昨日12月25日、例年ホワイト・クリスマスにならないかと期待されながら、ロンドンでそんな白いクリスマスが訪れる事は滅多にない。
先の23日に今年はサガ先輩を連れて実家に顔を出すと得意になっていた兄貴が、昼のディナーに本当に先輩を連れて実家にやって来たのには驚いた。
毎年、鶏肉を食べにやって来ては夜はうさぎの世話があるからと一人で日の落ちた静かな街に消えて行っていた兄貴の背中を見慣れていた身としては、クリスマスの奇跡というものはあるものなのかもしれない、などとバカなことを考えてしまった。
しかし、うちの母親も心配していたが、本当に先輩は伯爵家に行かなくても良かったんだろうか……。
クリスマスと言えばその翌日のボクシング・デーと合わせて、既婚者ならどちらの実家に行くか、未婚でも親戚の誰の家に集まるか、結構熾烈な争いが繰り広げられるものなんだが……。
(ちなみに今年うちのじい様立ちは親父の妹の家に招待されて行っている)
兄貴はすっかり甲斐甲斐しく先輩の皿に食べ物を積み上げて、それを先輩が後でこっそりと兄貴の皿に移し、食後は大量のプレゼントの交換会。
まださっぱり意味の分かっていないレイは破れた包み紙やリボンの方に興味を示していたけれど、ミリアムの方は親父とお袋、そして兄貴と先輩からのプレゼントに興奮しっぱなしだった。
深夜のミサに出てきたと言っていた兄貴は、夕方には生欠伸を連発して、六時の鐘が鳴る前に先輩と連れ添ってテクテクと全ての交通機関の止まったロンドンに飛び出していった。
誰よりも道路から遠いところにある頭の、その天辺に、一面の花畑を揺らしながら、兄貴はいい加減草臥れて見栄えもしないナイロンの長いマフラーを首周りに巻きつけて歩く。
その隣を、柔らかい、兄貴の瞳の色と同じカシミヤのマフラーに長い首をすっぽり埋めて歩くサガ先輩。
不景気の冷たい風なんぞ何処吹く風の二人の後姿が、一瞬とても頼もしく思えた。