早朝、ホテルから戻り、互いに出勤準備を整えてキッチンに下りて来たら、既にアイオロスが身支度を済ませて冷蔵庫の中を深刻な顔で見つめていた。
未明に出て来たからお腹が空いたのかと思い、何か軽食でも作ろうか、と言おうとして、アイオロスが熱心に見つめているものに気付いた。
……卵とトマトだ。
途端に、よくない考えが脳裏を過って、思わず両方とも掴んで取り出した。卵は買ったばかりで12個あったが、全部割ってボールに入れ、トマトも賽の目に切って刻んだクレソンと合わせた。
危険だ。
そろそろイングランド代表が帰国する頃だし、事務所に向かう筈がうっかり卵のパックを持ってヒースローへ、なんて弁護士が弁護される立場になったら洒落にならない。
卵に少し牛乳を足して、塩と胡椒で味をつけてフライパンに流し込み、トマトとクレソンを包んでオムレツを作っていたら、流石にアイオロスが怪訝な顔をして近寄って来た。
「……何、朝からそんな特大オムレツ食いたいの?」
……イングランド敗戦後、初めて口を開いた台詞がこれだ……(涙)。
人の気も知らないで、と言ってやりたいが、それでも喋るようになっただけ、まだましというところなんだろうな……(溜息)。
とにかく、当面卵とトマトを買ってくるのはよそう……。
(後で新聞を見たら、イングランド代表は既に昨日のうちに帰国していたらしい。もっとも、だからといってヒースローが個人宅になるだけで、状況が大して変わるとは思えないが。)