あっという間…

日曜は2時からカルテットのコンサートをするのできちんと朝には起きて食事を取り10時からのステリハに間に合うように家を出た。
カミュもリハーサルを覗いて見たいと言うので一緒だ。


乾ききっていない石畳を歩き、バスに乗る。
景色を見ているつもりでも、頭の中は今日やる曲の事で一杯だ。
そして、はっとなる。
昨日、カミュに「嘘つき」と言われた。
音楽の事を考え始めたら、カミュの事なんか一切考えないと。
すぐに、そうでなくてはならないし、気にしてない、とは言われたけれど、痛かった。
隣にいるカミュに視線を向けると、同じように外に視線を向けていた。
今は、公共の場にいるわけだから、恋人として扱っちゃいけないんだよな?
って事は、カミュの事考えて無くても失礼にはあたらない??
真面目に考え始めると頭が痛くなってきて、しかも結局考え続ける事も出来なかった。
バスを降りて、小さな教会に向かって歩く。
今日の会場はここ。
すでにチェロのラファエッロが来ていて音響の具合を確認したりしていた。
カミュが彼らと会うのは2年ぶりくらいかな?
寄りを戻して最初のカミュの誕生日にレストランで彼らとカルテットをプレゼントしたから。
残りの二人も間もなくやって来て、丁度良いからカミュに音のバランスなんかも確認してもらいながら二時間みっちり弾く。
午後一時半に開場、二時開演。
演目は、
Mozart B-Dur KV589,
BartxJ刹 Nr. 4,
Schubert a-Moll D804 ”Rosamunde”
近くのバーで軽く一杯引っ掛けて、今日の演奏と来年のスケジュールについて話し合った。
来年は、弦楽四重奏としてイタリアのコンクールに二つ、出るつもりでいる。
なるべくカミュが疎外感を味あわないような会話をしたかったけれど、四人集まればどうしても話は結局そこに流れていって……。
七時前にはカミュと二人で席を立って空港へ。
こんな時間でも、見送りや出迎えに来ている人たちがいて、笑顔や寂しさを訴える表情を浮かべている。自分とカミュはどんな風にこの空港の中に立っているんだろう? といつも考える。
服を脱いで抱き合ったって、結局こうして暫くのさよなら。
「Give me a hug…」
そう言ってカミュの体に腕を回したら、懐かしいあったかさと微かな匂いがして途端にとても寂しくなる。
荷物検査のゲートをくぐるカミュの姿をギリギリまで見送る。
最後に、カミュが振り返り、手を振ると、彼の姿はそのまま壁に隠れて見えなくなった。
湿気と冷気の入り混じった夜気の中に一人歩き出す。
さっき、付いていってしまいたいと思うくらい寂しく思ったのは本当。
今朝、いつまでもカミュとベッドの中に居たいと思ったのも本当。
でも、今、歩きながら今日はこれから後何分楽器が弾けるか考えている自分も本当なんだ。
カミュが居なくなった空間に、どんどんと音楽が入り込んで来る。
それに、全てが侵食される前に、ロスに連絡を入れて置こう、と頭の中にメモを書きとめる。
最後の最後に、クリスマス、絶対に行くからね、と言ったけれど、カミュが自分から積極的に教えてくれるか、少し怪しいかもだから……。
ロスに、情報回してもらえるように頼んでおこう。

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