エセルが実家にカミングアウトしたことやらなにやらで、再び週末にカノンのアパートメントへ車で北上する。
色々な押し問答の末、すっかり暗くなってから外に出る。
こんどはエセルが最初に運転すると言うので、キーを渡してエンジンがかかるのを待ってパーキングロットにてバックの誘導をしてやるべく立っていた。
と、うんともすんともエンジン音が響いてこない。
不審に思って車内を覗くと、エセルが顔を赤くしながら、必死にイグニッションキーを回そうとしている。
もしもし?
なにやってんですか?
何をやっているのだと問えば、ぴくりともシリンダーが回らないのだと言う。
エセルの顔には、また今月も更なる出費?! との慄きの言葉がはっきりと明滅している。
はぁー、と溜息をついてエセルを外に出して、鍵を返させ運転席に座り、キーを差込み、ぐりっとキーを回す。
勢いよくエンジンの音がちりりと冷えた夜気に響き渡る。
呆然としているエセルに、エンジンを止め、もう一度キーを渡してやらせてみる。
どんなに必死にエセルが鍵を動かそうとしてもびくともしない。
エセルの肩を軽く突付き、再び俺がエンジンをかける。
とたん、マフラーから大音声。
どうして? どうして?
と一目でぐるぐるしていると分かるエセルの肩を抱き、優しく髪に一つキスを落とす。
「エセルは俺達男とは染色体が違うからな。非力でも仕方がない」
とたん、きっと、鋭い緑の眼差しをエセルは返して、俺の腕から抜け出し、カノンに最後の挨拶をしに向かった。
まあ、カノンが種明かしをするとは思うが(あいつも同じく後ろで溜息ついていたからな)。
これくらいは、男の常識ってもんなんだよ、悔しがり屋のエセル奥さん?