さて先日のカノンとの肩慣らしから一週間。再びヤツのアパートメントの前に立ち、ブザーを鳴らす。
と、うんともすんとも反応が返ってこない。
うるさく、しつこく長押ししても返ってくるのは静寂のみ。
さては、敵前逃亡しやがったな。
エセルは、カノンにも付き合いというものがあるとかなんとか色々言っていたが、まあ、それは右から左に流しておいて、車の工具箱から針金を引っつかんで戻り、ガリガリと鍵穴を擦ること数分。
開けました。
世の中何が役に立つかわかりません。
エセルは顔色を変えて、それは犯罪行為だとかなんとか背中から音を被せてきたが、それは後ろから前に、流して、冷蔵庫を開けて中身拝見。
冷えたビールが数本あったので、喜んで頂く。
エセルが眦を上げて、キリキリとなにやら説教臭い事を言っていたが、それは上から下へ、落としとく。
ここまで車で約3時間。休憩無しでトンボ返りはきついでしょ?
と、もっともらしく言い、そもそもカノンには毎週末に訪問すると言ってあるのだから何の連絡もなく不在なカノンも悪い、と言い聞かせる。
ソファで仮眠を取り(エセルは決してカノンの寝室のベッドは使わせてくれなかった)、のんびりと帰路につく(エセルが絶対にここには泊まらない、と言い張ったので)。
俺はカノンと違って常識があるので、空けたビール瓶の下にきちんと
「ビールご馳走様」
と一筆置いて鍵は閉められない旨詫びてドアを閉めた。