★焦燥

怒涛の勢いで、ロンドンに来てしまった。
なんとか譜面は頭に叩き込んだが、なにせベースに触るのがあまりにも久しぶりで久々にロスの横に並んだ時には緊張した。


本日、午後1時からのスタジオ練習に間に合うように、ロスのアパートメントのあるサザークに寄った。前もってスチュワートがロスに自分の楽器を預けているのでそれを取りに寄って、ロスとサガと一緒にアパートを後にする。二人に会うのは、夏の合宿以来だ。
ロスは、会うなり人の留守の間に派手に掲示板を使ってくれたな、と例の独特の笑顔と一緒に頭を小突かれた。
サガには、キャンプの感想を尋ねたところ、「寒い」という感想しか聞けなかったので、相当寒さが堪えたようだ。
けれど、冬のキャンプはきっと星が綺麗に見えるだろうし、焚き火とかランタンとかがもっと人の気持ちに近付くような感じがするのじゃないだろうか?
ロスに色々準備の事など尋ねていたら、サガに心配そうに遂行の有無を聞かれてしまった。
二月にはしし座あたりが綺麗に見えるから是非カミュに尋ねて見るつもりだと答えると、一瞬見詰られて、次にはなんとも言えない顔でしみじみと見詰られてしまった…。そんなにサガってキャンプ好きじゃないんだな…。
ベース二本にバイオリン二本(オレの楽器はサガが持ってくれていた)でチューブの移動はなかなか骨が折れる。イギリスのリフトは小さいし、通路も狭い。人様からの借り物の楽器に粗相をしないように、注意深く運ぶ事30分。漸く待ち合わせ場所の貸しスタジオに到着した。
スタジオには既にシュラが来ていて、ちろりと視線を受ける。
……。
この人はこういう風に視線で人を威圧するからなぁ…ロスとは違った意味で。
そして、珍しくカミュが最後に、時間1分前といったぎりぎりのタイムで飛び込んで来た。ハグしてほっぺたにキスしようとしたら、ぐいっと押し返されてしまった…。
イギリスはもうパートナー制度が始まっているんだから別に構わないと思うんだけど…(溜息)
そして、恐怖の音合わせ………。
オレは、一応暗譜して来たとは言っても楽器(ベース)に触ること自体が久し振りで、なかなか思うような運指が出来ない。それに、ジャズでは弓を使わずに指で弾くから、これが…痛い…(涙) バイオリンのピッツィカートとは比べ物にならない位、ベースの弦は太いし張力が強い。
ロスは、相変わらず早引きでパワフルだけれど、明らかに練習不足で、音がズレたり飛んだりしていた。そして、カミュは指が回っていない……。
三人ともあまりにも明白に練習不足……。
2時間の合わせの最後に、途中から真一文字に口を引き結んでいたシュラの地の底から地面を割って出るような雷(天から落ちるのとは逆のイメージ)がとうとう炸裂して…急遽スタジオの使用を延長する交渉を事務側として、四時間の延長…延長料金はロスとカミュ持ち、という事になった。
はい。シュラは完璧に弾き熟していました……(涙)
いつもならテンポきめとかは、ロスやカミュが中心になってやっているようだけれど、今回はシュラがガンガン仕切って、楽譜に書き込みがされていった…。
ハイ。わかってます。本番は2週間後です…(泣)
今日が9日。本番は23日の金曜の晩。練習できる日はあと13日。合わせは来週の週末一回だけです(真白)
話し合いの結果、
曲目は、オレが「主よ、人の望みの〜」と「コンチェルト ハ短調 I アレグロ」
ロスが、「前奏曲2番 ハ短調」「目覚めよ〜」「プレリュード N.En ニ長調」
そして、トリにやる「イタリア協奏曲 ヘ長調1.2.3楽章」はオレとロスのダブル・ベースで行うという事になった…。
大丈夫かよ、オレ? と、久々に背中に冷や汗(楽器に関して、という意味。別の事では結構かいていると思う)後は、中にサガとオレで「二つのバイオリン〜」をやる。
サガはロスの楽器を弾く姿を見て、それから自分もライブに参加出来る事になって、心から喜んでいたようだけれど゛、確実にカミュは落ち込んでたし(指が昔ほど回らなくなったと。オレはただの練習不足だと思うけどね)、ロスは目を泳がせていた…。
そんなこんなで、みんなと別れて(疲労困憊とシュラの視線が怖かったため飲み会は流れた)カミュの部屋に帰って来た時にはすっかり夜だった。
部屋の鍵を開けて、電機を付けると、カミュは大きく溜息をついた。
そんなに落ち込まなくてもいいのに…ピアノのカミュはずっと弾きっぱなしで、誰よりも負担が大きい。そんなに自分を責めなくてもいいのに…ぎゅっと抱きしめてキスすると、つよく抱き返してきてくれて嬉しい。
何かつくる、というカミュの言葉に甘えて、じゃあ手伝うよ、と言うと、約束の品を寄越せと言う。
それで、今日一日背中に背負って歩いたリュックのチャックを開けて「ハイ」とドライ・トマトを渡すと、唖然とされてしまった。
…それが、人に使いを頼んだ人間の態度か?
カミュが固まってしまったので、鍋に水を入れて火にかけ、ニンニクを3かけ剥いて、ドライ・トマトを適当に刻んでニンニクと炒め、塩コショウをし、茹で上がったシェル型のバスタに絡めて夕食とした。途中で復活したカミュがバジルとルッコラ、ドライ・トマト、豆腐のサラダを作ってくれた。
食事が済むと、「そういえば、」とカミュが席を立ち、冷蔵庫から何かを取り出して来た。
なんと、手作りアイス・クリーム!!
大喜びで山盛りすくって口に入れたら………裏切られた……!!!
信じられない味がして、涙が浮かんだ。
異議を申し立てると、カミュにシャワーをとっとと浴びて来いとリビングから追い払われる。
出てくると、今度はカミュがバスルームに消え、その間オレは冷蔵庫に仕舞われていたアイスを齧りながら楽譜の見直し。
見た目はこんなに美味しそうなのに…こんな味がするなんてあんまりだ…(涙)
シャワーから出てきたカミュにアイスを取り上げられ、寝室に移動。もう一度髪の水気を取っている間にカミュから質問される。
先日来た目的は本当にそういうことだったのか? という事。
質問の意味が分からない胸を伝えると、丁寧に問い直してくれて、それがまたオレに大量の冷や汗を……。
チキンとは思われたくないし、一度口に出したことを取り消したりはしたくない。けれど、まさかあの一言、勢いで言ってしまったとは、ただ単にカミュを驚かしてやりたかっただけで、思いついた言葉が「あれ」だったと言えないし……(滝汗) 
寄りを戻してから、もっぱらカミュには受けてもらってばかりいるので、不公平といえば不公平なわけで……
その事に付いてまったく考えていなかった訳でもなかったから余計に言葉に詰まる。
カミュは、オレとまたこういう関係になる前には彼女がいて、しかも結婚を前提に付き合っていた訳で……
それなりに色々とやっていた訳だし…という事はつまり、ちゃんと男として行動していた訳で……
そういうカミュにこういう事するのって、ちょっと、こう、悪いというか、プライドを傷付けてるんじゃないか、とか、だからイライラさせているのか、とか思うわけで…
……。
経験とかからしたら、オレが受けるのが妥当なんだよな、やっぱ……(大汗)
考えれば考えるほど、自分がズルイ気がしてきて、いくら言葉を捜しても言い訳でしか無いと分かって、それでも言葉が出なくて…。
とうとうカミュの方が助け舟を出してきた。
「……いや、無理はしなくても……その……慣れてないと、多分辛いから……勿論、ミロがどうしても抱かれたいと言うなら、なるべく負担にならないように努力するけど?」
大打撃……。
やっぱり、オレとやる時、カミュってけっこうシンドイ???
これって、取り様によっては、カミュは頑張って努力して「受け」の体制を取ってるって事だよな??
今年一年、当たり前のように最初からオレがカミュを抱いてしまったけれど、やっぱ、まずいんじゃないか? と、汗が流れ出す。でも、カミュって、オレ抱いて楽しいかな?
いや、それより、オレのやり方が下手だったら……というか、物足りない、と思われていたら……で、痺れ切らしたりしていたら……??
これは、カミュに済まない事をしている、今晩は確かに自分が受けるべきだ、とは思うものの…言葉が出なくて、口から音を出そうとする度に喉が詰まって…結局搾り出した言葉が……
「済みません……今日は、その、今までと同じポジションが……。 スマン…」
と、どんどん小さくなる声は尻窄み…。
ああ、オレってすっげぇ嫌な奴だ…。ぎゅっ、と目をつぶると、カミュの少し驚いたような声が降って来た。
「何も謝ることはないだろう?」 と。
そして更に、爆弾発言が…。
カミュ、なんて言った? どちらか言えば下の方がいい、って今言わなかったか?? そんな事、有り得ないと思って、瞬間的にそれに返すと、一言、「もう慣れた」と。
でも、それってやっぱり不自然じゃないか?
カミュはどう思ってるか知らないけれど、実はカミュはかなり男っ気が強い。並の奴らよりずっと漢らしい男だ。そういう奴が、いくらまあ、オレの事好きだと言ってくれても、そうしょっちゅう自分の本能曲げて「受け手」に回るってのは、やっぱり肉体的にだけじゃなく、精神的にも負担があるんじゃないのか?
それに、カミュは優しいからな…こっちの臆病な気持ちを察して和らげてくれているってのも有るんだろう……。
そう思うと、ますます自分が情けなくなってくる…。
なんだかカミュは、ますますオレを慰めるような言葉を掛けてくれるが、こういう時に優しくされるのって余計になんともいえない気持ちにさせる…。
「何時でも逆になりたいなら、言ってくれ」
とも言われたが、逆でカミュとした記憶が、遠い彼方で、どんなだったか思い出せない。それでも、いつかは交代した方がいい、そう思って頷くと、
「それじゃ、決まり。でも今日は、お前は寝ているだけでいいから」
と、カミュの声。
「はっ?!」
と、思わずカミュを見上げると、次の瞬間には押し倒されていた。カミュに。
それから、顔中にキスをされて、いつもの様に唇でキスしながら抱き合うのかな? と、思っていたらどんどんキスは下に下りていって、しかも、カミュの手がバスローブの中にまで潜ってきて…。
同じように、カミュのバスローブにも手を伸ばしたが、それはカミュのキスで遮られた。首筋から項にかけてキスと一緒に舌で強く舐められて、動きが止まってしまったからだ。
多分、黙っていろという事なのだろう、と察してそのまま大人しくしていると、カミュはどんどん人の体にキスをしていって…手でも撫でてきて…自分の感覚が変な具合に尖っていくのを感じた。
ヤバイ。もの凄く緊張してる…。
そう思った次の瞬間、脇腹にキスを落とされて、ギャッ!! と飛び上がってしまった。
マズイ。
嫌な事思い出したぞ……。
そもそも、なんでカミュの方が受ける回数が多くなっていったかっていうと、オレが極端にくすぐったがったからだ!! カミュが一生懸命に所謂、「愛撫」というものをしてくれているのだろうに、オレときたらあんまりくすぐったくて…笑い出して、止まらなくなって…カミュを怒らせてしまった事が…一度、二度、じゃなくあった気が……(汗)
ダメだ! 自分!! 笑うな!!!
と、一生懸命意識を別の方向に飛ばそうとしていると、カミュがオレの性器を咥えてしまった!!
「うわっ!!」
と叫んだオレの事など全く無視して、カミュは咥えたものはそのままで、少し冷たい掌でオレの体を撫でてくれる。
どうしたらいいんだ? 性器を咥えるなんて反則だ…!!
確かに感じるし、もう本能だからコントロールが効かないが…意識の方はしっかり緊張していて…カミュの顔がまともに見れない。ってか、部屋の電気、つけっぱなしじゃないか?!!
どうしろって言うんだ? オレに? てか、この状態で、オレはどう反応を返せばいいんだ???
体と心がバラバラで、焦っていたらカミュが強く吸い上げてきて、思わず目を瞑った。
指を、カミュの頭に伸ばして、カミュを自分の腹から剥がそうとして…躊躇した。
カミュが心からやってくれているのは、それは、分かってる。
なのに、それを中断させるような事をしたら、それは、カミュを傷付ける事にならないだろうか?
躊躇った。オレが躊躇う間に、カミュは強張って半ば立ち上げてしまったオレの腿とか膝にキスをする。多分、大人しくしたがった方がいいんだよな…??
兎に角、無心だ!! 無心になれ!!
一生懸命に(?) ごちゃごちゃ考えるのを止める様努力して、必死に自分の性器に来る感覚に神経を集中させて、それだけを追うようにして……うーん…多分、これきっとオレが今晩は「受け手」になるんじゃないだろうか?
と、腹を括ってそういう風に自分をコントロールしようとした矢先、ぬめる感覚で性器を撫でられた。思わず歯を食い縛ると、カミュのバスローブが腹の上に広がって、カミュの体がふっと離れた。
驚いてカミュを見上げると、カミュの上半身が曲がり、顔が近付き、それは体が溶けるような熱いキスに変わった。カミュの背中を抱きよせようとした時だった、自分の性器に何かが触れている事に気が付いて、それがカミュの……部分だと分かって、一気に肝が冷えた。
それは、無茶だっ!!
いつもそれなりに慣らしてから入れてるんだ。それでも、カミュは息を呑むじゃないか!
それなのに、なんにもしないでなんて……考えてもカミュが何を考えているのか分からない!!
必死の思いでカミュの腰を両腕で止めながら、カミュと押し問答。
「ちょっと! カミュ! それ、無茶……!」
「……っ……動くな! まだ……」
「駄目だって! 怪我するだろ!」
「大丈夫、ゆっくりやれば………」
「そういう問題じゃないっっっ!!!」
「頼むから、動くな! 本当に怪我をする!」
怪我をする、というカミュの強い言葉に全身が硬直した。
兎に角、オレがじっとしていればいいんだな??
言葉を出すと、腹筋が動く。体も動く気がして、息を詰めてじっとしている。
カミュが静かに息を吐いて、少しずつ腰を落としてくる。
正直、怖くて、何度手でそれを止めようと思ったか分からない。
けれど、その度に、オレが動くとカミュが怪我をする、というフレーズが木霊して、兎に角じっとしていなくては、と体を硬くしている。実は、結構性器に痛みを感じてもいたんだけれど、「イテッ」と身じろぎしたら、カミュが怪我をする、とそれも我慢。
カミュも、そうとう痛いんじゃないだろうか??
目を閉じて、眉根には縦に皺が出来ている…。
これ、どうしたらいいんだ?
止めさせたくて、でもそうするとカミュの意志を無視することになって、逡巡していると、カミュがうっすらと目を開いて、唇に軽くキスをしてくれた。
耳元で「大丈夫だ」と、ささやく声が聞こえた。
どうやら喋っても大丈夫そうだと感じて「本当に?」と囁き返すと、少しの沈黙の後、
「キスして…」
と囁かれる。
カミュの腰に、頼りなく張り付かせていた手を外して、カミュの頭を挟んでオレの顔の正面に持ってくる。そして、深く口付ける。
お互い熱中して、顔を中心にキスを繰り返していると、カミュがまだバスローブを着たままの事に気が付いて、それを脱がせようと腰紐を解く。
けれど、解いたはいいけれど、上にカミュが覆い被さっている状態で、どうやって脱がせるか、ちょっとパズルのようだと気が付いて、カーテンのようにカーブを描いて垂れているバスローブの袖口から手を差し入れてカミュの肩を抱いた。
カミュの腰がゆるりと動いて、オレの性器を撫で上げるような動きをした。
一瞬、視界が白くなった。
なんだろう? やっている事は普段と変わらないのに、凄くヘンだ。
ゆっくりとカミュが腰を上下に動かす。その度に背骨を駆け上がるモノがある。
足の付け根にじわりと汗を感じる。
息が上がる。漏れる声を押さえがたい。
カミュを掻き抱くように引き寄せると、カミュが笑ってオレのこめかみや鼻の頭や頬や顎の奥深くにキスをくれる。
……なんか、凄く機嫌がいいな…カミュ……。
たしかに、カミュの体の中に性器を入れているのは自分だが、何だか食われているのはオレの方な気がする…。
ヤケになって、一回大きく息を吐いて(これが、かなり甘くて濡れていたのは分かってる)左手をカミュの袖口から引き抜いて、今度は脇から腕を差し入れて、カミュの背中を大きく撫でて、それがカミュの太腿の裏にまで辿り付いた時、ふとカミュに自分が出来る事を思い出して、それに手を伸ばした。
いつもと同じようにカミュの性器に触る。
いつもと同じように、カミュの性器を撫で、薄くて柔らかい皮膚の下の弾力を測る。
カミュの吐息が漏れて、いつもと同じようにきゅっとカミュの下半身が締まったり、痙攣したりする。
カミュの上半身が折れて、腕がオレの胸の上に重なる。
だから、一層熱心にカミュの性器に快感を送ってやろうとしたのに、カミュはオレの左手を握ってそれを自分の腰に回させた。
それから、左手だけじゃなく、右手も…。
何が起こるんだろう? 何をしようとしているんだろう?
そう思った矢先に、カミュの上半身がすっと伸びて…カミュの腰が大きく上下に動いた。
それは、不思議な光景だった。
こんな光景は見たことが無い。
カミュがオレの体の上で、一生懸命に動いてセックスをしている…。
オレと言えば、ベッドの上に縫い付けられたまま、動くことが出来ずに居る。下手に動くとカミュの動きが激しい分だけタイミングがずれそうで怖い。
カミュを見上げながら、下半身の熱に意識を集中する。カミュが一生懸命に達しようとしているのが分かる。だから……。
射精に到達したのは、オレの方が早かった。カミュはオレが射精した事を感じると、ふっと体の力を抜いてオレの上に倒れてきた。汗びっしょりだった。息も上がっている。
なんだか無性にカミュが愛しくて、カミュの額や頬に張り付いている髪を丹念に梳いて、撫で付けて頬にキスをした。そして、そのままカミュの体をぎゅっと抱きしめて体を回転させてベッドに今度はカミュを縫いつけた。
カミュが目を丸くしてオレを見上げている。それが妙に可愛かったのでまた髪を撫で付けながら眉間にキスすると、ちょっと呆れたようなカミュの声。
「……今日は大人しくしていろ、と言ったのに……」
「だって、カミュ、疲れただろう?」
笑ってそう返すと、カミュはむっとして
「だから何だと?」
と、一言。
オレ、何か気に障る事言ったか?
何がカミュの気に障ったのか分からなくて、慎重に言葉を選んで返事をする。
「…いや、まだカミュはいってないし、だから今度はオレが手伝おうかな…と…」
「……まだそんな体力があるのか……もしかして、あまり良くなかった?」
何か、探るように問われて、ますます訳が分からなくなる。もしかして、カミュはもう寝たいのかな? 確かに、まだカミュの息は上がっているし、疲れているなら無理はさせられない。多分、今日の練習にぎりぎりで到着したのは、ぎりぎりまで一人でさらってのだろうし、合わせでもカミュには殆ど休憩が無かった。
加えて、少し落ち込んでいたから…。
気落ちした時には睡眠が一番の良い薬だ。
でも、もうカミュの体を離してしまうのは惜しくて、もう少しカミュとこうして裸で触れ合っていたくて、取り合えず言葉を間違えないように、カミュの2つの問いに順番に答える。
「体力は…別に、眠くはないし…いや、カミュがもう寝たいっていうんならやめておくけれど…。それから、良くなかったら、射精ってできないと思うけど?」
そう答えると、カミュはがっくりと瞳を閉じて溜息を一つ。体中の力が抜けた事が知れた。
でも、
「いや、まだ眠くはないよ。……で、続きはどうする? 少し休めば、また上に乗れるが……どっちがいい?」
と、にっこりと笑って言ってくれた。
「いいよ。カミュには沢山してもらったから、今度はオレがやる。カミュこそ今度はなにもしなくていいよ」
こちらもニッコリ笑って返したら、今度は真剣な表情で、
「そうじゃなくて。お前のしたい方を言ってくれ」
と。ちょっとびっくりして(何か答え方変だったか?)こちらも訝しげに尋ねる。
「う…ん。もっとカミュと遊びたいっていうか、セックスしてたい。カミュは今つかれてるから今度はオレがカミュを気持ちよくして、でその後はその後で考えればいいじゃん?」
カミュからの返事が無いので、待つ間にカミュのバスローブを脱がせ、耳たぶを軽く噛んで首筋に口付ける。かいていた汗はすっかり冷えている。
体制を変える時と、その後のカミュの腹圧でじわじわと外に押し出されていた性器をもう一度ローションを塗って深く入れ直す。カミュの唇から吐息が漏れて、その唇に自分の唇を合わせる。少しずつ、互いの体温がまた上昇しているのを感じる。
うっとりと、何度目かのキスから唇を離した時、カミュの両手がオレの頬に添えられた。何だろう? そう思ってカミュの目を見詰ると、カミュが凄く甘い笑顔でこちらを見ていた。
「……それじゃ、お言葉に甘えて、暫く動けなくなるくらい、気持ち良くしてもらおうかな?」
確かに、カミュはオレに凄く甘いと思う。凄く、優しいと思う。
一生懸命オレの事を考えてくれてると思う。
それに、きちんといつも100%の答えを返したいと思う。けれど、期待とは反対に、わりと高い確率でオレはカミュの神経逆なでしたり、落胆させてばかりいる。
凄く、好きなのに…。
好きなことと、相手の気持ちを明るくできる事は違う。
好きってだけじゃ、相手を幸せな気持ちになんか出来ない。
その晩、久しぶりにカミュがもう止めようって言うまで、カミュの体が離せなかった。翌日のカミュは少し辛そうで…。
飛行機の中で色々考えた。
カミュがオレを押し倒して、自分で色々と……その、積極的にしてくれたって事は……やっぱりこれくらいは自分もした方がいいんだろうか……とか、カミュって、こんなに慣れてたっけ? こんなやり方???
とか、色々疑問が上がって…。はたと気が付いた。
全然、経験が足りないんだって。
カミュはちゃんと色んな人と恋愛もしているし、そういう人とは体の関係も持つ。
でも、自分は……。
自分も、何か、もっと勉強してみるべきなんだろうか?
その手の雑誌を買ってみるとか(どうせゴミになるのでロスから回ってくるとか、友達に見せられるとかしない限り見てないし、買ってない)、DVDでも借りるとか……。
それとも、やっぱり直接の経験に勝るものは無いわけで……。
一番はカミュに、どうして欲しいのか聞ければいいけれど、その手の話をカミュは素面で話すのは嫌がるし……。ってか、たまにはカミュに聞く前に自分で努力しろ、って話もあるし……。
やっばり、自分で経験してみるのが一番か……。
でも、そんな事に金使うなら、楽譜とか図版とか買いたいし…いや、そんな事でケチってるからいけないんだ。少しは勉強して、カミュが喜ぶなら、それが一番いいわけで………。
でも、困ったな……。カミュ以外と裸でああいう事したいと、思えない………。
ってか、オレの場合、どっちになるんだろう?? 女の人を買いに行くべきなのか、ゲイの人間に頼むべきなのか。でも、その場合、攻める方を勉強するべきなのか? 受ける方なのか??
……どっちにしても、圧倒的に経験が足りない……(嘆息)
場所と日時と方法と段取り…考えるだけで気が重くなる…。でも、どうにかした方がいいんだろうなぁ…。
やっぱり、来年に引き伸ばしても仕方がないから、今年中になんとかすべきか…(気重)

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