漸く二人顔揃えて来たと思ったら、肉食って酒くらってバカ話だけして帰りよった。
成程、思い込んだら一直線のバカ正直な兄貴と違って、あっちは一筋縄じゃいかねえな(笑)。
大体、兄貴の話の運び方なんて、捻りもなんにもない直球ストレートだから、大体想像はついていた。
まあ、こっちも余計な探りは御免だし、お互い言いたい事言っていきなりガチンコで構わない、と思ってたんだが……
アイオロスの奴、悉く、兄貴の台詞を軽くいなして無視しやがった(笑)。
三時間かけてロンドンから出て来て、酒と肴持参で、喋ったのは偉大なる大英帝国をどうやってコケにするか、それだけだ。
もう、途中で可笑しくなって、笑いを堪えるのに必死だった。
兄貴はもう途中から悲愴な顔してるし、俺達の話には割って入れねえし。
あれって、殆どイジメだよな(笑)。
といっても、別に、兄貴に意地悪をしようとしたわけじゃない。
アイオロスの策略に乗ってやろう、と思ったのは、奴のスタンスがはっきり見えたからだ。
俺達、カウンセラーは、クライアントと話す時、決していきなり突っ込んだ質問はしない。
もし十の時間をカウンセリングにかけられるとしたら、その半分以上は相手との信頼を築くのに使う。
信用してもらっていない相手に、何を言っても、有益にならないどころか、ここぞという時の切り札を失うばかりだからだ。
情報も、言葉も、相手が聞く気になっているときに与えて初めて意味がある。下手に何度も繰り返せば、一番大事な時に耳がすっかり慣れてしまって、心の底まで届かない。
だからこそ、初対面でそれを乱発して、言葉を鈍らせるような真似は絶対にしない。
サガが買ってきたワインをたてつづけに空けて、バカ笑いして鬱憤を腫らしながら、同じ匂いを、俺はアイオロスに感じた。
アイオロスは、少年犯罪が専門だという。
大人や世間に対し不審感の固まりになって、犯罪を犯した少年達は、人間不信に陥ってカウンセリングが必要なクライアントと精神状態としてはほぼ変わらないだろう。つまり、俺達は、ある意味非常に近いところで仕事をしている、というわけだ。
で、「信頼第一」な奴の姿勢が、ポリシーからくるのか、それとも俺に対するなんらかの危機感からきているのか(つまり奴は俺がどういう育ち方をしたか知っているからな)、あれだけでは判然としないが、そういう姿勢は決して嫌いじゃない。
世の中、人の心を甘く見て土足で上がってくる奴がごまんと居る中で、そういうセンスを持っているというのは今時珍しいからな。
(逆に兄貴は、自分も相手も傷だらけの交渉をしかけてくるから、それはそれで稀少だが……あんなのに迫られたら、土足云々の前にその迫力に負けて引き下がるか、返り血で泥を気にする余裕もなくなるか、どっちかだ)
だが、俺は、カウンセリングが必要な患者でも、奴の庇護を必要とする少年でもない。
そのへん、これからあいつがどう仕掛けて来るつもりなのか、じっくりお手並み拝見するとしよう。
ま、バラ・マーケットの美味い肉が毎週食えるのは、決して悪くないしな♪
(実家の料理は、お上品すぎて食った気がしないからな……やたら素材を弄り過ぎだし。
肉なんて焼くだけでいいし、野菜は生で十分なんだが。)