もしもし? エセルさん??

昨晩の事。
エセルが俺の携帯に電話を寄越した。俺の方からはわりとちょくちょく掛けるが、あいつのほうからというのは珍しい。


で、出てみたら、
「小鳥を拾ってしまった」
だった……。
も、もしもし?
小鳥というのは、空をピーチクパーチク飛んでいるものであって、道端で拾えるものではないと思うんですが??
まあ、話を聞いてみると、バスを降りてチューブの駅に向かう途中、歩道の端でぐるぐると回っている小鳥を見つけたのだとか。
その様子が、エンセファリトゾーンを患った時の茶チビの様子と酷使していたため、捨て置けず拾ってしまったとの事。
それから俺も事務所を引き上げて、一足先に自宅に戻り待機していると、青ざめた顔をしたエセルが帰宅した。
ボールのように丸められたハンカチを、エセルがそっと俺の鼻先で広げると、そこには首を捻て、体もS字に曲げて目を瞑りじっとしている小さな鳥の姿があった。
鈍い緑がかったカーキ色の羽毛に、胸元が濁った黄色味の強いカーキ。
こんな鳥は見た事がないな、と思っていると、
「嘴は黄色くないから、雛ではないと思うのだけれど……」とエセルの声。
なるほど、確かに細く尖った嘴は黒い(多分)。
うさぎの移動用ケージにタオルを敷き詰め、その中に鳥を入れる。
ピクリとも動かないが、腹のあたりは膨らんだりへこんだりしている。
弱っているのか、ただ単に寝ているのか、判断に苦しむ。
その間、病院に連れて行くかどうか、エサはなんなのか、野鳥を保護するシェルター、などネットで調べたが、いずれもはっきりせず、結局、色々議論した結果一晩様子を見、翌朝生きていたら病院に連れて行こう、という結論に落ち着いた。
もしこの状態が、回復を図って休息しているのではなく、衰弱している状態であれば、今病院に連れて行き、診察を受けさせ体を探られるのはストレスにしかならず、それは最期の安息の瞬間を苦しめるだけに終わるのではないか、というぷちえせるの時の苦い経験からだ。
もちろん、翌朝まで待たず、今すぐ連れて行けば耐えられる体力があるかもしれない、という判断もあるのだが。
ここらは、どうにも素人判断では決着が付かず、あたたかく柔らかなベッドで、最悪の場合でも静かに安心して逝く事ができるだろう、あのロンドンの雑踏の中よりは、という事で折り合いを付けた。
さて、今朝、病院が開きそうな時間の少し前に起きてタオルケットを被せておいたケージの中を覗く。
動いていない、ように見える。
しかし、昨晩最期に見た場所と違う場所に居る。
なおも注意深く観察してみると、腹がふいごのように動いているのがやっと目視できた。
安堵してエセルを起こしに行くと、エセルも直ぐにケージの中を覗きこんだ。
すると、明るくなったからだろうか、鳥は目を開き、ケージの中をくるくると歩き始めた。
くるくると歩いているのは、片足に不調があるせいなのだが、昨日エセルが見た斜頚の様子はそれほど感じられない。
なおも観察を続けると、ケージの格子の穴からするりと顔を出し、あっというまに潜り抜けた。
台所から水切り網を持ってきて被せる。
水の入った小皿もケージから出し移す。
網の中に居る鳥を前に、30分は議論を重ねたか。
飛べるかどうか確認をしてみよう、という事になり、かごを外すと、なんとか羽ばたいた。
もと落ちていた場所に戻すか、どうか、という話ももちあがったが、階下のアパートの裏庭に放してやる。
二本の足を揃えてぴょんぴょんと飛ぶ様から、雀か? とも思うが、答えは出ない。
飛ばずに、二本の足で跳ねながら、庭草の中へと消えていった。
エセルは日に何度も窓から外を見てはどうなっただろう、と呟く。
まあ、一晩の宿を貸したと気楽に考えておけ、とだけ言っておいた。

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