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07-2 ミロ編


webで注文したものがカミュの滞在中に間に合った事で、俺は一つ計画を立てた。
カミュに全く辛い思いをさせないで、最初から最後まで気持ち良く感じて貰う事。
買ったディルドは表面に突起のない、全体的にとてもシンプルで丸みのある形だ。指を徐々に何本も増やしていくより絶対に楽だと思えた。
一番初めに使ったのは円錐形のプラグのようなもので、先が細くなっているから殆ど無抵抗でカミュの体の中に入った。
ただこれは、小さ過ぎて、正直これを使ってどうやってこれ以上局部を広げるのか良く分らなくて、カミュに愛撫を繰り返す間、少し中で動かしたり引っ張り出したり入りたりを繰り返したのだけれど、カミュにはあまり気持ちの良いものでは無かったようだ。
すぐに次のものに取り替えて入れる時の抵抗や反発を確認する。やっぱり指を増やす時よりは体にかかる負担が少ない。
カミュの体は特に辛そうな様子もなくツールを受け入れた。
これでもう少し慣れたら、手持ちである中では一番直径のあるものを入れてみてカミュの反応を待とうと決める。
カミュが感じているかどうかは皮膚で分かる。
熱がこもってなんとなく全体的にしっとりとする。
息は、辛くても感じていても苦しそうになる時があって、俺自身が事前にカミュの体を慣らす時に一番頼っているものはカミュの体の温度と肌の感じだ。
3日続けて互いの体に触れているしワインも飲んでいるから、もう少し体の力が抜けるのが早いと思っていたけれど、変に意識が冴えてしまったらしい。カミュの体はなかなか緩まない。
カミュが懸命に息をコントロールして自身を煽ろうとしているのが分る。分ると申し訳なくなる。もう少し、上手くカミュを気持ちよくさせられると思ったのに……。
せめてもう少しカミュに気持ちよくなって貰いたくて、最近触るなと言われていたカミュの性器に顔を寄せて先を舐めた。
カミュがしてくれる動きを思い出しながら、丁寧にカミュの性欲を刺激するにつれ、ゆっくりとカミュの体温と気配が緩み始める。
これなら、次のものを入れても大丈夫かな、とほっとして、なるべく口が疎かにならないように注意を払いつつ、もう一つのディルドを片手で引き寄せてなるだけたくさんのローションを側面に塗りつけた。
少しずつ慎重にこれまでカミュの中に入れていたものを引き出して、間を置かずに今までのものより一回りは体積の増えた固体をまたゆっくりとカミュの体に押し込める。
大丈夫。
今度も無理矢理押し進めるような抵抗は感じなかった。
一瞬、カミュが体をびくりとさせたけれど、ローションが冷たかったのかもしれない。
押し進めていたものが飲み込まれるようにしてカミュの体の中に消えてから、ようやく一息付けてカミュに「大丈夫?」と訊いた。
見た限りではカミュの受け入れる部位も無理をしているようには見えない。
いや、見たばかりの判断ではなく、広がった部位を指でなぞるとまだ皮膚には弾力があって余裕があるというふうに分る。
カミュも息を吐いて体の力を抜いてくれている。
これなら、うまくいくだろう。
俺はちょっと安心して深く入れ込んでいたディルドをゆっくりと動かした。ディルドは想像していたよりずっと滑らかに動いた。
やっぱりその為に作られた道具だけの事はある。凄い。
これなら、本来の役割とは違う事をさせられている部位でカミュが快感を感じてくれるまでもう少しだろう。それまでの補助的な手助けをと、俺はもう一度カミュの性器を口に含んで慰めた。舌で舐め上げる動きに合わせてディルドを引き出し、また埋める。
気分良く感じてくれるだろうと、俺もちっょと浮かれてカミュに刺激をおくっていたら、突然カミュの性器が最後の瞬間に向けて形を変えた。カミュの手が俺の肩を掴む。
咥えていたカミュの性器から口を離す。
カミュの顔の中で目が大きく見開いて俺を見詰めるような、空を見詰めるような表情をした。
「……ごめん。でも、出したら駄目なんだよね?」
性器で感じた欲求を、今一歩の所で止められるのはキツイ。それは知ってる。でも、今日は楽な方法に逃げずに、ちゃんと本来は性交器官では無いところで気持ちよくなってもらいたいから、もう少し待って欲しい。
「もう少し、我慢して付き合ってくれる? 今まだカミュ、後ろで感じてないだろ? なんとか頑張るから……カミュ、もう少し辛抱してくれる?」
性器での快感はある。
後ろでの不快感や痛みは無い。
だとしたら、その快感をどうにかすればスイッチ出来るわけで……。それで一度後ろで快感を十分感じる状態になれば多分、体を本当に繋げる時にカミュが痛み感じたり怪我をする可能性は格段に低くなる筈だ。
自分がカミュにしてもらって気持ちの良かった事、解剖図で見た性器周辺の断面図、そういった記憶を辿りながらカミュの快感を煽るよう努めた。
けれど、何度試してみても、性器のへの刺激の方が後ろの動きより勝ってカミュの吐精をせき止めては待ったをかける状態になって、なかなか思うようには事は運ばなかった。
カミュの息は上がっているし、必死で快感を追いかけようとしているのにその道を寸前で断ち切られて、かなりフラストレーションが溜まっている。
どうしよう……。
一度前の方で事を済ませてしまえば、またその気になるのに暫く時間がかかる。その間に、せっかく解れた局部がまた元の木阿弥状態になっているかもしれない。
カミュを一度楽にさせるか、無理を押してもカミュが達せられると信じてこのまま続けるか……。
数秒迷って、上半身を押し上げてカミュの体に覆いかぶさると、荒い息を繰り返すカミュにそっと囁いた。
「カミュ……一度、出す?」
カミュは一度何かを言おうとして、何も言えなくて、それでも両腕を俺の首に回して俺の体を抱きしめた。
俺もカミュの体を抱きしめてじっとしていると、
「……お前に任せるって、言った」
とカミュの言葉が唇から押し出されて、なんだか俺は胸が苦しくなった。
ぎゅっとカミュを抱きしめるとカミュも抱き付いてきて、多分無意識だろう腰を押し付けられた。
そのカミュの何気ない、一瞬の仕草がパンッと音を立てて俺の頭の中で弾けた。
ああ、そうか……そうすれば良かったんだ! と。


カミュは器用だとずっと思ってきた。
料理もオリジナルの照明器具も自分で作ったりと。でもそれだけじゃなく、人の性感を煽るのが上手い。
口とか手とか、それこそ体を使って頭の芯が焼き切れるみたいな快感をくれる。経験の差だと思っていた。けれど、最近はちょっと違う事を考えている。
男が男にフェラチオをしてもらうのが一番気持ち良いフェラチオだという。(胸張ってゲイの友だちが言い切ってた)
なぜなら、男だから男の気持ちのいいポイントが良く分っている、というのが理由らしい。
確かに、それは有りうるかな、と最近思う。
プロの人(女性)にやってもらうより、実際カミュにやってもらった方が凄く気持ち良いし、感じるから。
男が男の気持ち良い事をよく理解しているなら、多分、本人の気持ち良い事は本人が一番よく分ってるに違いない。
という事は、もしかしたら中々いけないで焦れてるカミュ自身が、本当はやって欲しい事が一番分かってたりしないだろうか?
カミュは口で教えてくれって言っても絶対に教えてくれないだろう。口で上手く説明出来ないっていうのもあるかもしれない。
いや、兎に角、カミュに教えて貰えればいいんだ!
自分でも、なんで今まで気が付かなかったんだろうと思う。おかげで散々カミュに我慢させる事になった。でも、もう大丈夫だ。これならいける!
目を瞑って、全身で快感を受け取ろうとしているカミュの唇をそっと指で撫でた。
カミュの目蓋が動いて数秒、焦点が怪しかったカミュの瞳に濃い色が戻った。
カミュの汗で濡れた前髪を払ってやると、「どうした?」って感じでカミュはキスしてくれた。
そのキスはとても甘くて俺はうっとりとした気分になった。
俺は、カミュの乾いた口の中を十分に湿らせあげるとさっき浮かんだ考えを口に上らせた。
「カミュ……一つ、頼みがあるんだ」
カミュは一つ深く息を吸い込むと、俺の頬を撫でて視線で先を促した。俺はカミュの体をぎゅっと抱きしめた。半分くらい立ってる俺の性器と焦らされて潤んでるカミュの性器があたる。何度か甘い口付けを繰り返してカミュの性器に自分の性器もこすり付ける。カミュも俺も気持ちよくなりたい……。
名残惜しさばかりが増すカミュの唇から少し離れて、俺はカミュに吐息と一緒に言葉を出した。
「カミュ、一度だけでいいんだ。教えてくれないかな……? どうしたらカミュが気持ち良いのか……」
言ってから、何度もキスの雨を降らせると、その間中カミュは呆然と何かを考えている様子だった。そして、幾つ目のキスかわからないキスをカミュの口元に落とした時、それが合図になったようにぽつり、ぽつりとカミュは言葉を返してくれた。
「ごめん……自分でも、どうしたらいいのか分からない……あまり、普段、どうして気持ちいいのかとか考えないから……」
一生懸命応えてくれたカミュの唇をそっと舐め上げて、俺はカミュの頬に自分の頬を摺り寄せた。
「分るよ……俺も、言葉で説明するのは苦手だし、いつも難しいと思う。だから、無理して言葉にしようとしなくていいよ……手で教えてくれればいいんだ」
カミュは「え……?」と短く呟いて俺を見上げていた。なんだかその無防備な感じがとても可愛くて、またぎゅうっとカミュを一度抱きしめて数回唇を合わせる。
「多分、俺がやっているからカミュはもどかしいばっかりで感じきれないんだ。だから、一度カミュにやってもらって、そしたら今度から俺が同じ事をしてあげられる。言葉でうまく言えなくても、多分、カミュの体がどうして欲しいのかは分ってる」
カミュは何故か俺の言葉に息を呑んだ。そして、
「それって……」
と言いかけた切り、俺の目の中に何か探し物があるかのように視線も言葉も動かさず時間を止めてしまった。俺はカミュのその有様を不思議に思ったけれど、特に強い感情の色も無かったので横に散らばった枕を掻き集めて抱きしめたカミュの上半身を少し起こすと、その下に枕を詰めてカミュの背中が寄りかかれるようにした。
カミュは、まだ目を見開いて俺の事を見ている。
「カミュ?」と呼ぶと、はっとしたようにカミュの目が焦点を結びなおした。その様子に、ちょっと安心して、カミュの軽く開いた唇の隙間から歯列をぺろりと舐め、首筋を辿り、平らな胸をそっと撫でて乳首を吸い上げた。カミュが小さく息を堪えた気配が首筋に伝わった。
そして俺は、そのままカミュの脇腹を辿って白くて滑るような下腹部にキスの跡を残し、もう一度力を無くし掛けているカミュの性器を口の中に含んだ。
不思議な感じだ。柔らかいような、弾力があるような、血管が通っていて、同じものが自分の体にもあるのに、何故か全く違うもののように感じる。
カミュの腰に腕を回して抱きしめ、軽く吸い上げるように口に力を込めて、手で扱くのと同じように口を使ってカミュの快感を刺激する。
少し冷え始めていたカミュの体に血が巡り始める。
俺はカミュの右手をそっと引き寄せて今まで自分が掴んでいたディルドの柄の部分を引き渡した。
カミュがギリギリまで追い詰められる事がないように、様子を見ながら性器に刺激をおくる。カミュの胸が不自然な浅い呼吸を繰り返して、それからゆっくりとカミュの手が動き出した。
ちゃんとカミュがそれをどんな風に動かしているのか見ておこうと思ったのにフェラチオをしているとよく見えなくて、咥える角度を変えたり先の方だけを舐めたりしていたらカミュの肺が大きく息を吸い込み、また吐いた。
意識的にした深呼吸は体の力を抜く方法の一つだ。
痛みがあるのだろうか?
確認しようと視線をさらに下に落とそうとした時、カミュの左手が伸びてきて顎を掬われた。
どうした?
と視線でカミュに問いかけると、薄目を開けたカミュの視線と交差する。カミュは少し苦しそうだった。
カミュの手に引き上げられるように上半身を伸ばしてカミュにキスをした。唇同士を合わせると、何故かカミュがほっとした気配が伝わった。
キス、して欲しいのかな?
じゃれ合うようなキスの繰り返しだったものが、息苦しさを感じるくらい本気のものに変わり中々下が見れない。
カミュの息遣いで、カミュがキス以外の刺激も感じているのは分っている。一体どんな風にディルドを使っているのか、やっぱりちゃんと見ておきたい。そう思ったとき、俺の後頭部当てられていたカミュの手が離れた。
カミュは、少し体を捻るような動作で俺から距離を取った。腕を伸ばす。ああ、ローションが取りたかったのか……。
気の利いていない自分を悔しく思っていたら、カミュはゆっくりと体の中に入れていたディルドを抜き出し始めた。
あの長さだと、半分くらい出したのかな?
黙ってカミュの行動を見ていると、カミュはその半分引き出したディルドの表面にローションを塗り始めた。
乾いてきたのかな? と思う。でもそれなら全部一度出してきちんと全体にローションをつけた方がいいんじゃないだろうか? 俺が指で慣らす時はそうしている。
言った方がいいかな? と口を開きかけた時、突然視界が遮られた。カミュの左手が目の前にあった。どうして隠すんだ? と思ってひょいとカミュの手を退けると、今度はその手が首に巻きついてきてキスを強請られた。
求められるままにキスをしてカミュを宥めていると、よく知っている小さな水音が耳に届いた。水滴が落下して立てる音ではなく、柔らかいものが水を打つような音だ。
この音がするようになると、カミュの体はけっこう受け入れる準備が出来てきているって感じで、もう指でなくても大丈夫だと言ってくれる事が多い。
ローションを塗りなおしただけでそんな風に気持ちよくなったのか、それとも何かしたのか、やっぱり気になる。
カミュと唇を合わせているのに意識がズレてしまった時、カミュの口から堪えきれないって感じで声が漏れた。
ああ、感じ始めたんだ。
急いで何が起こったのか確認しようとしたら、またカミュにキスをねだられた。深いキスではないけれど、唇から離れていくなという意志を感じるキスだ。そして、そんなキスの間にもカミュは腕を動かしてカミュの口からは短い呻くような喘ぐような声が漏れてくる。
真正面でこんな状態カミュを見せられると、やっぱりどうしても気になる。
そりゃあ、カミュのして欲しい事には全部応えたいけれど、このままじゃ何も見れないまま全部が終わってしまいそうで、焦ってきた。
でも、突然マスターベーションしているところを見せてくれと言われても戸惑うし、そんな事を頼んだのは今回が初めてだからカミュだってどうしたらいいかきっと分らないんだろう。そう思い至る。
ペニスに対する行為だったら、大概の事は分るし、外に出ている部位だから何がどうなっているのかよく見える。けれど、中で感じる快感はカミュ本人も俺も見えるような事じゃないから分らない。
きっとカミュも手探り状態なんだろうな、と思ったら何もかもカミュに任せようとしていた自分に苦笑を覚えた。
ごめんね、と小さく謝って、必死な感じのカミュの顔にキスした。頬、目蓋、耳元。小さなやさしいキスを繰り返していると、眉間によった皺をうっすら開いて、カミュが俺の顔を見てくれた。
カミュの少し乾いた唇をぺろりと舐める。
初めての手探り状態を見られるのは気詰まりかもしれないけれど、それでもそこから学べる事もあると思うから……カミュ、とやさしく名前を呼んで、
「I want to see you」と頼んだ。
カミュの左腕から力が抜けた。
カミュが落ち着いた証拠と考えて、俺はちょっとほっとしてカミュの下半身を見た。
膝を閉じて右手の先が見えなくなってしまっている。
えーっと……このままじゃ見えないよな、と考えてカミュの両膝の頭に手をかけてゆっくりと、カミュを驚かさないように手を滑らせて脚を開いてもらう。カミュのディルドを握る手は止まっていた。それならいっそいい機会だとカミュの手の上から自分の手を重ねてそっとディルドを引っ張った。
少し重いような感じで引っ張り出されるディルドの角度は思ったより上向き加減だ。三分の二くらい入っていたディルドを抜け切らないくらいまで出してローションでもう一度濡らし、またもう一度カミュの体に入れる。引き出す時に確認した角度と同じ角度になるように注意して、ゆっくりと同じくらいの深さまで埋める。それから、ディルドを入れているアナル周辺の皮膚の緊張を指先で確かめる。
引きつってもいないし、切れてもいない。
うん、大丈夫だ。
カミュの脚を正常位の形に近くなるように押し広げて薄い皮膚にキスをする。
俺がカミュの体を確認する間、じっと待っててくれたカミュを、大丈夫だよ、という気持ちを込めて見上げて「続けて」と言った。 カミュの右手がまたゆっくりと動き出した。
新しく足したローションのせいか、目の前からはさっきよりも大きい水音がする。頭の上からは、小さく鼻にかかるような甘い音が途切れ途切れに聞こえてくる。
カミュの右手は、始め小刻みに体の中を擦るような動きを繰り返してから、徐々にディルドの出し入れの幅を広くし、少し角度を付けると何かを付くような動きをし始めた。一度引いて、体の中の一点を押し上げるようにディルドを動かす。
ああ、この位置と角度が前立腺のある場所か。
ふと思いついてカミュの下腹部の上にそっと手の平を乗せてみた。けれどそこに下から何かが突き上げてくるような感触は無い。
やがて前立腺を刺激する事に集中していたカミュの手が、だんだんと色んな動きを見せ始めた。
中を撫で回すように入れながら、円を描いた後に前立腺を強く押す。
何度か大きくディルドの出し入れを繰り返してから前立腺を小さくこするような動き。
始めは三分の二くらいの長さしか使っていなかったディルドも、カミュが感じられるようになってからは全長を使われるようになってきた。
持ち手の部分まで全部を埋め込んで、その状態で更に深い場所にディルドの先を届かせるように柄の頭の部分に指先をずらしてディルド全体を体の内部に向って押し付ける。
全部を入れた状態で含みこんでいる接合部分を基点に、中でディルドの先が円を描くように回転を加えたり。
多分、ペニスじゃここまで細かい刺激は使い分けられないんじゃないかと思う。
カミュの体が、カミュの手の動きに応えるように震えたり跳ねたりするのは不思議な光景だった。透明人間とセックスしているのを見ているような感じだ。
カミュの息がどんどんと荒くなり、押し付けている脚から抵抗を感じ始めた時、今までとまったく違う風にディルドを使っているカミュに気付いた。
最初は単に前立腺を刺激する事に偏っていたディルドの動きが、カミュの興奮に比例するように動きが大きくなっていたのは気付いていた。
でも、手だけじゃなく、呼吸の仕方が変わっていたんだ。
最初は、息を吸い込む時に挿入の動き、吐き出すのに合わせて抜き出す動き、となっていたのが、今は「あっ」と声を上げているときに入れて、息を吸い込む時に体から出す動きをしている。
自然にやっている事なのか、意識してやっていることなのか、後でカミュに聞かなければ判然としないけれど、気持ちよく感じている事は多分間違い無い。
自身の快楽を一心に追い求めているカミュの体を第三者的に見た事はなくて、すごく新鮮だ。
こんな風にして気持ち良よさを受け止める人なんだ、と不思議な感覚でカミュの体を見続けていると、カミュの喘ぎ声の色が少し不満げな焦れてるような音に変わり始めた。
ディルドを強く握り締めた手が、一気にディルドを引き出して、局部に打ち付けるようにそれを体の中に押し込めていた。
こんなに激しく動かしても痛くないのかな、と思うくらいカミュは強くディルドを体の中に埋め込もうとしていた。
達するのが近いんだ。
少し緊張しながらカミュのその動きを見守る。そして、気付いた。ディルドを引き出す手が重そうだ。二、三度突き入れると息を切らして休む。
自分のペニスを扱くのと違って、腕を遠くに伸ばししてその先で色々な事をする、というのは相当疲れのたまる行為なんだと今さらながらに気付く。
もう少しの強い刺激があれば達せられるのに、それが出来ない。それを焦れているカミュがなんだか突然、無性にいじらしく思えてカミュの右手をそっと自分の右手で包んだ。
濡れたカミュの長い指の一本一本を辿る。この指で、一生懸命ピアノを弾いてくれた。料理を作ったり、俺を抱きしめてくれたり、やさしい愛撫をくれたりしてくれた。
お疲れ様、という気持ちを込めて、全ての指を撫で、カミュの手をディルドから外させた。
パタンとカミュの右手が力なくシーツの上に落ちた。
俺は、今ディルドを含んでいるカミュの中の形を確認するために、ディルドを内部で一番抵抗のない角度を探しながら数度滑らせ、カミュのそこが物凄く狭くなっている事に気が付いた。
入り口はそれほどでもない。けれど、直腸の壁がディルドに吸い付くみたいに絡み付いていて、これじゃあいくら強い刺激を送りたくてもこの抵抗のせいでカミュの意図が達せられなかったわけだと納得した。 手早く再度たっぷりとローションをディルドに塗って確かめていた角度にそってディルドをカミュの中に押し込んだ。
目を瞑ったままのカミュの背がしなり声が上がった。一瞬、痛かったのかと背中がひやりとしたけれど、カミュの体、カミュの表情、そして何よりもっと深くに飲み込もうと動いているカミュの局部の動きで、これでよかったんだと安堵し、こんなに激しく突いても痛がったりしないんだと知る。
そして何度目かの打ち込むような挿入の後、カミュはドライに達した。
長いオルガスムスを感じている間、カミュの局部からディルドは抜けなくて確かにこんなに強く締め付けられたら、自分がカミュとしている時に痛みを感じても仕方がないかと納得。
いい加減たまっていた欲をカミュに受け止めてもらいたくて、何とか呼吸の落ち着きかかったカミュの体からディルドを取り出し、自分のものを代わりに入れた。
まだちょっときついけれど、カミュの体もそれ程緊張せずにようやくお互いの体が繋がった。
カミュの体を覗き込み、閉じた目を開かせようと数度頬を撫でると、カミュの無防備な瞳が覗いた。
「カミュ、今度はディルドじゃないよ……」
囁いて耳元にキスをすると、カミュの両腕が上がって強く抱きしめられた。






07-2 ミロ編 Epilogue

昨日の晩のカミュは、……すごかったなぁ……。
メールの振り分けや簡単な返信など書いていても、ふっと気がそれて昨日の、というか今朝のカミュの姿を思い浮かべてタイプする指が止まる。
男同士のセックスだとは思えないくらい、カミュが欲しがってくれた。
蝋燭の明かりが消えて、朝日の色がカミュの顔をやわらかく照らし出した時、その時のカミュの目の潤みや、切なそうな、けれど満ち足りているような表情と自然に開かれた唇……何度キスしても惹きつけられた。
受け入れてくれるアヌスが熱くて、やわらかくて、全身で俺の事を欲しがってくれるカミュの腕や脚、腰や胸が全部俺をドキドキさせて、同時にこれ全部自分のもので誰にも渡さない、渡したくないと思った。
もっと欲しがってほしい、もっと全部奪い取りたい。
そういう熱と一線を壊してしまうようなギリギリ狭間で、カミュの体は凄く魅力的だった。
扇情的だ、って言った方がより近いかもしれない。
思い出すと、まだ腰に熱が集まる。
ふうっと息を吐いて、集まった熱を散らして、またパソコンで出来る仕事に意識を引き戻す。

正午近くまでカミュの体と繋がりあっていて、俺が起きたのは夕方の5時。
今日の夜の最終便で帰る予定だったカミュは、まだ深く無心の眠りの中だ。
これなら、きっと最終便が間に合わないくらいの時間に起きてくれるだろう、いやそのぐらいまでカミュを起こさないようにしなくちゃいけない。
俺は極力音を立てずに息を潜めて、百年の眠りについているお姫様の守人みたいに、カミュの姿を眺めながら長く伸びる日差しの中で一人とても幸せな気持ちで時間を過ごした。


夜のカーテンがうっすらとローマの街を覆い始め、ガラス窓に映るのが外の建物の屋根でなく自分の部屋の中になり始めた頃、寝床の方から何かが落ちるような音がした。
カミュが起きた?
そっと椅子を引いて、明かりが入り込まないように打ち付けていた布を片手で押し上げて中を覗くと、カミュが部屋の隅にあったバスタオルの上で腰を抜かしている。
転んで何処か打ってはいないか(尾てい骨とかだったら結構あなどれないらしい)確認すると、ハッとしたようにカミュが矢継ぎ早に俺の名前を呼んで時間を聞いてきた。
「もう七時過ぎてるけど?」
と返事をすると、カミュはがっくりと両手を床について項垂れた。
昨日の、凄く女性的だったカミュに引き続いて、こんなカミュも珍しい。
側に寄って隣にしゃがみ込むと、カミュは飛行機に乗り遅れた事を「ありえない」と表現しショックを受けている様子。
「正規のチケットだったんだから変更はきくだろう?」
と、肩を抱いて慰めると、カミュはゆっくりと顔を上げて不審に満ちた眼差しで、何時から起きていた、と聞く。
俺が正直に夕方から起きていたと言うと、またがっくりと頭を垂れて「何で起こしてくれなかったんだ……」と呻かれた。
だって、帰って欲しくなかったし。
明日仕事は無いって言ってたし。
そもそも最初からカミュが寝過ごしてくれたら嬉しいな、と思って昨日たくさんカミュとセックスしたわけだし。
とこちらの理由を羅列しようとしたら「電話貸してくれ」と言われた。
え? まさか、今からどうにかこうにか帰る手段を探すわけじゃないよな?
ギクッとしてカミュの顔を覗き込むと、ふっと苦笑をもらしたカミュの指に髪を絡み取られて言われた。
「……心配しなくても、もう今日は何処にも行かないよ」
あらら……焦ったの、顔に出てましたか(苦笑)。

足腰に上手く力が入らないというカミュに肩を貸して階段を下り、事務所のバスタブにカミュの好きなバスオイルを入れてその中にカミュの体を離す。
ほうっと溜め息をついて白濁したお湯の中に溶けるように沈んでいくカミュの白い体には赤い痣が沢山あって、ちょっと吸い過ぎたかと反省。
目を閉じて頭をバスタブの縁に凭せ掛け、膝を曲げてお湯の中に居るカミュはほっと一息ついた凄く無防備な感じでつい悪戯心が頭をもたげた。
バスタブの縁に腰掛けて、俺は二つの並んだ丸い小山のように顔を出しているカミュの膝から見当をつけた場所に腕をそろりと入れ湯の中に入れた。
カミュが気が付いて「ミロ?」と俺の名前を呼んだ。
それをちょっと無視して、カミュの太ももの裏を辿り目的の場所に指先が触れた時に、ちらっとカミュの顔色を窺ったら、ジロッと睨まれた。
やっぱ駄目かな? と思いつつ、許してくれたらいいなと期待も込めてカミュに目で尋ねると、カミュは何も言わずにまた目を閉じた。
これも、珍しい。
止めろとも体を離される事も無かった事が嬉しくて、俺はそのまま慎重に指をカミュの後ろに潜ませて中を掻き出した。
やさしく感じてもらえるように静かに、丁寧にそんな動きを繰り返していると、パシャンという水音がしてカミュの手が上がった。
カミュは相変わらず目蓋を閉じていて、その上がった手をどうするつもりだろうといぶかしんでいると、それは俺の腕に当たった。カミュの指は腕を辿り唇で止まった。
そして、指先で誘うようにうっすらとした距離を保ちつつ何度も俺の唇を撫でた。
うわっと思う。
なんか、凄く色っぽいんだ。カミュ……。
熱に浮かされるようにして俺もカミュの指に自分の息を吹きかけて咥えた。カミュの指は、猫の顎の下でも撫でるように俺の口の中に入り込んできて舌や口の中を何度も撫でた。
俺も性的な意味を込めて下でカミュの指を舐め上げる。
すると、するっとカミュの指は俺の口から滑り出した。
今度は、顎から首、胸を滑り落ちて……
え? と俺が思ったときには、カミュの指はジーンズのジッパーを引き下ろしにかかっていて、あっというまに指をねじ込み手を差し込んで来た。
下着の上から触られてギョッとしたのも一瞬の事。カミュの手はすぐに俺の下着も引きづり下ろしにかかっていて、あっというまにペニスを引っ張り出した。
思わず何の反応も返せず、ただカミュの顔を驚いて見ていると、ここで初めてカミュは目を開けて、ふっと唇の端で笑った。
そして片手で俺のペニスを掴んだまま器用にバスタブの中で体の位置をくるりと変えて俺の股間に顔を寄せてきた。
「! カミュ、ちょっと待った! 俺、まだ洗って……!!」
「お前はもうシャワーを浴びてるだろう?」
カミュは全く俺の言葉など意に介さず、見せ付けるみたいに舌を突き出して人の性器をぞろりと舐め上げてきた。
うわっ、と俺は呻いた。
カミュは俺の腰に片腕を回し抱き込み、半分俺の膝に肩を乗せるように身を乗り出して男の第二の人格をしゃぶり始めた。
俺の体の中には昨日の興奮がまだ残ってる。
だから、あっけなくカミュのくれる刺激に引かれてどんどんと熱が溜まり固くなる。ところが、もう十分快楽を受け取って、あとは出すだけという段になって急にカミュは口での刺激を止めてしまった。
口の中に出すな、ということならもちろんそれでも全然構わない。でも、なんで今、このタイミングで中途半端に放り出されるのか判らない。
視線をカミュの顔より下に下ろすと、固く姿を変えて立ち上がってる自分のモノが見えるわけで……思わずカミュの顔をマジマジと見詰めると、にっこり綺麗に笑ってまた俺のペニスを咥えなおした。
なんなんだ? なんなんだっ?! カミュ!!
わけが判らなくても感じるものは感じてしまって、俺は何度もカミュにギリギリまで追い詰められてはそれを塞き止められるという苦しいループに叩き込まれた。
昨日、カミュを散々焦らしたからその意趣返しか? とも思い、わざとじゃない、と心の中で言い訳しても、もしカミュが何か昨日の行為のなかで鬱屈をためるような事があったのなら、それは吐き出させてやらなきゃと結構頑張ってカミュのイジメ(これはもう焦らすってよりイジメの範疇に入ると思う……)に耐える。
けれど、どうにもこれ以上は頭の中が滅茶苦茶になりそうだいうヤバイ感じがしてきて、俺はカミュの肩を抱きしめてカミュの濡れて色の濃くなった髪に額をこすり付けて呻いた。
「……カミュ、これ以上は、ちょっとゴメン……キツ過ぎる……」
するとカミュは俺の顔を見上げて、可笑しそうに目を輝かせながらペロリと舌を出して一言。
「昨日のお返し」と言った。
うわ、やっぱりですか……。俺は、がっくり項垂れてしまった。
でもその後は、カミュはディープスロートで凄く気持ちよく俺をいかせてくれて、それで気が済んだみたいだった。

ぐったりした気分で浴室を出ると9時をとうに回ったくらいで、まずはもう24時間近く何も食べていないカミュにご飯を食べて貰う準備。
レンジで温めた作り置きのベジタリアン・ミートローフとスープ、サラダの残り、市場で買ったチバッタをテーブルの上に並べる。それから、チバッタを食べる時につけるオリーブオイルと塩と、カミュは乾燥ハーブをここに混ぜるからそれもだ。
やがてカミュも浴室から出てきて、飲み物をセットしたり、まだ残っているフリッタータを冷蔵庫から出したり、あっというまにテーブルの上は食料で一杯になった。
カミュとこの小さなキッチンで食事をする時は、いつも椅子を隣り合わせにしている。
でも、今日は、今はその隣の距離すら遠く思えて椅子に座ろうとしたカミュの腰を抱き寄せた。
何? と聞かれて、膝の上に乗りなよ、と答えたら
「ここ、一応二人分椅子があるだろう?」と困惑と顔に書いてあるような表情で言われた。
さっき散々カミュに遊ばれた体の熱を持て余している俺としては、もう頭の中はカミュとやる事で一杯って感じで、カミュの体を放していたくない。
でも、さすがに俺が抱きしめていたらカミュが食事をしにくいのは分る。
でも、腕の中にカミュの体を感じていたい……。
結局せめぎ合った気持ちに自分で決着を付ける事が出来なくて「駄目?」と最後の決定をカミュにゆだねる。
すると、カミュは、しょうがないなぁという風に苦笑して、俺の腕の中に納まって食事をしてくれた。腰を俺の太腿の上に、足を空いた椅子の上に、という格好だ。
カミュは切り分けたフリッタータを俺の口の中に入れてくれたり、ミートローフをスプーンで食べさせてくれたり。
俺はカミュがそうしてくれたものをさらにカミュに口移しで渡したり。我慢できなくて、カミュのバスローブの胸元に手を差し入れて愛撫したりした。
気もそぞろのこんな食事の終盤には、カミュも俺の首に両手をかけて積極的に唇を吸い合わせてきてくれた。そして、わざと(これは絶対にわざとだと思う)俺の腰の上に跨り、下腹を押し付けてセックスを連想させる動作を繰り返した。
これは、もう上に移動した方がいいかもしれない。そう思ったのに、どうにもカミュの体を放しがたくて、この時間を壊したくなくて、テーブルの上にあったオリーブオイルを手に取ってカミュの後孔を探った。
カミュは黙って腰を上げてくれて俺の指が中に入るのを助けてくれた。
お互いの口の中を混ぜ合わせるような口付けを続けながら、カミュの局部を解す時間を過ごす。
「……ディルド……取ってきた方がいい?」
指を三本捻りこんだ時に、少しカミュが呻いたような気がして、カミュに聞いた。
カミュは濡れた唇を一度舐めて少し考える様子を見せたあと、
「……なくても大丈夫。……もう少し、濡らしてくれれば……」と返してくれた。
カミュの言葉に、うん、と頷いて、カミュの肩を抱きしめる。手の平に掬う様にオリーブオイルを貯めてカミュの体の中に少しでも入るようにそれを押し付けた。

カミュが心から俺の事を受け入れても良いと感じてくれているのが分る。
たまらなく幸せだった。
自分のペニスにも十分オイルを塗って、やっぱりまだキツイ場所に、リードをカミュに任せて繋がった。
二人とも熱い息を吐き出しながら繋がった部位をなんどもこすり合わせて性的充足を求める。カミュのしなやかに反りあがった背中を撫で、胸にキスを繰り返すと、カミュが俺の両耳を挟みこんで口付けてくれる。
耳を塞がれると、奇妙に自分の息使いが大きく聞こえてどれだけ自分が相手の体に欲情しているか知れる。
それでも、この相手だから、とことん曝け出しても、見せてしまってもいいという安心感がある。
「そろそろ上に移動するか?」
目を覗き込まれてカミュに聞かれる。
「うん……でも、出たくない……」
答えてカミュの唇にキスをするとくぐもった笑い声がカミュの喉で響いた。
と、その時だった。
サイレント・モードにしていた携帯が、ジーンズの尻ポケットで震えた。
すっかり存在を忘れていた物がくれた突然の振動に、心底びっくりして慌ててポケットから取り出した拍子にスピーカーボタンを押してしまったらしい。
突然アイオロスの不機嫌な声が小さなキッチンに響いた。
「おいっ! バーロウ、まだそっちに居るんだろう? 連絡も寄越さず居留守ってのはどういう了見だ?」
えっ、と思ってカミュの顔を見ると、カミュの顔は思いっきりしまったと言っている。
取り合えず、これは俺の携帯だし、と思い「もしもし」と言い、さっきのロスの質問に答える。
「カミュはこっちにいるけど、ロンドンに帰るのは明後日の朝の便だよ?」
何ーっ? というロスの大きな声とそれに続く色々で、どうやらカミュは今日までのうさぎの世話をロスに頼んでいたらしい事が飲み込めた。
「いや、違うよ。カミュのせいじゃないよ。俺が帰るの引き止めたんだ。カミュ? うん……まあ、ここにいるけど……」
どうしてもカミュを出せと言ってロスが聞かないので俺は携帯をカミュに差し出した。カミュは、物凄く嫌な顔をして携帯を受け取り、なんども「すみません」を繰り返した。
カミュが何度も丁寧に詫び言を言う間、俺はずっとカミュの体を抱きしめて待った。飛行機のチケット変更を頼む電話の時、どうしてカミュの小さなうさぎの事を考えなかったのか……。
最初は平謝り状態のカミュだったけれど、その表情が段々と険悪なものに変わって行って、ロスがまたカミュをからかっていると知れた。
そしてとうとう、眉間にくっきり皺を刻んだ状態のカミュが無言で俺に携帯を押し付けた。
「もしもし? ロス? ごめん、カミュは本当に悪くないんだ……俺がうっかりうさぎの事忘れててカミュを足止めしちゃったんだよ」
カミュの顔を横目で伺いつつ、俺はロスにカミュのせいじゃないって念を押した。すると、電話の向こうからは明るい笑い声と一緒に、
「だろうと思ったぜ。しかし、だ。うさぎはお前がウチから養子にだせって申し込んできたんだからな? 一応生き物なんだから頭から外すな」
と注意された。本当にその通りで、俺は素直に謝った。
「うん。ごめん。これからは気を付ける」
「で? 今メシ食べてんだって?」
全然気を悪くしてない声の調子で、話題を変えられた。ロスは昔っから人を叱る時にもさっぱりしてて気持ちが良い。
「うん。カミュ、夜まで寝てたから」
「完璧寝坊か。で、シャワー浴びて目ェ覚まして、今頃メシって訳か」
「うん。そう」
すっかり雑談の調子で話を続ける。
「隣に居るのか? バーロウ」
「ううん。あ……膝の上……」
ちょっと、今の自分の状態を思い出して赤面した。
だって、俺のペニス、しっかりカミュの中に入ったままだ。しかも、なんでかしらないけど、俺がロスに返事をした後、カミュの中と後門の縁ががピクンと震えて、一瞬強く俺のを飲み込むような動きをした。
「……そんなデカイもの抱っこしてメシ食ってんのか……お前は何歳のガキだ」
まるで俺がぬいぐるみを抱いて食事でもしてるような、あきれ返った調子の声で溜め息をつかれて、俺はついむっとして言った。
「ガキって! もう食事は済んだよ!」
「済んでも上に居るのか」
「居るよ。いいじゃないか、別に」
食事はもう済んでいる。後は何やっても自由だ。
と、ロスの声の調子が変わった。
「……じゃあそりゃお前、メシ食ってんじゃなく、気持ちよくしてもらってるんだろう?」
げ……どうして分るんだろう。
内心ちょっと焦りつつ、でもそれを肯定してしまった。……だって、本当に気持ちいいんだもの……。
「バーロウに、『お前にそんな趣味があるとは思わなかった。食いすぎないようせいぜい注意しろ。邪魔したな』と伝えとけ」
ロスは一息に、伝言と言うにはちょっと長い台詞を一気に言って電話を切った。
なんの伝言だろう、これ……。恐る恐るカミュの表情の変化を窺いつつ、一言一句間違えないようロスの言葉を繰り返す。
聞き終わったカミュは……がっくりとして大きな溜め息をついた。
「……ごめん……」
まずは謝ろう、と言葉を口にすると、カミュは伏せていた視線をふっと上げて苦笑した。
「お前の所為じゃないよ。……ちゃんと電話しなかった私が悪い」
ちっょと予想してなかった答えにびっくりした。
だって、こんな風に体を繋げている最中に電話なんかとったら、てっきりもっと怒られるかと思っていたから……。
「上に行く?」と続けて聞く。
二人とも、微妙に熱がそれてしまっている。
すると、
「……つまらないことはこの部屋に置いていこう。……今は、他のことに気を逸らしたくない」
そう言ってカミュは、俺の手をとって自分の腰に置かせると、ゆっくりと体を揺すり始めた。
なんだか、つくづく幸せな気持ちにって、カミュと一度上り詰めると、もう一度オリーブオイルの付いたお互いの体を洗いあって屋根裏に戻り、目が開けていられなくなるまでカミュの体に触れ続けた。
昨日は使えなかった電動のディルドを使うと、カミュが、本当にどうにかなってしまうんじゃないかというほど感じてくれたりして、ああ本来カミュは物凄く感じ易い人なのかもしれないと思う。
カミュの方もディルドにはもう安心したのか、上手く馴染んでくれて抵抗なく度ごとに受け入れてくれた。
指で解す時のようにカミュの体の反応を直に感じられない不安はあるけれど、無理の無い形とカミュの体に負担が少ない様子に世の中には有難いものがあるものだとつくづく感心する。
コツさえ掴めば、ちゃんとコントロールしてカミュに気持ちよくなってもらえる事も分ったから余裕が出来た。
二人してマットレスの上に横になりながら、なんだか笑っちゃうくらい甘ったるいムードの中お互いの体を弄りあう。
カミュの体の中で何度目かの射精を終えて、カミュの隣に寝そべりながら、さっきまで自分が入っていた場所に滑らかなディルドを含ませる。
カミュの熱を、ほんの少しの時間の隙間の間にも煽りたくて、昨日知ったばかりの方法でゆるゆるとカミュの後孔に甘い刺激をおくるとカミュは困ったように小さく笑って俺の髪を撫でたり頬に指を走らせたり、甘いキスをくれたりする。
カミュの硬く尖った小さな乳頭を指先で転がしたり、胸全体をしだくとカミュは吐息を漏らす。
それは感じすぎてカミュに涙を零されるより、あったかい思いを俺の胸に満たした。
ずっとこんな風に、あたたかいおもいだけでじゃれ合うように生活できればいいのにね……。
カミュを抱きしめながら、カミュに抱かれながら、カミュの温かい体を感じながら、俺は目を閉じてそんな事を思った。

カミュがイタリアに来てからきっちり一週間、今度はカミュを見送るために空港に来る。
折角の綺麗でやさしげな顔を、カミュは俺から取り上げたサングラスで隠した。
待合場所でコーヒーを飲みながら他愛の無い話をする。
「そろそろ行くよ」
カミュが腕時計を確認して立ち上がった。俺も立ち上がって、しんみりしないように気をつけながら
「一週間、本当にありがとう。練習、付き合ってくれて助かったよ」
と言ってカミュの肩を抱いた。
カミュの手の平がパンパンと俺の背中を軽く叩いて、俺たちはもう一度お互いの顔を見合わせて口の端を上げあった。
ゲートの前までくっついて行って、身体検査と荷物検査を無事カミュが通り抜けるのを見届ける。
それじゃあ、もう行くよ、と小さくなったカミュの姿が手振りで合図をよこす。俺はそれに大きく頷いて、手を振った。
カミュの手も振り返された。
カミュの背中が完璧に見えなくなるまで、俺はじっとゲートの前に立ち尽くした。
そして、完全に赤毛のひょろっとした長身が見えなくなってから、俺は深く息を吸い込み、くるりと踵を引き返すと大きく一歩を踏み出した。

バカンスは終わりだ。
来月末にはようやくパガニーニ・コンクールがある。
全力で挑む。
そう決めているから、今はカミュと別れてしまう事も悲しくはない。
全力で向うために必要なものは全て貰った。
15のカミュの決断、17でのカミュの絶望、ありとあらゆる愛情を注いでくれたカミュが居るから他のどんな評価も気にならない。
ただ、挑むだけだ。
その年で賞取りか? と言われる。
挑戦するには確かに人より遅いけれど、人より遅い早いで自分がそれに挑戦するかどうか決めるもんでもないだろうと思う。キャリアがないからこそ、形になる分りやすい結果が若い奴等よりよっぽど必要だっていうだけだ。
挑戦する前には何処にも敗者なんかいない。居るとしたら、それはその人が自分を敗者にしてしまっているだけだ。
そして、競争に順位がついたとしても、本当はその順位で勝者と敗者が決まるのじゃない。
自分の存在を、どのくらいその一瞬に刻み込めるか、永遠に届く事が出来るかただそれだけだ。
この自分の体と、楽器と魂で、大地に深く杭を打ち込み砕くように、絶対的な何かに挑む。
挑みたい。
……カミュ、ありがとう。
カミュのくれた翼、17の時必死で手の中に握り締めたよ……。それは俺の心の中に根を生やし、俺の体を突き抜けて、今、俺の背中で広がっている。
例えカミュが何処に居ても、誰かに聞かせる為に楽器を弾くときは、いつでもカミュ、お前の事を一番に思い出し捧げるよ。
カミュの失ったものが、それで少しでも癒されればいい。
でも、そうでない時は……

一つしか持っていないサングラスをカミュに奪われて、裸眼で空港の外に出ると、今日も快晴のイタリアの空はいつもよりずっと青く明るく見えた。
もう少ししたらカミュはあの空の上に行く。
俺は、地面の上を移動して歩く。
また今度会う時も、カミュのたくさんの笑顔を作れるように、
まずは今日の、この一歩を歩こう。



 ・Vacances エピローグ:カミュ編