海を越えてお持ち帰り

クリスマス・イブ、寝室でぐっすり睡眠を取ったサガを七時半に起こして、二日酔いや睡眠不足で足元ふら付いている野郎どもを総動員しての大掃除が始まった。


やりだすと細かいところでいちいち足止めを食らうサガを、カミュと一緒に台所に押し込んで朝飯の準備をさせといて、銘々がゴミ袋を持ってまずはゴミ拾い。
次に、雑巾とモップと箒ほ持つ人間に分かれてクリーニング。台所ではウォッシャー・マシンがフル稼働している。
洗濯に回すものは洗濯カゴに、とバスルームに足を踏み入れたデスが、素っ頓狂な声を出した。
「ナンだよ! 何してんだよ、オメェは、こんな所で!! コッえーなぁ!」
「え? 今何時? みんな何してんの??」
すげぇ。こんだけ人がガヤガヤ動いてるのに今頃起きたのか、コイツ……。
「顔洗って、冷たい水でも飲んでシャキッとしろよ!」
ミロをバスルームから追い出してキッチンに連れて行くと、そこはチキンスープの温かい香りが一杯に広がっていた。
サガが、カミュに手軽に出来る料理を教えて貰っているらしい。野菜を刻みながら、楽しそうにカミュと話をしている。
「いい匂いがしてるな」
そう言ってサガの頬にキスを一つ落とすと、「まだだよ。もう少しで準備が整うから」と笑顔と共にさり気無く体を離された。
こういう所、動じなくなったよな。
まあ、この場にいるのがカミュとミロだけだ、というのもあるんだろうが。
ミロは、カミュから渡されたコップを手に持ったまま、じっとこちらの方を見、カミュを見て、ちびりちびりと冷えた水を喉に流し始めた。
分かりやすい奴だ。
「そんなにやりたきゃ、ぐずぐずせずにとっととバーロウに朝のキスでも何でもしてもらえ」
ぐいっとミロの首根っこをカミュの顔に近付けると、ミロは及び腰ながらカミュの頬に小さくキスを一つ落とした。カミュも諦めたようにミロの頬に素早くキスを返した。
と、ミロの腕が上がってカミュの体に回されようかという時、思いっきり眉を顰めた赤キツネが、遠慮容赦なくミロの顔を片手で、グイーッと押し返した。
思わず噴き出すと、サガが「めっ」と言うように俺を睨んできて可愛い。
朝帰り組、総勢18名でスープと昨日の残り物のパイやスナックで食事を取り、それぞれの帰路についた。もちろん帰路に付かずにそのままカミュの家に留まった者が一名ばかり居たが。
今年のクリスマスは、俺とサガにとっても少し特別だった。
毎年サガは実家のあの巨大な冷蔵庫のような城に帰っていたが、今年は両親へのカミングアウトをしたために実家に帰る事無くロンドンでクリスマスを過ごすのだ。
一緒に暮らして随分になるが、こんなクリスマスは初めてだ。
いつもはクリスマス前に、二人でクリスマスの祝いの真似事をして分かれるのだが、今年はカレンダー通り、25日の昼にターキーを食べる。
モルディブから帰って、今までで一番大きな樅ノ木を用意して、毎日少しずつ飾りつけをし、プレゼントの箱を木下に敷き詰める。
サガの希望で深夜のミサにも出席する予定だ。場所はセント・ポール。
ゆっくりと、のんびりと、うさぎ用のプレゼントも木の枝に吊るしていた正午過ぎ、電話が鳴った。
サガが、はっとした顔で電話に出る。
実家から、という可能性を疑ったからだ。
が、すぐにその表情が緩んだ。
「いいよ。直ぐに連れておいで。今年は私もずっとこちらに居るから」
短い電話を切ったサガに、誰からかと尋ねれば意外な事にカミュからとの事。
これからイタリアに行く事にしたので、プチを預かってもらえないか、というお伺いの電話だったらしい。
これからイタリアに行くという事は、正規のチケットで飛ぶわけか。
まったく、相変わらず計画性のない事を……。
それから小一時間後、家のベルがなった。
確認するまでも無い。あの二人だろう。
果たして、サガよりも先にドアを開けると、しっかりと防寒対策されたうさぎのキャリング・ケースを片手にしたカミュと、その後ろに幸せだ幸せだ、と尻尾を振ってるような様子のミロが立っていた。
「……やりに来て、やらせてやって、さらにお持ち帰りまでされるのか?」
呆れた声と表情を作ってカミュをからかうと、何時ものごとくキッとした表情を返され、後ろに追いついていたサガにポカリと頭を叩かれる。
上がってお茶でも、と勧めるサガに、「飛行機の時間があるから」と丁寧に断りと突然の不躾を詫びるカミュ。
その会話を打ち切るようにしして、二人を追い出した。サガは眉を顰めて見せたけれど、
「お前な、見えなかったのか? カミュの片手、ずっと後ろでミロに握られてたぞ?」
窓の外をサガと寄り添って見下ろせば、二人が小走りで、駆けるようにして道を行く。
ミロに引きずられるようにしてカミュが足を急かしている。
まるで、パブリックの頃と変わっていないその二人の様子に、自然に苦笑が漏れた。
サガも同じだ。
でも、まるっきり人事でもない。
二人で過ごすクリスマス。
俺たちだって、パブリック以来だ。
サガに顔を寄せると、緑色の瞳を輝かせながら、サガもこちらを見つめていて、俺たちはヤドリギの下で長いキスをした。

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