まったく

一度こうと思い込むと真面目に思い込むんだからなぁ…こいつは…。


最近の不安定さに拍車をかけてエセルの様子がおかしくなったので、金曜の晩、なんとか仕事を切り上げて自分用にビールと肉、エセルようにうさぎの葉っぱを地下鉄駅構内にあるデリカッセで購入して帰った。
エセルの帰宅は夜九時を回ってからでそれまでにうさぎ共のトイレと掃除と、リビングにまき散らかされた糞を掃除機でざっと吸い取って準備万端。
疲れ切った顔をして帰って来たエセルに、にっこりと笑ってお帰りと言い、コートを受け取り、食事が出来ているとテーブルを示す。
エセルがサラダなるうさぎ葉山盛りの「飾り」を出す時に使うガラスの器にエセルようのレタスとベビーキャロット、それからカッテージチーズを降り掛けた皿と、バゲット、牛肉のステーキ、缶からあけたスープを温めたもの。適当に買って来たパン。そしてとりあえず、二本のビール缶。
エセルは一瞬何かを言いかけたが、それを口を閉じて飲み込んで、ありがとうと小さな声で言った。多分笑顔もつけようとしたんだろうが、笑顔になってなかった。
さて、食欲がなさそうなエセルに気付かないふりして、ニコニコと食事を続けること小1時間。あいつはスープと野菜と肉を二切れ、パン数口を口にして、手が止まってしまった。
俺の食事が済むのを見計らい、ようやく言葉を出そうとした、そのタイミング、その時に、にっこりと笑って
「ところでさ、サガ」
と言った。
エセルの目がぱっと開き、綺麗なグリーンの虹彩がまん丸に見える。まあ、サガの事をサガと呼ぶのは最近滅多にないからな。
これで、掴みは出来た。
にっこりと、余裕たっぷりに見えるように、笑ってエセルに聞く。
「どうした? またなんか新しい悩み事見つけたか?」
にこにこして、さあ話してご覧?、というオーラを全身から出していると、エセルはようよう彼の執事がやって来たとの話をしてくれた。
あれまあ、かなりのご老体と聞いていたんだが、フットワーク軽りぃんだな。カノンより動くなぁ。
今、エセルは結構マイナス思考に嵌っているから、あんまり余計なちょっかいは欲しくなかったんだが……。ふむ。
と、暫くエセルの話しを考えるふりをして、さてどうやってエセルのこの固くなってしまった頭を解してやろうか、と考える。
目の端に、ぬるくなったビールの缶が一本、開けられないまま残っている。
「なあ、サガ。俺がお前に好きだって言ったのは16の時で、それからもう20年近く経つわけだ」
にっこり笑って話し出すと、エセルは不安半分、困惑半分といった顔で俺を見つめた。
「まだまだ死ぬまでには時間があるだろうが、今までの人生の中で、お前が一番好きだし、これからもそれは変わらないと言い切れる。お前が、俺に抱かれるのがイヤだって言うんなら触らないようにする。外で遊んでくるのがイヤだって言うんなら、まあ、極力努力する」
俺はエセルの鋭くなってしまった頬のラインに指を伸ばした。
「お前に不愉快な思いをさせているのは、俺の甲斐性がないからだ。すまん。それは謝る。だけど、俺だって完璧な人間じゃないし、外から見ればだらしが無いところばかりだと思う。でもさ、それでもお前が側に居てくれるから、無茶も出来るし羽目も外せるし、何をやってたって楽しいんだ。
正直、お前に出て行かれるのはかなり痛いし、お前には嫌われるのはごめんだ。
なあ、どうしたらもう一度俺に惚れてくれる?」
エセルは眉を顰めて、うつむいて、それから苦しそうに、お前を嫌いになったというわけではない、という。
俺は、それをやさしい顔をして聞く。
うつむいて、なんとか言葉を探そうとしているサガの頬をゆっくりと撫でて、俺はテーブルごしに、ゆっくりと長く深いキスをした。

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