うさぎのロスが、ついにえせるのケージの柵を超えた。
興味半分なのか、新しいテリトリーの開拓なのか、いきなりロスが柵超えをしてえせるのケージに飛び込んだ。
えせるはいきなり入って来た侵入者に驚き、マウンティング攻撃。この二匹の間では既にロスの優勢が決着していたと思い込んでいたので、このえせるの行動には驚いた。
自分の家だけは守ろうとするえせるの必死の抵抗だったのか。
しかし、もとから足腰が弱い上に年老いて力も無くなっているえせるに、一回り大きく年も若いロスの体を抑え込めるはずもなく、三、四度マウンティングされたパニックから正気を取り戻したロスにお尻を追われて、互いに背後からマウンティングをかけようとぐるぐると回り合った。
こうなると、足の弱いえせるは勝ち目がない。
えせるはそれで諦め、自分からロスの顔を舐めに行った。降参の合図だった。
別に、えせるばかりを贔屓するつもりはないのだけれど……。
先代ロスが逝ってから、この家に一番古くからいるえせるのそんな姿を見るのは、なんだか胸が痛む。
一生懸命にロスの顔を舐めてやり、自分も舐めてもらおうと頭を低く下げて待つ。
普通ウサギは、順位が決まれば、お互いに顔を舐め合いコミュニケーションをとる。
それなのに、ロスは舐めてもらうばかりで、一向にえせるの顔を洗ってやろうとしない。
傍若無人に、えせるの水を飲み干し、草置き場の草を食べ、ペレット皿を舐め回して、一生懸命あとをついてまわるえせるを完全に無視している。
何度も何度もえせるがロスの顔を舐めてやり、自分も受け入れてくれとせがむのに、漸く興味を見せ始めたかと思ったら、なんとロスは頭を下げて待っているえせるの顔に向けてマウントした。
うさぎの世界に、人間は介入してはならない、と分かってはいるけれど、なかなかにせつない光景だ。
ロス、人間のロスは、そんな酷い事はしないよ?
やさしくすれば、その十倍もやさしくして返してくれるよ?
えせるはもう、お前が上だと認めているのに。
お前は、強くて大きな男の子なのだから、配下の女の子にはやさしくしなければ駄目だろう?
見るに見かねて、ロスを抱えてえせるのケージから連れ出した。
一人で遊んでおいで、と部屋に放し、メールのチェックをしていたら、また金網を揺する大きな音がした。
振り向くと、再び、ロスがえせるのケージに飛び込んでいた………。
えせるは、自分から鼻を付き合わせて挨拶に行ったが、ロスに背後に回り込まれないよう、ピリピリと神経を尖らせている。ロスは、また水を飲みにいき、あちらこちらに顎をこすりつけてマーキングをしている。
噛み付き合いの喧嘩をしているわけではないのだから、と己にいいきかせて、またコンピュータの画面を見た。暫くすると、また、金網のゆさぶられる音がした。
驚いて振り返ると、なんと、今度はえせるが本気でロスにマウンティングをしかけていた……。
何度振り落とされても、猛然と襲いかかり、背後からマウント攻撃を浴びせる。
流石のえせるも、少々ウサギの掟に疎すぎると思われる二代目ロスに、痺れをきらしたらしい。
咄嗟に、体が動いてしまった。
えせるのあの気迫は、十分にロスを上回っている。
それが、ただ年老いて体力がないからという理由で、毎回やりこめられて良いものか?
えせるがマウントに成功したタイミングを見計らって、つい、ロスの首を抑え込んでしまった。
顔を上げられないロスは、えせるを振り落とす事ができない。
えせるにのしかかられて、動けないロスは、何がなんだかわからない、といううちに床にへたり込んだ。
ようやくえせるがロスの背中を下りたので、首をおさえていた手も放してやると、ロスは驚いたようにケージの隅へ逃げ、縮こまった。勢いに乗ったえせるが再び背後からのしかかり、逃げるロスに追いすがってマウントする。段差に足をとられて丸太のように転がっても諦めない。
再びロスが正気づいてきたところで、また少し首を抑えた。
少し、この小細工の結果に興味があったのだ。
二度もえせるにマウントされて動けなかった(動けなかったのは私が抑えたせいだが、ロスにはそれがわかっていないらしい)ショックか、先刻までえせるをまるで目に入っていないかのように無視していた瞳が、呆然としている。
もう、えせるのケージに飛び込んではだめだよ、といいきかせて、外に出してやると、ロスは傷ついたような眼差しで、じっと撫でられていた。
それ以降、外に放していても、えせるのケージに飛び込む気配はない。
まあ、少々アンフェアなことをしてしまったけれども。
でも、ウサギ同士のマナーを無視したやんちゃぶりには、いい薬になっただろう?(笑)
その白い腹の、毛付きハムは三枚下ろしにしろ。
もしくは、ミンチだ。
毛つきハム、って……
ロスも、ちゃんと反省しているよ?
明日まで覚えているかどうかわからないけれど……(汗)