不機嫌

大ショックな事が起きた。


(人間の)アイオロスが長期出張で留守にしているので、家に帰るとウサギだけの生活が続いている。
夜、家に戻ると、まず小屋の掃除をして、部屋を仕切り、窓側にロス、内側にえせるとプチの遊び場を作る。
本当はこの三匹を同時に出せればよいのだけれど、プチがまだ避妊手術前で、オスの匂いのするロス(去勢手術済み)に猛然とアタックしてはふられる姿を見るのが哀れなので、今の形におちついた。
女性二匹(?)は、二人で入ればそれなりに楽しそうにしている。
問題は、ケージの向こうに分けられたロスだった……。
いつもなら、生活の拠点はロスの陣地側にあり、食事をとるのも、その後アイオロスとのんびりするのも、窓側のソファとテーブルになる。アイオロスの仕事机もそちらにあり、台所でかたづけをしている私はえせる達をあしらいながら、ロスはアイオロスが仕事をしながらたまに足下で構ってやっていた。
アイオロスが出張し、その生活が変わったのが、一週間前のことだ。
食事と言っても一人ではたいした準備もする気がおきず、リビングに運ぶのも面倒なので、キッチンの横のテーブルでとっていた。
私の仕事机もキッチン側、つまりえせる達の領域にある。
結果、ロス側の領域に足を踏み入れる事が格段に減った。
気がつくと、部屋を仕切ったパネルに前脚をかけて、立ち上がりながら、心細そうにこちらを見ている。
その度に一応頭を撫でてはやるのだけれど、結局仕事机がキッチン側にあるものだから、必然、ロス側に足を運ぶ事は少なくなっていた。
ウサギというのは、思いのほか、不満をはっきりと表す生き物だ。
食事も、大好きな野菜も、きちんとやっていたつもりだったけれど、それは唐突に(ウサギの)ロスの中で爆発した。
ロスは、ミロが亡くなった先代のロスを忍ぶ為に贈ってくれたリヤドロの花うさぎの置き物を、何度も振り回しては投げ飛ばしたのだ……
ウサギという事がわかるのか、何故かロスはあのウサギの置き物に敵意を抱いていて、よく以前から顎をすりつけたりしていた。それでも、今迄は投げ飛ばすような事をしたことはなかったから、バスルームから戻って来た時には、一体何がすさまじい音を立てているのかわからなかった。
慌ててロスから置き物を取り上げてみると、既に可愛らしく飾られた花の花びらが数枚割れていた……。
流石に、胸がつまって、ロスを厳しく咎めてしまったけれど、ウサギに怒られた理由が分かる筈もない。
それでも、普段なら少し反省した表情を見せるのに、ロスの目は、まだ不満だと、怒っていた。
溜息をついた。
先代のロスも、特別扱いが好きなウサギだった。
勿論、人間のロスだったら、ここ数日の彼に対する私の扱いを、決して赦しはしないだろう。
仕方なく、仕事スペースをロスの机に移した。えせるとプチは、二人で遊べるからまだいい。
私がロスの机で仕事をするようになると、漸く(ウサギの)ロスはまたあの無邪気な表情に戻って、何度も頭を撫でてくれとねだりに来た。
寂しかったんだね、ロス。
割れた花びらのかけらを拾い集め、花ウサギと共に先代ロスの遺灰の前に置いた。
この週末は、磁器用の接着剤を買って来て、これを復元することにしよう……

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