ドクターに時間を取ってもらい、薬の変更についての話をしてきた。
世話になっている大学病院は、Special Species (うさぎ、フェレット、は虫類など)部門が充実している事で知られている病院で、ドクターも二人いるSpecial Species専門のうちの一人だ。
その専門家に処方箋についての疑問をぶつけるというのは並大抵の事ではなく、昨日一日かけて、獣医学部の友人の助けを借りつつ文献を調べた。
結果、論文から分かったことは、
- E-cuniculiの有効な治療薬に関する論文は大変数が少ない。
- 唯一の生体に対する実験結果を公表した論文では、fenbendazoleの有効性が認められており、副作用はないとされている。albendazoleも有効である(元来は人間用の薬)が、胚毒性や催奇型性の懸念があると述べている(別論文からの参照)。
- 試験管実験の論文では、oxibendazoleの有効性も示されている
ということのみで、これだけではalbendazoleの使用に疑問を呈するには弱い。
そこで、oxibendazoleで検索をかけたところ、いくつかのサイトでこれらの三種類の薬の比較について述べられていた。(ただし出典は不明であり、ウサギを多く診ている獣医の経験や、House Rabbit Societyでの経験蓄積によるところが大きく、情報の確かさについては何ともいえない)
簡単にまとめると、
ベンダゾール系一般
- E-cuniculiに対する治療の有効性は認められるが、長期の使用で肝臓の酵素値が上昇する恐れがある。
- 長期の使用では、だんだん効かなくなってくる傾向がみられる
albendazone
- albendazoleは肝臓で親水性物質に分解する事が知られている。この親水性物質はbrain-blood barrierを通過しにくく、このため脳内まで届きにくい。また、この親水性物質のE-cuniculiに対する有効性はよく知られていない。
- 長期(6週間もしくはそれ以上)の投与でbone-marrow failure(骨髄異常)やacute death(突然死)の恐れがある。(ただし、医学的にalbendazoleとの関連性が証明されたわけではない)
- ベンダゾール系では唯一吸収が早く、体から除去されるのも早い。
- 一般にoxibendazoleより効きが悪い。
oxibendazole
- 元来は、馬用の駆虫剤である。
- albendazoneに比べ親油性であり、体内(肝臓内)で分解しない。
- brain-blood barrierを通過するため、脳内や神経系にまで到達できる。
- E-cuniculiに対し有効性を発揮する適量がよく分かっていない。
- HRS (House Rabbit Society)では90年代後半からメンバーによる使用が始まり、経験的に多くの成功を上げているようである。
fenbendazole
- もともとはウサギ蟯虫を駆除するための薬で、古くからウサギには使用されている。
- ネズミでは、brain-blood barrierを通過する事が知られている。
- 2001年に発表された論文で、臨床実験での有効性がはっきり示されている唯一の薬。
- 長期の使用で、まれにbone-marrow failure(骨髄異常)、食欲不振、下痢などを起こす恐れがある(関連を証明するデータはない)
というわけで、この時点で我々の考えはほぼoxibendazoleに変更してもらう事で決まっていた。
ドクターは女性で、真夜中3時の急患の知らせに病院に駆けつけてくれた人だ。忙しい事は重々承知なので、失礼のないように、以下の質問を用意していった。
- 眼振は止まったようだが、めまい用の薬(Meclizine)を止めても良いか。
- 血液検査(PCR)の結果、陽性となったからには一緒に飼っている他の2匹が心配だが、検査を受けた方が良いか。
- 昨日発酵した盲腸糞のような粘り気のある糞をしたが、大丈夫か。
- oxibendazoleへの移行についてどう思うか。
ドクターは、こちらが用意していった論文や資料の数に驚きつつも、非常に丁寧に回答して下さった。
- 眼振については、症状が治まって水や食物を口に出来るようになったのなら止めてかまわない
- 血液検査については、やりたければやっても良いが、陽性であったからといってどうする事も出来ない。E-cuniculiが完全に駆除されたか否かを知る方法はなく、体外に排出されなくなったからといって本体から完全に駆除されたという保証はない。症状が出ていないのであれば、体調不良にならないように気を付ける事しか出来ないのではないか。
- 粘りのある糞は下痢であると思われ、これは想定の範囲内である。最初、固く水気のない糞をするが、回復してくると下痢の時期があり、これを超えるとまた元気になる。
- oxibendazoleについては知っている。だが、経験によれば、albendazoleが一番効きが良い(スポアの量を減らす力が強い)。oxibendazoleも効くが、albendazoleより緩やかである。fenbendazoleについては、副作用がないと一般に思われているが、公表されていないだけで一番危険だとの認識を持っている。現在のところ、自分がalbendazoleを処方したウサギで副作用のトラブルに見舞われた例はない。しかし、oxibendazoleへの移行は問題ないと思われるので、希望があれば処方する。
実は、もともとalbendazoleに対する不信の理由の一つが、あまり効果がみられないように感じた事だった。めまいが治まることで少し元気はでたが、バランスを崩して上手く動けない状態はそれほど変わっていないし、頚の傾きも改善しない。ところが、今朝になって、ロスは急に回復の速度を上げた。まず、朝起きてみたらペレットが5gなくなっていた。これまで、散々気を通しても1粒2粒が限度だった事を思えば、大変な進歩だ。それから、殆ど一日狭い隙間に挟まっていた状況から、少し外に出て眠る姿が見られるようになった。これは、バランス感覚が回復してきて、支えがなくとも眠れるようになった事を意味する。
昨日は湿度、気温ともに高く、ウサギには酷な環境だった。今日は気温が下がったので、少し元気が出て来たのかも知れない。
だがそれにしても、薬が効いている事は、間違いなさそうだ。
ドクターの返答を持ち帰り、アイオロスと話し合った結果、折角今効いて来ているものをすぐに変えるのはよくないだろう、という結論になった。
吸収が早いのはalbendazoleだというから、ロスのように本当に突然急性症状を呈した場合には、実は一番最適の選択だったのかも知れない。oxibendazoleの効きについては、ドクターとHRS内での認識とは差があるようだが、個体差や処方量の差が関連している可能性はある。
結局、albendazoleも長期使用しなければ問題ないだろうとのことで、oxibendazoleへの切り替えは一週間後に延ばすことにした。
現状、ロスの肝臓や腎臓のあたりに手を当ててみても、それほど悪い感じはしない。一緒に飲ませているロイヤルゼリーは、かなり肝臓や腎臓の働きを助けるので、毎日気を通して強張りを解いてやれば二週間くらいは悪い物質も排出してくれそうな気がする。
何にせよ、ロスには薬が効いた。これはまぎれもない朗報だ。
ドクターもそのことを一番に喜んでいた。
この場合、辿る道は二つしかない。薬が効けば、徐々にだが回復するし、効かなければ、殆どの場合助からないからだ。
家に戻ってみると、ロスは朝よりも更に回復していた。久しぶりにみたえせるに興奮したのか、縄張り主張の行動も見せた(匂いをつける、尿を飛ばすなど)。漸く、細い綱の上を渡っている状態から開放された、と感じた。盲腸糞も、壁によりかかりながら、自分でちゃんと肛門に口をつけて食べているようだ。
成程、下痢をして、回復すると元気になるというのは、人間と同じであるらしい。
一昨日から昨日あたりまで、ロスの尻尾の付け根、つまり尾てい骨の部分に、小指の爪の先が潜り込める程の小さな冷たい風穴があった。二日間、集中してそこに気を通したが、今日はもうその風穴がなくなっていた。後で調べてみたら、尾てい骨は脳に直結しているとのことだった。真似事でもいいと始めた愉気だが、どうやら勝手に手が判断して正しい場所に導いているらしい。
また、背中からみて右側、中央の一番背骨が盛り上がった場所の横と、左側、もう少しそれより尻に近い方に冷たい部分があり、何故少し前後にずれているのか不思議に思いながらも愉気をしていたら、なんとウサギの腎臓の場所は左右で前後にずれていた(殆どの動物はずれているが、ウサギは特にずれが激しい)。右腎は第二腰椎、左腎は第四腰椎に終端が来るとのことで、まさしく手が当たった所に相当する。ロスが進んでその部分を手に当てて来た事もあるが、素人でも無よりはまし、といういい例だろう。
兎に角、愉気というのはどんなに稚拙でも害がないのが有難い。今日は腎臓は二つとも問題なさそうだったが、久々に鳩尾に指を当ててみたら、胃の奥に冷たい点を感じた。奥にあるのは肝臓だ。薬を飲ませているので、特に念入りに気を通す。毎日、冷たい場所が変わる。そういう意味では、人間よりも、やはり経過が早い。
しかし、こちらもほっとして気が緩んだのか、それともロスの気に感応されるようになってしまったのか、愉気をしながら居眠りするようになってしまった。
何とか、明日は仕事に行けそうだ。