山荘にて

ミロが今度改修を受け持つ事になった山荘を見に行った。
先日照明の話を持ちかけた時、あまり乗り気でない様子だったので、すっかりその件の事は忘れていた。
今日になってしきりに予定を聞いてくるので、何事かと思ったら、やはり手伝って欲しいとの事。
そうと分かっていれば、テストライトを持って来たのに……(溜息)。


別件の現場で使うつもりで借りたライトを持って、件の山荘に出かける。
(一応、こちらが今回のイタリア出張の理由。まあ、日程を二月前半にずらしたのは、少々作為的だったかもしれないが。)
鄙びた田舎町のアグリツーリズモがコンセプトだから、本当はもう少し暖かい色のライトの方が良いのだが……現場に希望の品がないのはよくある事なので、頭の中で適当に変換する事にする。
勝手に弄ってよいとの許しを家主の老婦人からもらい、むき出しの屋根の梁や柱の陰などにいろいろスポットを置いて試していたら、突然ヴァイオリンの音が聞こえた。
びっくりして振り返ると、ミロが壁にかかっていたヴァイオリンを取り上げてしきりに調弦をしている。
借りた脚立の上に腰掛けて先を促すと、ミロは軽く胸を反らし、ヴィヴァルディのヴァイオリンソナタを弾き始めた。
ミロのヴァイオリンは、素直で暖かくて、本当に澄んだ奇麗な音がする。
ミロは色々と行動が突飛なので誤解される事も多いのだが、本質の彼はこの音の示す通りだと思う……
だから、時々、この音が無性に恋しくなる。
普段、ミロはこちらから頼まないとなかなか楽器を弾いてくれないのに、今日は無理矢理詰め込んだ仕事の礼のつもりなのか、随分と気前がいい。
そのままずっと聴いていたかったが、その音を聴いて新しいイメージが浮かんだので、早速ライトを持って脚立によじ上った。
生のヴァイオリンを聴きながら仕事が出来るなんて、随分と贅沢なことだ。
大体のイメージを固めて山荘を引き上げようとした時、家主の老婦人がミロを捕まえて話し込み始めた。なんでも食事を用意させるから、それまでヴァイオリンを聴かせてほしい、との事。先のヴィヴァルディを何処かで聴いていたらしい。
ミロは大変困った様子で、こちらにちらちらと視線を投げては助けを求めていたが、クライアントとの関係は良好にしておくに限ると、無視を決め込んだ。
老婦人も大変な気に入りようで、手放しに褒めちぎっている。
何とか断ろうと、常になく雄弁に色々言い訳を並べ立てるミロと、その少し上気した頬を見て、ふと気がついた。
ミロ、もしかして照れていると饒舌になったりするのか?
……ということは、もしかして、夜によく喋るのは………
………。
まあ、それは、単に、気が緩んで軽くなっているだけかな(溜息)。

One Reply to “山荘にて”

  1. ミロ・アーヴィング・フェアファックス より: 返信

    ……どうして、人が喋ると「軽い」って形容詞が付くのかな(溜息)。普段は喋れって言う癖に。
    そりゃ……………

    決まり悪い時は、なんか一生懸命説明しようとしてはしまうけど…。

    ……黙ってる方が身の置き場が見つからないと言うか、直視するのを避けたい現状ってものが、あるだろう? それなりに!

    (真赤)

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