先週からダイエット(ペレット抜き)の食事制限をしているロスが、「もう、オレ、生きる希望が無い。オレは見捨てられたんだ」といじけてしまっている。
どんなにお腹が減っても頑として牧草を食べてくれない(溜息。本当に名前が悪かった…)。彼の糞はどんどん小さく硬く、いびつなものになっている。
金曜の晩、彼が比較的食べていたチモシーヘイを購入するべく、仕事帰りにいつも行っているペットストアへ。すると、「失礼ですが…」と、クリニックの制服と思われるものを身にまとった女性に声をかけられた。
「ただ今クーポン券を差し上げているのですが、差し上げても宜しいでしょうか」と。
聞けば、このストアのわずか一ブロック先に動物病院が開業されたとの事。
しかし、うちにいるのはうさぎなのですが……と相手の反応を伺うと(大抵の獣医は犬猫に慣れており、あまりうさぎには馴染みがないので)、我々がいつも世話になっている大学病院出身の獣医でうさぎ、ギニアピッグ、ハムスターも診察するという。
にこにこと愛想よく説明する女性が、さらに「今なら、こちらのクーポンで診察代から25ポンドお引きできるのですが」。
……ペットのお名前は? と尋ねられ、思わず「アイオロス」と答えてしまった……。
プチの一件で、やはり頼りになるのは大学病院のスタッフと設備との認識を新たにしたが、歯の状態を診てもらうだけなら街のクリニックでもいいだろう。
だって、25ポンド……。
財布にしっかりとロスの名前が記入されたクーポンとクリニックのカードを入れて店を出た。
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先週の晩、プチの娘三匹を出して就寝した晩があった。
翌朝、キッチンの横にある私の小さな仕事スペースは彼女たちの絶好のアスレチックとなり、色々と惨状と呼べる事態が繰り広がっていたのだけれど、一番驚いたことは、テーブルの上において置いたハーブキャンディーの包みが床に散らかっていた事だろう。
もちろん、中身は無い。
いや、一つだけ中身が床の隅に転がっていたけれど、あとはみんな見事に飴の紙包みだけだった。
うさぎのロスも柵を飛び越えて出ていたので、恐らく彼が食したのだろう。
合計十数個の飴。
その前は、朝起きたら三つのジャガイモが消えていた事もあった。
など等、そんな事が続いたのでうさぎのロスのダイエットを決意したのだけれど、昨晩、机に向かって講義のスケジュールを作成していた時、無事だったハーブキャンディーを一つ見つけ口に入れた。
すると、前足に小さなトゥシューズを履いた茶色のプロプシーが私の膝の上に飛び乗ってきた。
母ウサギのあの野性味の強い性格を引きついでいる彼女たちはなかなか人間に懐かない。
少しびっくりして、でもめったにない彼女からのスキンシップに嬉しくなり手を休めていると、プロプシーはさらに体を伸ばして後ろ足で立ち上がり、前足を私の胸にかけると小さな鼻をしきりにくんくんさせている。
何かの匂いを嗅いでいる?
さらにじっとしていると、彼女は爪先立ちになり、とうとう私の唇にキスをした。
すんすんと匂いを探す音付きの小さなキス。
……君、君もこのキャンディーを食べたね?
試しに小さなキャンディの欠片を指で摘んで鼻先に近づけてみたら、丸ごとぱくりと口の中に入れて持ち去ろうとした(勿論しっかり掴んでいたのでそれは許さなかったが)。
私の手から飴の塊を奪えないのを悟ると、彼女は諦めて一歩飛び退いたが、ミントが少々辛かったのかしきりに口の周りを両手で扱いている。そして、凝りもせずにまたトライ。
姿形はどちらかと言えば母親似、しかし悪食とそれに対する執着の強さはしっかりと父親ゆずりのようだ……(溜息)。
エセル!
いかに女同士とはいえ、簡単に胸を揉ませるな! キスなんか奪われるな!
それに、今、お前自分が舐めていたキャンディーをうさぎに舐めさしたな?!
そんなディープキスの真似事なんぞうさぎとするなっ(怒)