昨日の続き

うっかりオレが呆然としている間に、カミュはシャワーを済ませて寝室に入ってきていた模様。
うっかりオレが、
「やべぇ……隠してあったのか……?」
などと口走ってしまったのをしっかりと聞いて、
「いや? 別に隠してないが。
前からそこにあったぞ?」
とは、人が悪いと言う以外になんと言うのか?(涙)


オレの手の中にあったアルバムを、するっと取り上げると、ぺらぺらと自分でも何枚かの写真を眺め、それから、「ポンッ」と音を立てて閉じると、もとあった場所に戻した。
「何? まだ見たかった?」
口を開けて、一連のカミュの動作を目ん玉だけで追っていたオレを、カミュは不思議そうな顔をして見つめてきた。
「え……いや、もう全部見たから……」
って、オレ、何言ってんだ??(涙)
これは、これで、この件は終わりなんだろうか?
もう口を閉じて、忘れた方がいいんだろうか??
半分パニクりかかっているオレに一行に気付いたふうも無く、カミュは予備のマットレスを引きづり出して寝る場所を作り始めた。
さっさと動くカミュを目で追っていると、時計が目に入る。
もう1時を回っている。
やっぱり一緒のベッドで寝るのは無しか……。
のろのろと今まで胡坐をかいて座っていたカミュのベッドから下りると、カミュを手伝って薄いマットの上に重ねられたブランケットをとマットを一緒に包むようにしてシーツでベッドメイキングを仕上げる。
カミュはクローゼットの中から枕と掛け布団を投げて寄越す。
切れ長の目が、とても綺麗だ……。
どんな時でも、どんな事をしていても、滅多にこの鋭くてまっすぐの眼差しは崩れたりしない……。
なんだか、溜息が零れた。
そろそろと出来立てのベッドの上を這い進んで、クローゼットの扉を閉めようとしていたカミュのアキレス腱に唇で触れた。
スジがすーっと入っていて、引き締まった綺麗な足首だ。
首を伸ばして足の甲と足首の付け根に唇を当てて、軽く吸って舌先で舐めた。
カミュって、足の形が抜群に綺麗なんだよな……。
間近に見えるカミュの皮膚。
その薄い皮膚を持ち上げて細い足指の骨が流れるように足先に下っている。
じりっ、と上半身をさらに伸ばしてその骨の薄いふくらみをさらに舌で追い始めたら……
むぎゅっ!
「ぐえっ!」
カミュが反対側の足で人の背骨を踏み付けた。
「何をしてるのかな? その口は?」
柔らかく、でも厭味っぽい口調でそれだけ言うと、さっさとさっきまでオレが舐めていた足を引き上げて、
「明日は早いんだろう? もう寝ろ」
と言うと、ポンポン、とその足でオレの頭を軽く叩いて(蹴って?)自分のベッドに上がろうとした。
咄嗟に、その片足を掴む。
バランスを崩したカミュが、寸での所でベッドに両手をついてオレの上に倒れるのを持ち堪える。
「おまえはっ! 危ないだろう!」
カミュの言葉を無視して、両手で掴んだカミュの右足を更に引き寄せて踵に唇をつける。
踵から、土踏まずの窪み、それから親指の付け根の膨らみ……。
と、突然カミュの足が跳ね上がり、手からすり抜けて……
次の瞬間、カミュは尻餅をついてベッドからずり落ちていた。
「何をするんだっお前は!! くすぐったいだろうがっ!」
カミュが片手に持っていたフリースのブランケットがオレの顔に直撃する。
「だって、悲しくなったんだから仕方がないだろう……!」
ベッドと簡易布団の狭い隙間に嵌って、不自然に九の字に曲がったカミュの腹の上にオレは圧し掛かった。
はあ? とカミュの声が降る。
写真のカミュは、破顔して笑ってた。
多分、大学の同級生なんだろうけれど、でも、女の子とじゃなく、男と一緒に腕組んだり、ほっぺたにキスしてやったりして……でも機嫌良く笑ってた。
なんだよ、オレが同じ事しようとしたら、物凄く怒るくせに……。
極めつけの数枚は、きちんと正装したロスと腕組んだり、腰に手を回されたり、仲良くデートしています、といった風の写真で……。

いくらなんでも胃が重くなる。

ただ困惑しているのか、静かになったカミュの上半身に覆いかぶさって、カミュの視界を自分の掌で隠す。
カミュの鼻先と唇だけが見える。
その鼻の頭にキスをしてから、カミュの唇に自分の唇を押し付けると、諦めたような溜息を一つ微かについて、体の力を抜いてくれた。
ゆっくりと崩れるカミュの体を覆うように自分の体を重ねて出来たばかりのベッドに押し倒す。
カミュの歯列と自分の歯列がぎりぎりまで組み合わさり、二つの口の中が一つのトンネルのようになって互いの舌が行き来する。
カミュの耳に、喉笛に、鎖骨の窪みにキスをする。
カミュの両手がオレの髪を弄る。
まだ右手をカミュの目の上に置いたまま、カミュの服をたくし上げ、脱がそうとする。
と、カミュもオレの服を脱がそうとして、オレの右腕が邪魔になった。
「手、退かさないのか?」
カミュが宙で腕を止めたまま言う。
「じゃあ、電気、消してくるから、目、瞑ってて」
オレは、そっとカミュと温度を分け合っていた右の掌を、カミュの皮膚から離し、閉じた両方の瞼にキスをしてから、そっとその瞼を撫でて立ち上がる。
壁のスイッチを押すと、パッ、と灯りが消えて辺りから色が失われる。
そっと、カミュの側に戻ってカミュの瞼を撫で付けながらその体に腕を回すと、暖かな溜息がカミュの口からふわっと漏れ、カミュの腕の重さを背中に感じる。
「珍しい。いつも灯りなんか気にしないくせに」
微かにカミュの声には笑いの色が滲んでいた。

だって、仕方が無いだろう?
情けない顔してるの、見られたくなかったんだから……。

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