筆跡と思いの跡

木曜の朝、ローマに帰ってきた。
木曜の晩はカミュの仕事が夜だと言うことだったので、金曜の夜に電話してみた。


ちゃんとまともな物を食べてるか。
ちゃんと寝ているか。
そんな事ばかり聞かれて、カミュは? と聞いたら、笑って、あまり核心には触れさせないようにしっかりガードされてしまった。
寂しいんだよ、
一人の時間を持て余すよ、
どうしても考えてしまうよ、
そんな言葉が聞こえてくるようで、なんて言ったら少しでもカミュの気持ちが晴れるのか、懸命に言葉を探した。
でも、言葉だけで満足出来るなら、恋人なんて関係はやってないわけで……つくづく今年一年の下手を打ちっぱなしの自分の手が痛い。
っていうか、きっと、カミュはこれから先の事も含めてがっかりしているんだろうけれど……。
気の利いた台詞も見つからなくて、けれどなかなか電話も切り難くて、スカイプじゃないのに沈黙がちな電話を切った時は結構な時間が経っていた。
週末はローマを離れていて、月曜の晩に帰ってきたらカミュからの手紙が届いてた。
便箋一枚の、短いものだったけれど、ゆっくりと、丁寧に書かれた筆跡が懐かしい。
内容は土曜日をどう過ごしたか、そして溜まった借りの返し方の提案。もちろん、こちらに否やはな訳で……相変わらずの甘やかしの申し出に頭が下がる。
何か、それ以外にカミュを驚かせて、喜ばせるような事を探しておこう。
返事をしようかとスカイプを覗くと、カミュの方はオフラインになっていた。
当たり前か。今は午前一時を回ってる。
久しぶりのアナクロな伝達手段が、新鮮で少しいとおしかったから、こちらも「お裾分け」を同封して投函した。
呆れるか、小言が届くか。
楽しみかな。

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