まあ、鈍い奴だというのは分かっていたけれど。
流石にむかついたから突き放してやった。
そもそも、事の発端は2月に遡る。
事前から約束してあったイタリア行きが当日キャンセルになった。
理由は、半年後、デス先輩からうっかりリークされるまで、こちらに伝えられる事はなかった。
六月。あいつが卒業演奏をするというので、仕事のスケジュールを無理矢理に空けて、聴きに行った。
2月の埋め合わせのつもりか、随分立派なホテルをとってくれていたけど、シャワーを浴びて出て来たらあいつは服も着替えずに爆睡していた。
事情があったのは十分分かっているし、それを今更どうこう言うつもりはない。
相当がっかりしたけれど、十分暖かく見守ってやったはずだ、と思う。
それがまずかったのか、甘すぎたのか、
今に至るまで、あいつからそれを埋め合わせてくれようという提案も何もない。
もしかしたら11月の誕生日になにかあるかも知れないと思ったし、何もなくても、イタリアまで祝いにいってやろうと思って、8日の週の週末を空けておいたのに、あいつはさっさと自分の仕事を入れていた。
何かをして欲しいわけじゃない。
こちらがどれだけ残念な思いをしたか、言わなくても、笑っていても、分かってくれていると思っていた。
でも、多分、あいつは全然わかっていない。
どうして先日、ナポリまで行っておきながら、電話のひとつもかけられなかったのか、
きっと真面目に考えてもいないのだろう。
次に会ったら、一日二日じゃ収まらないなんて、
結局、あいつにはもうそんな情熱はない、ということなんだろうな……。
まあ、お互いそろそろいい年だし、当たり前、といえば当たり前か。
サガ先輩は大変だとは思うけれど、こんなとき、本当に羨ましいと思う………