滅多に家を空けることがない百目鬼だが、明日から4日間は研修のためポートランドに出張する。
まァうちの街は小さいので、どこへ飛ぶにも大体乗り継ぎが必要なんだが、今回はシカゴからポートランドへの直通便を使うので、シカゴまではバスで移動、ということになった。
直通便はシカゴ発午前9時の一便しかないので、2時間前に空港に到着しようと思うと午前7時着。
ということは、ココを出るのは朝4時出発のバスになるので、家は3時半に出なければならない。
思いっきり夜中じゃねーか!
百目鬼は遠距離バスの乗車場所までタクシーを呼ぶとゴネていたが、今月はイロイロ出費がかさんでいるので無駄遣いの余裕はないと突っぱねたら、あの地蔵顔が、恐怖と不安と何だかよくわからない不可思議な表情で激しく歪んでいた。
いや、そんな顔しなくても……。
その時間なら他に車通ってねぇから、他に当たりようがねんだけど?
さて、出張といえば、何をおいてもまず必ずやるべきなのは、最初1〜2日分の食料を確保することだ。
日本と違って、出張先で簡単に買い食いができるとは限らない。
単に店がないこともあるし、あっても日の高いうちから閉店して到着した頃には何も買えねぇ、なんてこともザラだ。
というわけで、とにかくコメ食ってりゃ幸せなコイツのために、鳥飯を作ることにする。
銀杏がないので蓮根ブチこんだら、なんかちょっと(いやかなり)違う感じになったが、まぁいいか。
ゴボウ買ってくんの忘れたのが痛い。
とりあえず8個くらい握っておいた。ホテルの部屋は電子レンジがあるらしいから、ついたらすぐに冷蔵庫に入れとけば2〜3日は食えるだろ。
大きさがマチマチなのは見なかったことにする。
あとは……ゆでたまごでも持たせるか?
Walmartで衝動買いした10ドルのゆでたまご製造機だ。
この計量カップのケツについてる針をタマゴの底にぶっさして穴をあける。
あとは穴を下にして卵を立てて、計量カップの指示通りに水を入れてスイッチを押せば、10~12分後にはゆでたまごができる、というシロモノ。
10ドルだしこんなんオモチャだろ、と思ったが、コレが案外と使える。
茹で具合を決めるダイヤルとかもナシで、卵の硬さは入れる水の量で決まるシンプル設計なのがいい。
ただし、調理完了のブザーは核兵器発射ボタンかよ、ってくらいすげぇ音がするが。
百目鬼は何が何でもキャリーオンバッグ1つで移動するつもりらしく、持っていくものをとっかえひっかえ詰め直していたが、急にこっちを見上げて言った。
「矢代さん、……その……明日の夜は、電話しますから!」
「はぁ? 1日中研修会で、朝は6時半開始とか正気の沙汰とは思えねぇカリキュラムなんだろ? 夜はさっさと寝ろよ」
「いえ、それでは、……1日おき、が……」
「……? なんの話だ?」
「毎日は体に障ります、と以前言ったら、それなら1日おきだ、と、あなたが……」
………………。
そんなこと、言ったか?
……自分の言ったことって、……案外、忘れるよな。
しかし、電話する、ってことは、……
……もしかしなくても、テレホン○○○○やるつもりなのか?!
いえ、普通に、顔をみて話したい、と思っただけなんですが!
……………………。
……いや……本音をいえば……バスローブ姿のあなたの顔を見たいです……。
オマエ、だんだん欲望に素直になってきたな?(笑)
やっぱ、お前のシュミってそーいう系……
どっちが先に相手を電話越しにイかせられるか、競争すっか?(笑)
いいんですか? そんなこと言って。
耳は、あなたの方が、弱いですよ?(笑)