我が家の一員になって4ヶ月目のウサギのロスは、草を食べない。
やってきた当時などは、一日1カップのペレットを貰い、それですっかり満足なのか、牧草を与えても噛みちぎって遊ぶだけで、殆ど食べなかった。
ウサギの歯は、牧草などの繊維質をすり潰すことで摩耗される。ペレットばかり食べていると、歯がのびて舌に刺さることもある。
通常丸いはずのふんの形も、僅かに食べた牧草の大きな茎が飛び出ていびつに繋がっていて、前の切歯だけで草を食べていることが伺える。奥歯が伸びているに違いない、と判断し、厳しいダイエットを敢行、ペレットの量を半分に減らして4ヶ月、漸く、丸いふんをするところまでこぎつけた。
4ヶ月前に比べたら、差し入れた草の半分くらいは食べるようになった(柔らかい葉の部分ばかりえり好みしているようだが)。大進歩だ。この調子で、草を食べてくれれば、と思っていた矢先に、事件は起こった。
なんと、ロスは、クリスマス用のキャンドルをまるまる一つ食べてしまったのだ!
あの感触が、(何故かえせるほど顎の強くない)ロスが齧るのに最適だ、というのはわかる。しかし、噛んで遊んだのなら、くずが残っているはずだ。それが、ただのひとかけらも落ちていない……
思わず呆然と座り込んでいると、玄関の鍵が回る音がした。
「何やってんだ? そんな所で」
先日の誕生日に贈ったマフラーを首に巻いたアイオロスが(やっぱりよく似合う、よかった!)、怪訝な表情で玄関に立っていた。
「ロス……ロスが……ロスが………」
自分でも意味の通じない呟きだと頭の隅では理解しつつ、それでも他に言いようがなくて、空になったアルミの蝋燭ケースを指差す。
「はぁ?」
「キャンドルを……50個1ポンドのキャンドルをまるまる1つ食べてしまったんだ!! せめて、あちらの蜜蝋の方ならよかったのに……!」
近くのドラッグストアで買った安売りのキャンドルなど、何が入っているか知れたものではない。それにしても、蜜蝋のキャンドルならば「食べ」てしまう理由が分かるとしても、あんな合成の蝋燭がおいしかったのだろうか? まだケージの中に山積みになっている草よりも?!
「なんだそりゃ……お前はラットか?」
アイオロスが(ウサギの)ロスの額を人差し指でつつき、ロスは「何かくれ」と言わんばかりにアイオロスの腕に縋り立ちした。
「お前が草しかやらんからじゃないのか」
「だって……ウサギは草を食べるものだろう?!」
「草は俺の食うもんじゃねえと主張しているようだが」
「君のし好をウサギに強要しないでくれないか」
「そりゃこっちの台詞だ」
「What ?! 」
「ほれ、こいつでも食え」
アイオロスがポケットを探り、小さな袋に入ったクラッカーを差し出した。(ウサギの)ロスが大喜びでとびつくのを一瞬早く抑え、アイオロスの手からクラッカーを取り上げる。
「こんな脂肪や塩分の多いもの、ダメにきまってるだろう!!」
「ホント何でも食うな、お前は。今度からラットって呼んでやろうな。石鹸も食うかな?」
「馬鹿なこと言わないでくれ!」
本当に、この様子では石鹸でも食べてしまいそうで、怖い。
ウサギの手の届く場所には何も置いてはいけない、と改めて部屋を見渡す。
ゴムやビニールなどは置いていないつもりだが、蝋燭も駄目となると……(溜息)
全く、えせるも、プチも、草を喜んで食べるのに……
つけた名前がまずかったのか??
とにかく、食べたものはきちんと草を食べて出してもらわなければならないので、今日のペレットはおあずけだよ。ロス。
どういう意味だ > 名前がまずい。
そもそも、お前が強固にその名前で呼びたいと言ったんだろう? 人の名前の所為にしないように。
だいたい、「アイオロス」とは、テッサリアの王の名前であって、うさぎ如きに付ける名前じゃないだろうが。
あ、そう言えば、言い忘れていたが、お前が気に入っていた青い色した蝋燭も三分の二くらいそのラットは食べていたぞ?
2〜3日前だったかなぁ?
え……ええっ?!
どうして取り上げないんだ?!
そうだよな、貧乏弁護士の名前とも思えないよなあ? >アイオロス
そんな、旨そうに食ってるものを取り上げるなんて、俺はそんな非道な人間じゃないぞ、エセル。
Theophilus (セオフィラス) ねぇ?
ギリシャ語で theo=god、philos=loving
いやあ、大層な名前のカウンセラーもいらっしゃる事だし?(笑)
名前ってのはつくづく危険な賭けだよなあ?
俺達兄弟は十分神に愛されていると思うが?
もっとも、兄貴は誰かさんのせいで衆道に堕ちたが。
サガ、まだ間に合うぞ。戻ってこい。
三匹のうさぎと一匹の人間の男を養うためにつましいポイント生活なんてしなくてもいいんだぞ?
サイフの中身だって、軽く今の百倍にはなるんだぞ?
いや、だから、1ポンド87ペンスしか持っていなかったのは、銀行に行けなかったからで……(汗)
いつもは、いくらなんでももう少し持ち歩いているよ?
ポイントは、まあ、管理が大変だけれど、貯まるとそれなりに楽しいし……