#6 参鶏湯と Apple Pancake

 

西海岸から中西部に向かうフライトは、飛行時間4時間に時差2時間が加わって、搭乗時間と現地到着時間の差は6時間になる。
そんなわけで、百目鬼が昨晩帰宅に選んだフライトは、現地を夜中の12時に出発する便だった。
国内の移動なのに、前日の夜中に出てシカゴに着いたら翌朝6時、というわけだ。
最初の頃は、この時間の感覚にあまり慣れなかったが、出張の際には１泊分宿をとるのが少なくて済むので、なかなか便利だと思うようになった。

シカゴから先は、また3時間かけてバスでウィスコンシン州まで帰ることになる。
バスの出発時間が朝7時なので、百目鬼がほぼ8時間の帰路を経てこの街に辿り着いたのは朝の10時だった。
飛行機やバスの中で寝るといっても、エコノミークラスの座席であの巨体が綺麗におさまるわけもなく、あまり眠れてはいないだろう、と、寝室の暖房は切らずに温めておいた。
他の車とぶつからないように一応注意しながらも、到着に合わせて迎えに行ってみれば、バスを降りてきた百目鬼は青い顔をしている。

 

「なんだ？　どーした？」
「……いえ、ちょっと……バスの中かかなり寒くて……久々に酔いました…………」
「エッお前でも乗り物酔いとかすんの？！」

 

茶化してはみたものの、本当に気分が悪そうなので、とにかく荷物をトランクに積んで車の助手席に押し込もうとしたが、「自分が運転する」といって人の体を押しのけようとする。

「俺の愛車にゲロ吐かれたらたまらんからお前はコッチ」

無理矢理手首を引っ張って助手席に引き摺り込み、問答無用で車を発進させた。

 

気分が悪いなら黙っていればいいのに、掠れた声でぽつぽつとこちらの様子などを訪ねてきて、その声が絶妙なエロさで、背筋にゾクリと何かが走った。
……弱ってるコイツも、悪くねぇな。
我ながら酷いことを考えている自覚はあるが、いつも頑丈な奴の掠れた声というのは、なんというか、嗜虐心をそそる。
やっぱ俺、Sでもあるんだな、と、結構どうでもいい事を考える。
しかし、寒かった、というのは本当だったようで、車の暖房を爆上げにして汗が出るほどの温度にしてやったら、次第にその声は力を取り戻し、家に帰るころにはほぼ普段のコイツと変わらないくらいまで復活していた。

 

「とにかく、冷えたんだろ。風呂入って寝ろ」

 

まだ朝の10時半だが、今日1日暖かい部屋で寝かしとけば、まぁ風邪ひかずに済むだろ。
そう思って言ってやったのだが、どうやら復活してきたらしい百目鬼はなにやらぐずぐずしている。
そのうち、「矢代さん、朝食は」などと言い出すので、はぁ？　と思わず声を上げてしまった。

 

「酔いはさめたのか？」
「はい……だいぶ良くなりました」
「……腹減ったのか？　なんか、食えそう？」
「えっ、……あの………………はい❤️」

 

……あっそ。
そんじゃ、まぁ、体があったまるもんでも作るか。

 

そんなわけで、風邪ひいたあとにいつも作る参鶏湯もどきを作った。

 

材料

• 大根とか白菜とかとにかく野菜
• 千切り生姜
• 鶏胸肉
• 梅干しのタネ沢山　＜　弁当のおにぎりに入れる梅干しの使い残しを捨てずにとっておく
• ネギ
• オーツ麦
• チキンスープ（顆粒）
• ホアジャン（粒、茶葉パックに入れて取り出しやすいようにしておく）

もともとはレシピを見て作ったもんだが、色々弄ってるうちに本場韓国のものとは全く違う味になっているのでもどき、としておく。
ホアジャンは、体あっためるのにいいかと思って適当に足した。

1. 野菜と千切り生姜、梅干しの種、ホアジャン、チキンスープ、塩胡椒した鶏胸肉を丸のまま湯に入れて沸かす。
2. 湯が沸いて2分くらいしたら鶏胸肉を取り出して冷ます。冷めたら細かく割く。ネギは小口切り。肉がまだ生だが、どうせ鍋に戻すのでまあいいことにする。
3. 野菜が煮えたら香り付けのホアジャンの袋を取り出し、オーツ麦をぶちこむ。オーツ麦は2分も煮ればそこそこ柔らかくなるから、その後鶏肉とネギを鍋に戻す。鶏肉に火が入ったら火から下ろす。

 

「美味しいです……汁物、4日ぶりに食いました……」
「あー、まぁ、出張ってそうなるわな……」

 

 

「そういえばチェーンソーマンはじまったんですよね」
「あ、それな！　なに、お前画面見て大丈夫なの？」
「はい、……矢代さんのおかげで、もう気分よくなりました」

 

さよか。オマエもたいがい現金だなー。
MAPPAが相当気合い入れて作ってると評判なアニメを見て、すげーなー、なんて言いながら食ってたら、まだ百目鬼が「甘いものを買ってくればよかった……」とかぼやく。

 

オマエ、もうすっかり、ここでカウチポテトする気だろ？！
まぁ、まだ日曜の朝だし、コイツ、月曜はオフだから、……ま、いっか。

 

「……パンケーキなら材料あるけど」
「えっ……いいんですか？」
「そのかわりリンゴ入りな」

 

小麦粉と重曹で作るレシピもあるが、面倒なので、買ってきたパンケーキミックスで。
ちなみに、パンケーキミックスは、絶対に、このブランドのものしか買わない。

 

 

なんでかっつーと、、、コレのせいだ。

 

 

なんで塩が入ってんだ、てのはともかく。
これ以外のブツを買うと、ここが、なんと21％とかになっている。
味がどうの、って以前に、しょっぱくて食えるかこんなん！！！　てレベルだ。
アメリカ人の味覚、ホント、わかんねぇわ……。
（ちなみに単位は1日の推奨摂取量なので、ホットケーキミックスの重量７％が塩、ということではないらしい。21％知らないで食ったこともあるが、なんか配合間違えたんじゃねぇの？　ってくらいしょっぱかった）

 

とにかくリンゴを消費せねばならんので、リンゴのバターソテーにシナモンをぶちこんだものを、パンケーキミックスに投入して焼く。

 

ちっせーパンケーキ何枚も焼くとか面倒すぎるので、でかいのを二枚焼いて、適当に自分で切って食うことにする。

ハチミツは、この家を買ったときに世話になった不動産エージェントが、自宅の庭で採れたハチミツをもらったものだ。
そのうち、養蜂やるのもイイかもな。

 

 

食ったら満足したのか、百目鬼はようやくベッドルームに引っ込んだ。

ま、今日1日は、ゆっくり寝かせておいてやるか。

 

お疲れさん。