Crazy Night

嵐が漸く去った。
7/8日午前五時現在、睡魔で撃沈したのが二人、屍が三体、帰宅するまでに屍になりかねない危険なドライバーが3人。
絶対に帰ると断言していたシュラ先輩は、あまりの惨状に帰るタイミングを失い、アイオリアと共に気の毒にも貧乏クジをひいて今も片付けを手伝ってくれている…。
もともと飲んで騒いでアイオロス先輩に鬱憤を晴らしてもらうための企画だったんだが、終わってみると、はたして本当にここまで必要だったのか甚だ疑問が残る。まあ、たまにはこういうのも悪くはないんだが…。


そもそも、まず最初の出だしからして予想外の事件が連発だった。
アイオリアがまず一番に到着し、色々と準備を手伝ってくれたが、ほどなくしてスチュアート、マコーマック両先輩が到着、いきなり熱いエリクソン批判を展開。この二人も以外にイングランド贔屓だったのかと驚いていたら、ドウコ、シオン、ムウ先輩の三人組が到着して、サッカーのルールを一から説明しろと迫り(シオン先輩は何故ゴールキーパーだけボールを持ってもよいのか、キーパーが相手ゴールまで玉を運んでトライすれば一番簡単ではないか、と尋ねて来た…先輩…それは違うゲームです…)、アイオリアが説明要員に取られたため、食事の準備もままならぬまま、本日の影の主役アイオロス先輩とサガ先輩が到着。客人は既に今日の趣旨を嗅ぎ取っていたので、皆一斉に緊張したが、本人は何処吹く風で至って上機嫌、反対にサガ先輩は常にもまして白い顔をして疲れた様子…。
大体、こういう顔色の時は何が起こったか想像がつくけれど、本日はあまりにも明白な証拠付きで、思わずその場に居た全員が苦笑した(アイオリアはげっそりと、「ちったあ遠慮しろ」と呟いていたが)。サガ先輩の白い喉は、夏だと言うのに立襟のシャツとボウタイでかなり覆われていたが、それでも残る上半分は片手の指の数ではきかないキスマークの跡がのぞいていた。
何だか知らないが、どうやら先輩はアイオロス先輩を復活させるのに成功したらしい。じゃ、これでお開きということで、という訳には勿論いかず、食事を待たずに飲み始めてしまった客人を放って大慌てで前菜の準備をしているところに、道に迷ったというアンドリュー先輩を連れたシュラ先輩の到着。既に出来上がりつつある面々を眺めて大仰に眉を顰め、袋から出そうとしたダグラス・レインを仕舞いかけたが、いち早くスチュアート先輩が見つけて取り上げてしまった。
上級生の面々は既にまるで使い物にならないが、アンドリュー先輩とシュラ先輩に手伝って貰って漸くDinnerがスタート(サガ先輩も手伝ってくれようとしたが、シュラ先輩がサガ先輩の喉を見るなり不機嫌になり、具合の悪い奴は座っていろ、と一喝して終わる)。一応昨晩から仕込みをして、それなりに手をかけたんだが…参加者九人中既婚者は四人、普段ベーコンエッグとシリアルで生きている面々には、その時間を味わうゆとりは無かった模様。
あっという間に料理はなくなり、アイオロス先輩が勝手に冷蔵庫を開けて肉を焼き始める。リアが切れかけたが、とりあえず宥めて酒の管理を任せ、こちらはフレンチには終止符を打ってプレッツェルとディップソースを用意。この頃になると、既に最上級生組は意味不明の雄叫びを上げ始めていたので、気付かれないように未開封のワインのボトルを手元に移動。
夜中十二時頃、漸くフットボールのルールを理解したらしいドウコ先輩、シオン先輩、ムウ先輩が帰宅。誰が運転しても非常に危ない状況だと思うんだが…三度止めてもきかなかったので、もう好きにしてもらうことにした。
サガ先輩はこの頃になると更に顔色が悪化し、部屋を片付けながらも気分が悪そうだったので、そのまま寝室で休んでもらう。
午前二時、アンドリュー先輩がいきなり帰ると言い出し(それまでどうも殆ど寝ていたらしい)、シュラ先輩に止められる。…ナイトバスは走っているが、相当酔っているし、ここへ来るのに道に迷うようでは一人で帰るのは危険だろう…サガ先輩の隣で休んでもらうことに。
スチュアート先輩、マコーマック先輩は窓際にソファーからはぎとったクッションを抱え込み、半分夢の世界へ。
アイオロス先輩は、漸く今年のイングランド代表にかけていた意気込みを喋り始めた。彼は少年の頃、フットボールの選手になりたかったらしい。今年は人材は揃っていた。一人でゲームを変えられる人材が沢山いたのに、監督はそれらを全部まとめてピッチに放り込んだだけで何一つ調整しなかった。もうこんなチャンスはなかなか来ない、と最後は目に涙を浮かべて悔しがった。
アイオロス先輩が負けず嫌いなのは承知しているが、ここまでの熱は少々意外だ。彼は、人が戦うのを応援するよりは、自分が戦う方がよほど性に合っているだろう。現実に、彼は大学時代にアーチェリーでオリンピックの銅メダルを獲得している。最近は仕事が多忙でやっていないようだが、元アスリートの情熱が、イングランドの不発を嘆かせているのかも知れない。
先輩には人の勝負を見守るより自分で戦う方が似合ってますよ、と慰め半分、本気半分で言ったら、「そうかもな」と案外素直な返事が返って来た。
…まあ、これで、すっかり諦められるといいんだが……。
比較的冷めているように見えたリアも、仕舞いには熱弁を奮っていたから、やっぱりこの二人は同じ血を引く兄弟だということなんだろう。
さて、片付けは順調に終わり、リアが酒瓶をまとめ、シュラ先輩が今グラスを洗ってくれている…。双方とも奥方はきっと帰りを待っていただろうに、申し訳ない。リアはこのまま歩いて帰るとのこと。歩くと四十分くらいかかるが、酔い覚ましに丁度よいらしい。
先輩は始発で帰るというので、ソファで仮眠してもらうよう頼んだら、俺は椅子で寝るからお前がソファを使え、と短く返って来た。
なんでも、インターン時代には散々パイプ椅子で夜明かしをさせられたらしい……。
流石に自分だけソファで寝るのは気が引けるので、台所のゴミ箱の横で伸びているアイオロス先輩を無理矢理起こして、ソファへ連れて行く。シュラ先輩は放っておけ、と呆れたが、流石にゴミ箱の隣ではあんまりだ。重いので奮闘していたら、シュラ先輩も諦めたのか手を貸してくれた。
それにしても、今日のシュラ先輩も少々意外だ。酔い潰れたアイオロス先輩を助けるなど、これまでの定石からは考えられない。
…何か、「借りは返した」とかシュラ先輩が呟いたような気がするのだが…気のせいか?
何はともあれ、Crazy Nightは終わった。今日は三位決定戦、そして明日は遂にジダンの最終舞台でイタリアと当たる。
…ミロに電話する暇がなかったけれど、拗ねていないかな。

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