双子座流星群

極大日から一日遅れて、双子座流星群を見た。


仕事で郊外へ出て、帰りが遅くなった。キャブを呼んだがなかなか来ず、外へ出て空を見上げたら、明るい流星が長い尾をひいて西の方角へ消えた。そういえば、昨日は双子座流星群の極大日だった、と気付いた時、またもう一つ、今度は北に向かって流れ落ちた。
実は、この有名な流星群を見るのは初めてではなくて、結構な頻度で見ている。
ミロが、「双子座」という名前から5月末に誕生日を迎えるサガ先輩を連想するのか、何かと極大日近辺には電話を寄越すからだ。(そういう繋がりなら、アイオリアの獅子座流星群も結構な見物の筈だが、その誘いはかかった事がない…)
寒い真冬に、丘の上まで上った事もある。ほんの散歩のつもりが、結構ハードな坂道だった上に、懐中電灯すら持って来ておらず、大変な目に遭った。朝迄毛布を被って空を眺めていたら、明方の淡い光の中、実は周囲に結構な数のキャンプのテントが張られている事に気付き、少々恥ずかしい思いをしながら下山した事を覚えている。
今年は、近辺に色々な事があって、二人ともすっかり失念していた。
思わず、携帯に手を伸ばしかけて、その事に苦笑した。
今日はつながらないと、わざわざ昼間に電話を貰ったのに。
今日一日、こちらは全く何時も通りで、それなりに得意先に営業もしたし、現場の調整もした。
今頃どうしているか、少しは想像して嫌な気分になるかと思ったが、顔も知らない相手に嫉妬するのも簡単ではないらしく、今に至っても全く現実感が沸かない(ミロが女性に色目を使っている所を見た事が無いからかもしれないが)。
我ながら、薄情なものだと、少し困惑した。
こういう時は、少しくらい嫉妬した方が、上手くいくのじゃないだろうか。
最後の調整が終わり、そんな事をつらつらと考えていた時に、その流星は明るく視界を横切っていった。
今現在起こっている私の知らない出来事には心を動かされなかったが、たった一つの確信が、鮮やかに胸に傷を残していった。
きっと間違いなく、ミロは今双子座流星群の事など思い出しもしていないだろう、ということ。
この流星を見ているのが、自分一人だということ。
思わず、寒さも時間も忘れて見上げ続けた十数分の間、流星は両手の数に余るほど降り続け、その数の分だけ、かすかな痛みを生んだ。
昨日は、太陽の活動が活発で、大規模な太陽風も起きたという。
極地では今、鮮やかなオーロラが舞っている。
このイギリスでも、北へ向かえば遠く地平線を這うように、光の帯が見えるだろう。
いつか、オーロラを追って、二人で北へ向かうのも悪くないな、と思った。

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