アイオロスが夜十二時半に帰って来た……。
仕事で遅くなることはあるが、明らかに夕食も取っていない様子で、しかも全身煙草臭い。
一応夕食を用意しておいたのだが、帰るなりこちらを見て一言。
「……まだ起きてたんだ?」
流石に少々頭に来て、食事をするか、シャワーを浴びて寝るか、どちらかにしろと言ったら、意外に素直にバスルームに消えた。
……よくない傾向だ。
いっそ、反撃して来る方がよほど安心なのだが。
椅子にひっかけた上着は煙草の煙にすっかり燻されていて、たった一枚で部屋の空気を汚染しつづけている。洗濯しても明日までには乾かないので、仕方なく絞ったタオルで布地を拭き、消臭剤を振りかけて我慢することにする。実際のところ、煙草も葉巻も吸えないわけではないし、少々なら鼻も慣れるが、物事限度というものがあるだろう…アイオロスのヘビースモーカーぶりは、明らかに健康を害するレベルだ。胸ポケットにまだほぼ新品の箱が入っていたので、取り上げて生ゴミのバケツに放り込み、代わりに禁煙パイポとガムを突っ込んでおいた。
…それにしても、この鬱屈をどうして発散したものか……。
もう三日目になるのだし、不満ばかり抱え込んでいるのならこちらも突き放せるのだが、どうにもその不満の向こうにひどい落胆と一生懸命何かを我慢している様子が伺えるので、いまひとつ強い事を言えない。
夜眠る時には一応こちらの顔を立ててくれているようだけれど、実際のところは心ここにあらず、といった状態だし……。
やっぱり、時間が解決してくれるのを待つしかないのだろうか。
それまでこの状態が続くのは、相当(いやかなり)きついのだが……(弱)
……先輩、大丈夫ですか?
チェトウィンド、奴はそうなったらかなり厄介だ。酒でも食らわせておけば、そのうちまた傍迷惑なほど復活してくるから放っておけ。
いや、それが、そのお酒も全く飲まないんだが……
あまり一人で飲む気分じゃないのかも知れないですね。今週末あたり、秘蔵のアルコールを持ち寄ってBBQ大会でもやりますか?
派手に呼びかけて誘えば、アイオロス先輩のことだから意地でも来るでしょう。断れば沈没中なのを公表するようなものですし。
俺は行かんぞ。
98年産のサンテミリオン出しますよ?(笑)
メインの目的は別にしても、久しぶりに飲みませんか?
勿論、先輩からも何か放出して頂ければ有り難いですが、何もなくても五、六人飲んだくれるくらいの在庫はありますから。
…えーっと、サガ先輩お疲れ様…兄貴の面倒有難う……。
あのですね、うちの家族の長男系の落胆はあんまり真面目に取り合わなくてもいいです…。ほんと、内輪話で申し訳ないんだけれど、今、家の親父も生ける屍状態らしいから…爺ちゃんも……なんせ「40年ぶり」がかかってたから……。爺ちゃんなんてサッカーが祖国に帰って来るまで死ぬに死ねないって言ってるし、親父あれでも大学までサッカーしてたし、ロスも多分、オケに入らなかったらサッカーやってたし(未だに家ではロスがオケに入ったのが七不思議)。
うん、なんか、そういう人達、人種なんだと思って一週間も放っておけば、そのうち仕事に鬼のように打ち込み始めるからあんまり深刻に取らなくていいですよ…(溜息)
それから、母からの伝言なんですが、そういう状態の時には何をやっても反論する気力がないから、何か大きな買い物がしたかったら今の内だとの事です。何か前々から先輩の欲しかった稀少本とかあったら、買ってそれ読みながら、兄貴の事はほっといた方がいいかもしれないです。