リンゴの木が倒れて、まだ少し青かった実を収穫してから、矢代さんは毎日のようにリンゴのレシピで何かを作ってくれる。
こちらに来て、二人で暮らし始めた頃、掃除洗濯や食事づくりなど身の回りのことは全部やるつもりでいた俺に、矢代さんが言った。
「いや、メシは俺がやるから。掃除洗濯は、週末に二人でやればいいだろ?」
「えっ……それでは矢代さんの負担が……」
「お前よか俺の方が時間自由になるし。会議とかリモートでほとんどいけるからな。あと、お前メシ作んの下手そう」
「…………」
確かに俺も食えればいい、のレベルだが、矢代さんもたまに実験して不可思議なものを作る人なので、そのへんはどっこいどっこいなのではないか……と思ったが、黙っておいた。
なにより、仕事から家に戻ったら、矢代さんの手料理が待っている、というのは……
……気を抜くと口元がにやけてしまいそうだ。
とはいえ、いつもいつも任せっぱなしでは申し訳ないので、職場の同僚に聞いたアップルソース、を作ってみた。
Applesauce
リンゴの芯をとり、ひたすら鍋で煮つめる。砂糖は入れない。
これだけなのだが、なにしろリンゴが小さいので、数が大量に必要だ。
皮をむくとなくなってしまうので、そこは諦めて芯だけを取り除き、鍋で何度も火を入れながら煮詰めた。
アイスクリームに添えて食べると美味しいというので、やってみる。
試食用に矢代さんに持っていったら、矢代さんに大笑いされた。
「そのうち絶対なんかリンゴで作ってくるだろ、でも絶対焼きリンゴかアップルソース、って思ってたらガッツリそれでおかしーーーー!」
「……すみません……あまり凝ったものは……」
「いいんじゃねぇの? シンプル・イズ・ベストだろ」
矢代さんは一口口に入れて、少し驚いた表情をした。
「すげーな、リンゴ! 何にも入れてなくても、こんなに甘酸っぱいのか! 味なんか、あんなに煮たら飛ぶかと思ってたわ」
「……たしかに、砂糖いりませんね」
「てか、これ、アイスいらね」
矢代さんは、アップルソースを詰めたメイソン・ジャーを手にとって、そこから直接舐め始めた。
「うん、やっぱこの方がうめぇ!」
……
そういえば、アップルソースは、子供のおやつだと、職場の仲間が言っていたが。
こんなに可愛い顔で舐めてくれるのだったら、もう一度作ろうか(笑)。
あっ! オマエ、なに人の日記に勝手に書き込んでんだよ!!
でも、あのアップルソースはマジうめーわ。
まー皮剥いてねぇのがオマエらしいけど(笑)
すみません、リンゴが小さすぎて、皮まで剥いたら身がなくなってしまうので……
……まさか、キッチンに散らばってた厚さ1センチのリンゴの皮、オマエが皮剥こうしたドリョクの痕跡だったりする?!
俺はてっきり、あの皮を使う料理を何かすんのかと思ってたわ(笑)
……今度から皮剥き器使うことにします……(汗)
やってやろうか?(笑)
俺、ナニの皮剥くの得意だしwww
……やっぱり俺がやります!!!!!