イタリア出張

9月10日から14日まで、イタリアのナポリ市に滞在した。
ひところ話題になったゴミの山ナポリの印象があまりにも強くて正直乗り気はしなかったのだが、大学時代の友人に講演を頼まれ、断るに断れず受諾することとなった。


イタリア語は分からないので、ホテルも適当に先方の勧めてきたものの中から選んだ。
どのホテルもサンタ・ルチア地区にあって、やたら高い。会議の参加者用に割引価格90ユーロの設定があったHotel Rexに滞在することにした。
ローマまでは何度も足を運んでいるが、それより南に下ったことはない。
多少警戒しながらナポリ空港をへ降り立つと、外は快晴、予想通りの夏日だった。

小さな空港で、電車はなし。バスで市街まで行くことになるが、なにしろホテルが海岸沿いなので、バスも乗り換えになる。それでも空港からのバスの運転手は英語が話せたので助かった。
バスが走り出してすぐに、空港の玄関から駆け出してきた人影があった。なにしろ道は殆ど交通規制の無法地帯というか、タクシーは容赦なく割り込む、人は信号無視して勝手に横断する、そもそも車線という概念がないらしい(?)と三拍子揃っているので、出発してもそう簡単に前には進めない。
走ってきた人はバスのドアを叩き、乗せてくれ、と主張しているらしい。どうせ止まっているのだし、停留所から10メートルも離れていないのだから乗せてやるだろうと思っていたら、運転手はきっぱりと無視した。
………。
意外と、こういうところは厳しいのか。
そう半ば感心していたら、バスが百メートルも進んだ頃、先の客が追いついてきて、何やら扉の外で文句を垂れ始めた。
この暑い中、トランクを引きずってバスを追いかけて来る根性も大したものだ、と呆れていたら、運転手の隣に居たバス会社の職員らしき男がいきなりキレた。
一体彼はバス会社の職員なのか、交通整理の警備員なのか(だとしたら全く仕事をしていないに違いない)、とにかく運転手に扉を開けさせ、耳触りな大声で外の客と喧嘩を始めたのだ。
しかもそれでは腹が収まらないのか、バスの中を熊の如く歩き回りながら、何を主張したいのか分からない身振り手振りつきで、大音声で喧嘩をやっている。
流石に、前に座っていたドイツ人が静かにしてくれ、と言ったが、まったく聞く気配もない。
結局、ゴネた客は追い払われたが、男は延々何事かを大声で喋りつづけている。漸くカープールを出るか、という頃に、今度は運転手と口論になり、五分後に漸くこの男もバスをたたき出された。
早々に疲れてバスの窓から外を見やると、これまた恐るべき無秩序の世界が広がっている。ただでさえ狭い道に車は二列駐車、ひっきりなしに鳴り続けるクラクションの音、その車の隙間から歩行者がジグザグに道を横断して、その度にバスは急停車。遠くで救急車のサイレンが聞こえるが、一体この凄まじい道をどうやって縫って走るのか見当もつかない。たかだか数キロの距離を移動するのに一体どれだけ時間がかかるのか、並の感覚に2倍くらいかけて見積もっておかねば会合に遅れそうだ。
いつ人を轢くか、とヒヤヒヤしながらバスに揺られて三十分、ホームページに書かれていた乗り継ぎ地点に着く。ここで下りて、21番のバスに乗れ、とあるが……案の定、路線図を見たら21番などここには来ない。ホームページの情報が間違っている程度のことは、この国ならいくらでもありそうだ。
さて、この先どうするか、と思案していると、スリランカ人の夫婦が英語で声をかけてきた。いかにも旅行者で途方にくれている、といった風に見えたのだろう。行き先のホテルの名前を言うと、「それなら4番に乗ればよい」と教えてくれた。
さて、有り難く教えに従って4番に乗ると、すぐにイタリア語のアナウンスがあった。「サンタ・ルチア」と何度も繰り返し、その単語だけが聞き取れる。次はサンタ・ルチアだ、と言いたいのだろう、と解釈し、そのサンタ・ルチアで下りるつもりでいたのだが……
結局、バスはサンタ・ルチアには向かわなかった……。
これは、スリランカ人夫婦が間違っていたわけではない。なんと、この日に限り、サンタ・ルチア通りが閉鎖されていたのだ!
バスの運転手は、道が閉鎖されているため迂回する、と何度もアナウンスしていたというわけだ。
終点で漸くそのことに気づき、なんとかサンタ・ルチア通りに行きたいのだが、と運転手に訴える。
初老の運転手は、数少ない知っている英語の単語を使って懸命に説明してくれた。140番に乗れ、という。何処から乗ればいいのか、と聞くと、なんとその停留所まで連れて行ってくれた。
唯一知っているイタリア語で「有り難う」を繰り返し、140番に乗り換えて漸くサンタ・ルチア通りに辿り着く。ホテルに着いたのが午後一時半。まだチェックインまで時間があるが、荷物だけでも置かせてもらおうとフロントにかけあうと、なんと予約は昨日から入っているという……(汗)
慌てて確認すると、クレジット・カードの番号を知らせたFaxに書かれた日付が、一日間違っていた……。
一泊分余計に払わなくてはならないか、と肩が落ちたが、とにかくここへ来るまでにかなり疲れていたので、正直部屋がすぐに使えるのは有り難かった。部屋についてすぐにシャワーを浴び、明日の発表用のプレゼンテーションを見直したところでどうにも睡魔に勝てず、結局夕食もスキップして寝てしまった。
翌日。
朝八時半に迎えのバンが来るというので、二十五分にホテルの外で待つ。もう一人、カンファレンスの参加者とみえる人が待っていて、二人で雑談をしながら待った。
……が、五分過ぎても、十分過ぎても、迎えは現れない。
二十分ほど過ぎたころ、漸くちいさなバンが目の前に止まる。あの道路状況では、20分遅れで済んだことの方がむしろ驚きか、と半ば諦めて車に乗り込むと、「他のメンバーが揃うまで、あと5分待つ」と言う。
他のメンバーだって?!
確かに、カンファレンスの推薦ホテルだというのに、二人しかいないのは不思議だと思っていたところだったが……
他に、フランス人グループが泊まっているらしい、ときいて、ああ、なるほど、と妙に納得する。
結局彼等は現れず、ミニバンは我々のみを乗せて大学へ向かった。
会議は九時半に始まり、夕方の七時まで続く。結構なハードスケジュールだ。
夕刻、まだうっすらと明るい中、夕食の場所に向けて出発する。途中、ベスビオ火山のカルデラの上からナポリの夜景を見下ろす形になり、その美しさに暫し見蕩れた。
成程。あの雑然とした部分が見えなければ、たしかに美しい街だ。
ついた先は、ローマ時代からある遺跡の前。ナポリはベスビオ火山による地殻変動のため、海抜が結構頻繁に変わるらしい。ローマ人はその事を知っていて、水位を測ることによって海抜を知るための建造物を作ったということだった。
この写真の遺跡は、海に地下水路で繋がっている。現在は水がないので、この場所は海面より高い、ということになる。写真では暗くてよく見えないが、柱には昔ムール貝がはりついていた痕跡が残っていて、その場所までは水があったということらしい。

しかし、地面が隆起しているということは、地下でマグマが溜まり始めているということじゃないのか??
歴史的にみると、ポンペイが埋まった紀元79年の噴火以来噴火の規模は小さくなってきているらしいが、1944年にもサン・セバスティアーノ村を埋没させているというし、油断ならない。
この遺跡を眺めながら夕食ということで、三十人からのテーブルに次から次へと料理が運ばれてきた。海が近いので、Sea Foodが多い。味は悪くないのだが……如何せん量が多い。二十皿以上の前菜、リゾット、パスタでコースは終わりだが、最後のパスタは流石に食べ切れなかった。
食事が終わったのは夜十一時半、それからこのMeetingの主催者の一人Paoloにホテルまで送ってもらったが、途中広場のレストランはまだまだ大盛況で、遠くで爆竹を鳴らす音も聞こえた。まだ平日なのに、と言うと、Paoloは「ナポリの夜は始まったばかりだ」とにっこり。
……一体、彼等は昼間本当に働いているのか??
翌日は、午前中はExcursionでベスビオ火山見学。天気がよければ山頂からの景色は絶景、とのことだったが、生憎もやがかかっていた。まさか講演に来て山登りさせられるとは思わず、革靴で来てしまったから大変だ。途中、少し雨がぱらついたが、すぐに止んでくれた。
山のように見えるのが外輪山。その谷の部分に埋もれているのは、1944年の噴火時に流出した溶岩。

山頂からのナポリ市の眺め。

思わぬ遠足に少々疲れつつ、午後のセッションを終えて、カンファレンスは終了した。夕食にナポリ名物のピッツァ・マルガリータでも食べようかと思ったが、部屋に着いてシャワーを浴びたら動く気になれず、そのまま寝てしまった。
翌日。
カンファレンスは終わったが、フライトは翌日の14日に予約していた。というのは、15日から5日間オランダのユトレヒトで別のカンファレンスがあったからだ。
オランダに一日早く着いてもよかったのだが、ポンペイでも見に行こうか、と欲を出してもう一日滞在することにしたのだった。が……
前日、革靴で無理に登山したため、足にマメを作ってしまい、長距離を歩けそうにない。ポンペイはたいへんな広さだというので、結局ポンペイは諦めた。
ガイドブックを見れば、カプリ島に行って青の洞窟を見る、というコースも紹介されている。青の洞窟は一度は見てみたいけれど、天気が怪しくなりそうなのでこれも断念した。この手のコースは、一人で行くよりはミロと一緒に行った方がいいと思った、という理由もあるが。
(しかし、あんな場所に男二人で出かけたら、かなり悪目立ちするかもしれないが……)
それで、結局、大人しく市内を観光バスで回ることにした。
バスは一時間に4本ほど走っていて、好きな場所で乗車したり下車したり出来る、ヨーロッパでは最近どこの都市でも見かけるタイプのものだ。
ホテルを出てバス乗り場のカステル・ヌオーヴォ前に向かう。サンタ・ルチア通りへ出たところで、いかにもナポリらしい光景を目にした。
三階の窓から、そこの家の住人と見える女性が、バスケットを下までぶら下げている。下に居る男が代金を受け取り、商品をバスケットに入れる。便利だとは思うが、下に行って買う手間がそれほどかかるかと言えば、そうでもないような気もする。

土曜の朝のサンタ・ルチア通りは車も少ない。歩行者用道路に、ミロの車と同じタイプの車(Smart)が泊まっていた。隣のセダンと比べると、如何に寸詰まりのデザインかよくわかる。とにかく駐車スペースがないイタリアで、縦列駐車用スペースに横向きに駐車できる、というのが売りの車だが、それ以前にもう少し路上駐車をなんとかする工夫をしたら良いのではないか、というのが正直なところ。建物の外観を崩せない旧市街はともかく、少し旧市街を離れればいくらでも駐車場くらい作れそうなものなのに、全く駐車場がないのだ。

カステル・ヌォーヴォからバスに乗り、まずは旧市街の中心へ向かう。……が……これまた大渋滞で、ちっともバスが前に進まない。そういえば、空港からホテルに辿り着くまでもそうだった、と気付いたがあとの祭り。

当初の予定では、まず考古学博物館の近くで下り、博物館を見てからフニコラーレに乗ってセント・エルモ城まで上がり、ナポリを一望して下りて来る予定だったが、渋滞の遅延のためか、バス停に止まったと思ったらすぐ発車してしまい、結局市内では下りそびれた。バスはそのまま郊外へ向かい、博物館へ。
途中、陸橋から見えた風景に唖然とする。
ナポリは、確かに古い建築物もかなりあるのだが……あまり、それを綺麗にしておこう、という気はないようだ。古く価値のあるものと、殆ど廃墟に等しい雑然としたビルディングとが混在している。観光バスの録音ガイドは、それがまたナポリの魅力だ、などとしきりに繰り返しているが、EUの国をそこそこ巡ってみた印象では、これはやっぱり魅力、というよりは街を美しくしようという努力をサボりすぎ、という印象がしてならない。
もっとも、そんな気があったら半年間もゴミの山に埋もれていたりはしないのだろうが。
(ところで、市内のゴミの山は一応消えていた。郊外に持って行っただけだという話ではあるが。しかし、何処にゴミがあったかが分かる程度には、散らかっている。そして、野良犬が皆随分栄養状態が良い……ゴミの山ナポリは、野良犬には天国だったか?)

小高い丘を上り切ったところで、博物館に辿り着いた。これまでの観光ポイントと異なり、あまりに静かで落ち着いた場所だったので、この博物館を見学する予定はなかったのだが、思わずバスを下りてしまった。

博物館内部のある一室。こういう部屋を見ると、どういう証明設計をしたら良いか、などとつい考えてしまう自分の職業病が恨めしい。

次のバスに乗り、市内に戻る。一応、考古学博物館だけは見ておこうと、別の観光バスに乗って博物館まで戻り、ポンペイからの出土品などを見る。途中、人だかりがしている部屋があって、何事かとよく注意書きも見ずに足を踏み入れたら、所謂アダルト・エリアだった……(汗)。といっても、美術品に描かれたエロスなどというものはわざわざ年齢制限をするほどエロチックなものではなかったのだが。何やらオリエンタルな印象の強い彫像がいくつかあったが、極端に性器ばかりが強調されたそれが実は置き物ではなくて実際に使う道具なのか何なのかは、説明書きがイタリア語だけだったのでわからなかった。
そもそも、この考古学博物館はガイドブックにも必見と書いてあるような重要な博物館なのだが、閉鎖中の部屋が多かったり、照明が暗くて見にくかったり、展示方法に統一感がなかったり、イタリア語の説明しかなかったりと、色々微妙なのだ。
勿論、ここはイタリアだから、別に各国の言語で説明を書かねばならない、ということはないのだけれど……もう少し客を呼べそうなレイアウトとか照明とか考えられるのじゃないか? とついまた職業意識が頭をもたげてしまう。
展示物にそれなりに価値があるだけに、少々勿体ない。
博物館を出て、会議中に勧められたセント・エルモからの眺望をみてみよう、とフニコラーレに乗る。
有名なフニクリ・フニクラの歌のもとになったフニコラーレはベスビオ火山の登山列車だが、セント・エルモ行きのフニコラーレも短いながら立派な登山列車だ。途中、カメオショップのオーナーに道をききながら、漸くセント・エルモ城に辿り着く。
城壁からの眺めは、まさに圧巻だった。奥に見えるのがベスビオ火山。



昼間バスの上から見た雑然とした印象が嘘のような、美しい景色だった。
そういえば、夜の夜景がとても美しかったな、と思い出す。ナポリという街は、細部が見えない程度に遠くから眺めるのが一番良いのかも知れない。
ミロが、お前一人だけ狡い、とむくれるのが見えるような気がした。
そういえば、今日一日だけローマから呼び出すことも出来たのだな、と今頃思い当たって苦笑する。
もっとも、逢えば一日だけというのは却ってせつなくなるだろうし、こちらもまだ次の講演を抱えて気を抜けないから、これで良かったのだろうけれど。
山の上で三十分ほど景色を眺めてから、下山してホテルに戻った。
次の日の朝、ホテルをチェックアウトする時、ひとつ嬉しい事があった。
チェックアウトのレシートに、初日の分の宿泊代が加算されていなかったのだ。
こちらの手違いで一日前から宿を取ってしまっていたのだが、それをキャンセル扱いにしてくれたらしい。
最初のメールでのやり取りでは正しい日程で伝えてあったとはいえ、すっかり一泊分余計に支払うつもりでいたので大変有り難かった。カンファレンスの客だということを考慮してくれたのかも知れない。
ホテルでタクシーを呼んでもらい、タクシーに乗り込んだところで、そういえば昼ご飯がまだだったな、と気付く。この街の名物のピッツァ・マルガリータを昼食用に買いたいのだが、と運転手に頼むと、英語を喋るのは無理でも、マルガリータが欲しい、というのは理解してくれたらしく、近くの小さな雑貨屋兼ピザ屋に車を回してくれた。
少し待っていてくれ、と頼んだつもりが、どうも通じなかったらしい。そのドライバーは一緒に下りて来て、店に入った。彼も何か買い物をするのか、と思ったら、ピザを注文している(勿論イタリア語で)。それで、そうか、自分が行っても注文もおぼつかないのだ、と気付いた。
彼はそのままピザを受け取って清算まで済ませてしまい、私の方を見た。どうやら、何か飲み物を選べ、と言っているらしい。水のボトルを冷蔵庫から取り上げたら、その分の清算も済ませてしまった。
自分で払う、といったのだが……身振りでノープロブレム、とのこと。
仕方ない。チップを多めに払おう、と決めて車に乗り込むと、構わないから暖かいうちに食べろ、という。
有名なピザ店でもなんでもない、地元の人がおやつに買って食べるのだろうマルガリータは、素朴な味がして美味しかった。
ナポリ市内から空港まで、タクシーは一律料金なるものが設定されていて、ホテルのフロントでも20ユーロだと聞いていた。が、途中より道もさせたので、空港に着いたところで、一応いくらか、ときいてみた。
彼は、一瞬驚いたような表情を見せ、それから、30ユーロだ、と言った。
恐らく、そんな事を聞かれるとは思わなかったのだろう。ホテルからタクシーを呼ぶような旅行者は大抵一律料金のことを知っているからだ。
それで、一瞬の間に色々と計算をしたのに違いない。
思わず可笑しくて吹き出しそうになったが、相場を知らない振りをして、30ユーロを渡すと、彼は非常に嬉しそうに笑って去って行った。
真面目に計算すれば、チップが料金の10%、(もっとも20ユーロにはそれが含まれているのかも知れないが)ピザと水のボトルで大体3ユーロ、寄り道をさせた分をチップ積み増ししても、精々合計26〜7ユーロというところだろう。
まあ、それでも、回収出来るかどうかわからないピザと飲み物代を払って観光客にサービスをしてくれた点に敬意を払って、あと3ユーロを積み増ししたと思うことにした。
このあたり、人なつこくて親切な部分と、ちゃっかりしている部分が同居していて、ラテンの人間というのは面白い。もっとも、これが仕事の相手となると、いろいろこちらの常識が通じなくて面倒なのだが。
飛行機の窓からナポリの街を眺めながら、これは大変な国だな、と、実感した。
観光で来るならともかく、仕事をするには、あまりに雑然としすぎていて、仕事以外のところで大変な労力を割かれそうだ。市内の移動も簡単ではないし、会合には間に合わない人間が続出する。
言葉がまったく分からない、というのが大きかった部分もあるが、ローマにいる時には感じなかったストレスがあった。それは多分、ミロが私にそう感じさせないよう配慮してくれていたからで、だからこそ私は多分この国を見誤っていたのだ。
いざこちらに仕事の拠点を移すとなれば、いつもミロに頼っているわけにはいかないし……
その後、見事に都市計画から交通手段までオーガナイズされたユトレヒトを見て、矢張り言葉の問題ではない、と実感した。こちらは、町中にゴミひとつ落ちていない、緑豊かな美しい街だ。
旧市街で駐車場が不足しているのは同じだが、皆駐車スペースをきちんと守ってそこからはみ出したり、あまつさえ二重に縦列駐車などしない。そもそも、バスが非常によく組織されているので、あまり車の必要性を感じない。
要は、ラテンの国で仕事をするのはあまり性分にあわない、ということなのだ。
やはり、ロンドンの事務所は引き払わずに残しておくか……。

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