一番必要なのは、お前が視点を変える事だと考える。
先に、自分で書いているように、カノンなら別の見方が出来るかもしれないと俺も思うね。あいつの方が、俺の考え方に近い感覚を持ってるからな(笑)。
この十数年間、お前にとってはちゃかしているようにしか聞こえなかったかもしれないが、俺が一番お前に求めていた事は、視点を変えるって事だ。
お前は、パブリックの頃から「実家」というものを気にして生きているが、その生き方にはどんな価値があるのか、お前自身にとってそして、お前の家族、そして、多分イギリスって国、歴史的にみた場合の世界観ではどういう価値があるのか、そこを常に検証していかなけりゃならんと思うんだよ、俺の場合はね。
「伝統」も大切だろうが、その伝統が、「今」どういうふうに世界と折り合いを付けているのか、またそれは今後どのように変化していくのか、いかないのか。
ただただ継がなきゃならん、と思うその理由はなんなのか?
親父をがっかりさせるからか? 執事とかの存在なら、ヘッドがどんな形でも給料が出りゃ「雇われている」ってのに変わりはない。だから、この場合は、お前の家族に対する「気持ち」が一番だと見ているんだが、違うか?
そして、さらに疑問なんだが、仮にお前に子供が出来たとしよう。血で繋ぐ事が前提とされているその「伝統」とやらの掟でもって、お前も子供に「継ぐ」事を要求し、それは絶対の価値のあるものなのか?
そこでもし、「YES」と答えるなら、俺は天を仰ぐが、もしこに何かしらの選択の自由をお前が設定出来る場合、それはお前自身には適用されないのか?
お前は、「企業」では無いと言ったが、逆に、どうして「血」で繋いでいかなきゃならんのだ?大きく譲って、血で繋がなきゃならんとしても、何親等の「血」まで有効なんだ?
「血」で、というのは、恐らく幼少時からの教育による価値観・慣習なんかを叩き込んでいくんだろうが、その辿り着く先は何なんだ?
まさしく、俺のこの考え方事態が、もうお前にとっては「論外」になるんだろうが、
正直な話、お前が「きつい」と思っている事をどうして他人を説得して引き受けて貰えるんだ?
まず、お前自身がなんらかの突破口を見付けるのが先なんじゃないか?
そこから交渉が始まるんだろう?
相手なら違う可能性が見つかるかと思って…というのは、ただの相談だ。交渉の席に相手を着かせるには、それなりの相手にとっての「利益」を見せなきゃならんだろう?
お前がそれを、カノンとの遣り取りでやったのかどうか知らんが、カノンがわざわざ「俺のこと嫌いか?」と聞いて来るんだから、それは十分じゃなかったんだろうと俺は見ている。
ありとあらゆる可能性を探せよ。
その為に、俺はいつもお前とは違う視点からモノを言う様に努めているつもりだし、これからもそうする。それが俺がお前にしてやれる最大級の事だと信じている。
「こうじゃなきゃ駄目だ」と仮定しているその頭をいったん外せ。
お前の人生は、俺が貰い受けたつもりだ。
どこかにお前を行かせるつもりも、お前にお前の望まない人生をおくらせるつもりも全く無い。
第一に、だ。何時間もかけてカノンに手紙を出す前に、まずは俺に「相談」を持ちかけるべきじゃなかったのか?(笑)
そうしたら俺は、どんな策を弄してもカノンを落とすぞ?(冷笑)
君に一番に相談しなかったのは、君のその結論が見えていたからだよ(笑)。
第一、何がなんだかよくわからないまま君に口説き落とされたのでは、弟があんまり可哀想だ。
視点、という事について語れば、君と出会ってから、私の世界は何倍にも広がった。
だが、変わったのは私個人の視点であり、「チェトウィンド卿」の世界が変わったわけではない。
君も、そのことに焦れているのだろう……
でも、それはそもそも、私個人がどうこう出来るものではないんだ。
君にはおそらく、私という個人が、伝統の枠の中に引きこもっている、という風に見えるのだろうが……
そうではなくて、むしろ、それは私という人間の核にあるものだ。
人はだれしも、生物学的に見れば、タイムカプセルのようなものなのだろう。
父母祖先の遺伝子を継ぎ、その思想を吸収し、あるものは子孫に伝え、あるものは捨てながら、知識を未来に伝えていく。
その中に、普遍的に、世代を超えて変わらず伝えられてゆく部分もあるだろう。
我々の場合、その普遍の比重が少々重い。
君から見て旧態依然と映るであろう事も、価値があると思う事も、全て同等に伝えられていく。
そこに個人の選択や判断の入る余地はなく、変更には血族の議論と承認が必要になる。
個人や時代の正義に容易には曲げられないもの──それこそが「伝統」の正体であり、教育と、おそらくは血によって、それが可能になる。
(我々は気の遠くなるほど長い間その作業を繰り返して来た血族なのだから、その子孫が多少そこに強い適性を見せても不思議ではあるまい)
それ故に、あれほど奔放に見えるカノンにも、その核は受け継がれている。
現代において、社会的にその事に価値があるのか、それも君の疑問の一であったけれど、その答えは、「それを問う事に意味はない」だよ(笑)。
社会の正義は、時代によって変わる。時代に左右されないのが「伝統」なら、時代の正義は原則として「伝統」と相容れない。
勿論、人道に関わる事は適宜変更されてきたが、それはあくまで個人を超えた人道についてのみだ。
そして、「後継者」になるという事は、この作業を続けるという確約を結ぶ事に他ならない。
私のこの物言いに、君は父母への感情を見るかもしれないが……
実際のところ、確かに父母を失望させたくない、という思いはあるが、私自身が、やはりこの習慣を無くしてはならない、と信じている事の方が大きい。
そう信じられる事自体が、先に述べた教育の刷り込みなのだという事も分かっているけれどね。
だが、私は、幸いにして、私がもと居た世界の他に、君がよく知っている世界も見せてもらった。そして、その教育があながち間違っているわけではない事を知った。矢張り、私一人の都合で変えてよいものではない、と今でも思うよ。
誰か、資格のある者が継ぐべきだ、とね。
君は私がこの「荷物」をカノンに押し付けるのに失敗したと思っているようだが、実際のところ、私とカノンは全く同等なんだ。
カノンはこれまで、父の思惑によって、故意にその場所から遠ざけられていたにすぎない。
私たちが、二人で争う愚を犯させないためと、おそらくは血族に付入る隙を与えないためだろう。
だが、それは父がカノンを後継者と見なしていないという事ではない……カノンは、父を育てた執事に育てられたのだからね。
カノンが何と思っていたとしても、彼の資質が、その事を証明している。
カノンが、何かかけがえのない大切なものの為に爵位を継ぐ事を拒否するというのなら、私も別の道を考える。
血族に他に適任者がいないか、他家から養子をとる道はあるか。
だが、それは口で言うほど簡単じゃない……
私もカノンも、勿論父母も、相当の傷を負う覚悟が必要だ。ただ面倒だから継ぎたくない、という程度の動機では乗り切れまい。
私が素直に爵位を継げば、弟に難しい選択を迫る事もなかったのだけれどね(笑)。
残念ながら、私はそこまで出来た兄にはなれなかった。そういうことだ。
それにしても、君が本気で、私に契約結婚をしろと望んでいるわけではないと分かって、良かったよ(笑)。
昨日は、真剣に、もう実家に戻るしかないのかと落ち込んだよ?
「それを問う事に意味はない」というのが見えるのが、一番納得がいかん所だな。
別にカノンに押し付けるのに失敗したと思っていないが(お前かカノンがどーーーしても継がなきゃならんと言うのなら、お前が継ぐ可能性は0「ゼロ」だからな(笑))
世の中、「伝統」の中に生まれたがっている奴もごまんと居るのに、難儀なこった。つくづく職業選択の自由がまかり通って欲しいところだ。
で、結論としては、カノンに選択の余地は無くて、後はお前が親父や他の親族連中を納得させるだけって話か? つまるところ。
いや、選択の余地がないとまでは言っていないよ(笑)。
もしかして、カノンにも意中の「彼」が居て、ということなら、我々の立場は同じだからね。
周囲が納得するかどうかは、確かに難しい問題だな。一筋縄ではいかないだろう……
実は、こんな私の立場を羨む人間も親族の中にはいてね(苦笑)。
彼等がそれなりに常識のある人間なら何も問題はないのだが、客観的にみて当主になれば周囲に迷惑を及ぼすタイプの人間だ……
実は、今回実家に呼び戻されたのも、彼等の圧力が無視できなくなってきたということらしい。
カノンが継ぐとなった時、彼等をどう抑えるかが問題になるだろう。両親は、カノンが継ぐ分には何も反対はないと思う。
コラ!
人のいないところでコソコソと、勝手な事話してんじゃねえよ!!
頼みがあるなら、二人で雁首そろえて土下座しにきやがれ!!
それから意中の「彼」だと?!
そんな虫酸が走るような話、たとえ話でも今後一切するな!!!
うげ……気持ちワリイ……(吐)
俺はノーマルだ!!!!!!!!
土下座って…つくづくお前もサガの弟だなぁ…そんなに過去の因習が好きか?
まあ、サガは知らないようだが、俺は知っているから安心しろ。お前の「彼女」は美人だな(笑)。