火災報知器が鳴った。
家の、ではなくて、職場の、だが……(汗)
昨夜寝不足だったので、仕事がはかどらず、何時もよりも帰宅が遅れてしまった。
学生が帰宅した後、研究室に残り、出張報告書を書いていたら、突如火災報知器が鳴り出した。
大抵は数分で止まるので、そのうち誰かが止めるだろう、と思いつつ、居座ること数分。
ベルは一向に鳴り止まず、考えてみたらもう6時を回っているので止める人間がいないのだ、と気付いた時、クラーク教授が血相を変えてやってきた。
「サガ、何をしているんだね! 早く脱出しなさい!」
その剣幕に驚いて、大慌てでコンピュータを鞄にしまい、部屋の外に出て異臭に気付いた、煙臭いというよりは、プラスチックのようなものが焦げるような匂いだ。どうやら、火災報知器の誤報ではなかったらしい。
咄嗟に避難経路を思い浮かべている間に、教授に手を取られて駆け出した。エレベーターの方へ行こうとするので、「階段はこっちです」と腕を引っぱり返し、非常階段への扉を開ける。幸い、階段に煙は回っていなかった。
一階に辿り着き、一息ついていると、消防車がサイレンを上げてやって来た。とはいえ、消防車から下りた消防員達にそれほどの切迫感はなく、外から窓を眺めても出火を思わせるサインはない。結局、約三十分後にサイレンは止まり、消防車は引上げていった。
さっさと家に帰ればよかったのだが、クラーク教授が心配げに建物を見つめているので(それは勿論、中に保存されている膨大な文献が消失したらお互い失業ものなのだが…)、何となく自分だけ帰る気になれなくて、最後まで見届けてしまった。
アイオロスはそろそろ家に帰り着く頃だ。幸い夕食の準備はもうできているので、 先に済ませてもらうよう留守電に入れていたら、教授から夕食に誘われた。
教授お勧めの店の、ラムのミントソースはとても美味しかったけれど、自分だけコースを食べてアイオロスはカレーだけ、というのは少々気が引けた。まあ、それなりに上品な量だったから、あれっぽっちでは食べた気がしない、とロスなら言うだろうけれど。
ところで、今気付いたが、クラーク教授、咄嗟に私のことをファーストネームで呼んだような…??
いつもは、「チェトウィンド卿」と呼ぶんだが……
(もっとも、私としては、称号で呼ばれるのはかなり後ろめたさがあるので、ファーストネームの方がむしろ有り難いのだが。)
へぇー、
俺は誰かさんと昨日、朝の四時まで掛かって鍋を磨き、そして作ったカレー(細切れの豚肉と殆ど形の溶けた馬鈴薯と溶けた玉葱とフリッジの在庫品だった溶けたセロリと崩れた人参)をテレビと一緒に食べたけどね。
ウサギのトイレの掃除をし、エセルを撫でて居たこの間に、俺の好きな「ラム」を、連れ添って10年以上の誰かさんは、相変わらず危機感持たずに例の「教授」と「お食事」ですか。
へぇー。
ファースト・ネームで呼ばれる事も嬉しいみたいだし?
ヨカッタねぇ、「嬉しい」事ばかりで?
綽名は「火事を呼ぶうさぎ」ってトコか?(笑)
いや、その……。
君に留守録を入れていたのを教授に聞かれてしまって、食事を家でとらないのなら、と誘われて断れなかったんだ…(汗)。
だって、食事が遅くなったらそれはそれで、君は不機嫌になるじゃないか…
でも、確かにラムを一人で食べて来たのは申し訳なかったよ。今度の週末は君の好きなメニューにするから。
それで機嫌直してくれないかな?
メニューの決定権と、今晩と明日の晩全面的にこちらに付き合う、という所で手を打とう。
え……(汗)?
………週末じゃだめ?(汗)
(昨日も寝てないのに……(涙))
お前さんね…他の男の臭い付けて帰って来たらどうなるか知らないわけじゃないでしょ?常識でしょ、これ。
伸ばしてもいいけど、利子大きいと思うよ?
週末プロムスに行きたいんじゃなかったっけ?
本当に食事しかしてないんだ!
匂いなんて着くわけが……!
嫌だなんて全く思っていないし、その、ロスと一緒に寝るのは好きだけど、でも本当に今日は眠いんだ…(困)
起きろと言われても、途中で寝るかも……
いいですよ? 途中で寝て下さっても(寝れれば)。
お姫様にはお眠りあそばされても、また別に色々と御仕えする方法も御座いますから。お気遣い無く。(にっこり)
ちょっと待て、それって、まさかまた写真……!!
あっ……まだ準備が……先にシャワー!!
スーツが汚れる!!
ちょっと……!!
(場外退場)
(浴室に銀毛うさぎを追いやって)
明日またその教授に会う奥さんに、所有印なり所有された現実を見せないでおいてどうするんだ?
どうして今日やる事に意義があると分からないのか不思議。
それで自分はY染色体の持ち主だと主張するのだから困ったものだ。