていて、言葉が止まった。……本当に、下半身と上半身って別の事考えてる……。
気まずい沈黙を破って正直にお願いしてみようとした時、カミュの指先がぼんやりとした闇の中から俺の顔を辿って唇に触れた。
「それとも、もう入れたい?」
カミュの囁き声が暗い空間の中から胸の奥に響いた。
そうなんだ。何が大変って、俺が最初からがっつくと、結局カミュの体の負担が増えるんだ。俺一人がカミュにイかされるのに比べたら、無理の度合いが全然違う。
唇の上にとまったカミュの指先を小さく噛んで、その指の腹を舐めた。
「まだ大丈夫。もう少し血の気を抜いてからにする……」
「気にしなくても、昨日できたんだし……大丈夫だよ……?」
カミュの言葉は静かで、とても甘くて、俺は目を閉じてカミュの指を口の中で転がすとカミュに頼んだ。
「もう一度手でやって……それで、その後は、ごめん、やらせて……」
カミュがまた小さく笑った気がした。
何を笑ったのか訊きたかったけれど、カミュにぎゅっと抱きしめられて、もう一度局部への刺激が始まったら思考が白く塗りつぶされて、色んな事がどうでもよくなった。
カミュの体の存在だけを追いかけて、あとはもう酔うようにその熱の中で溺れた。
06:カミュ視点