誕生日の夜、実家から戻ってみると、………
家のドアの前が大変なことになっていた。
リボン付きの薔薇の花束……1
キャットグラス(というのか? 猫用に売っているイネ科植物の苗)……2
手作りらしいチョコレートケーキ……1ホール
イタリアのワイン……2本
表書きのない手紙……1通。
家には居ない、とわざわざ前日にメールを入れてやったのに、これだ……(溜息)。
物珍し気にこちらを眺めていく同じアパートの住人の視線が痛い……(汗)
というか、あいつこの部屋の鍵持ってるはずだろう!
こんな所に放置せず、部屋に入れて花瓶に生けて、ケーキは冷蔵庫に入れておけ!
チョコレートケーキまであるのは、一週間後のバレンタインにかけているのか?
しかし、そもそも、この手の「記念日」にまったく無頓着だったのはむしろあいつの方だ。
数年前、折角よりを戻したのだから、とロンドンからバレンタインに花束を送ってやったら、大層驚かれた(怖がられた)。その後も、誕生日(自分のも、私のも)の前後に仕事は入れるわ、挙げ句の果てに当日デートをキャンセルはするわ、どう考えてもあいつ自身が「記念日」に拘っているとは到底思えない。
私が人並みにそのあたりを気にするので、「忘れてはいけない日」と半ば義務感で気にしているのだろう。
折角、「記念日」に人の機嫌を損ねないよう戦々恐々としなくても良くなったというのに、何を今頃焦っているんだか……。
逃げると追う癖があるのか?
……結構釣った魚に餌をやらない傾向があるからな、ミロの奴。
あの顔でソレは、はっきり言って男として最悪だな。勘のいい女性は相手にしてくれないぞ。
手紙の中身は、案の定、会って話がしたい、とのこと。
わざわざ往復の飛行機代を使っての頼み事を無下にするのも流石に可哀想なので、手短にワインの礼に添えて今月末の引っ越しに合わせて自分の荷物を整理しに来い、とメールしてやった。
キャットグラスは、ひとつづつウサギ達のケージに入れてやったら、ものの三分で丸坊主に。
……水をやったら、もう一回くらい生えてこないかな。