開通祝い……?

先週の金曜に、以前世話になったドクターにお願いして再検査をしていただいた。
つまり、その、外部には出せない検査なので、ドクターが直々に検査して下さった模様。
結果は、どうやら開通したらしい、とのことだった。


何時もより早い時間にアパートに戻ると、何故かそれよりも早くアイオロスが家に戻って来ていて、鍵を鍵穴に差し込んだ瞬間に扉を開けて出迎えてくれた。こんな時間にロスが戻って来ることは滅多にないので、おそらく仕事を早退して帰ってきたのだろう。
結果はどうだったか、と聞くので、口で言うのも恥ずかしくて検査結果の用紙を手渡した。ロスはさっと一番下の欄の数字に目を走らせると、ひとつ深い息をつき、私の肩をひとつ叩いて言った。
「よし。よくやった」
一体何がよくやった、なのかよくわからなかったが、取りあえずお腹をすかせているだろうロスの為に早めに夕食の準備をしようとキッチンに入り、思わず足が止まった。
流し台の横には、既にサラダやポテトと玉葱のソテー、鳥のフライ(バッファローウィングというらしい)が綺麗に更に盛りつけられていて、ガスレンジにはできたてのコーンスープが湯気をたてていたからだ。
「ロス、これ……!」
思わず呆然と見返すと、ロスはさっさと料理をテーブルに並べ、冷蔵庫からギネスを二本取り出し、グラスに注いでいる。
「ほら、飲め。」
「うん、有り難う……びっくりしたよ、一体何が?」
「勿論、開通祝いだ。遠慮するな、俺も昔親父にやってもらった」
「昔、って……もう二十年も前の話だろう? そのころになら、私もアレックスにこっそりワインで祝ってもらったよ?」
「馬鹿言え。男ならビールだ!」
ロスは盛大に眉を顰めてそう言うと、「Cheers!」とグラスをかち合わせて一気に呷った。
そしてここ数週間の不調を吹き飛ばすように楽し気にグラスを重ねながら、晩餐の総菜を買ったSainsbury’s Storeで見かけたフェアトレードコーナーの話や、最新式のBBQセットの話などをしてくれた。
私は普段の三倍の量とスピードでギネスを空けながら、ロスがそんなにも私を心配してくれていたことを嬉しく思い、また彼にオペのことを相談せずに受けてしまったことを申し訳なく思った。実のところ、私は、アイオロスがこんなにもこの件を気にするとは露程も思っていなかったのだ。私自身、アイオロスと一生暮らすのなら必要の無い機能だし、同じDNAならカノンも持っているのだから、私の方は失ってしまってもそれほど損失はないと思っていた。今迄決心がつかなかったのは、母が悲しむ事を思ったからに過ぎない。昨年のアイオロスの誕生日に合わせて旅行したモルディブで、ロスが養子をとることを考えていることを初めて聞かされて、最早手段を選んでは居られないと覚悟を決めただけのことだ。
このような事を言えばアイオロスは悲しむかもしれないが、私は、特に彼だからこそ、私が不能になろうが気にはしまいと思っていた。彼が私を男性として見たがらない傾向はとうに分かっていたし、私に女性ものの寝間着など買って来るのも、人をからかっているだけと知っていても、本心のところでは矢張り私の本当の性を見たくはないのだろう、と察していた。
それが、私が生涯不能となることにはっきりと反対の意思を示し、今こうしてその危機を脱したことを、彼と同じ性別をもつ人間として祝ってくれている。一体、クィーンズベリを出てから、アイオロスが私を彼の同性とはっきりと看做してくれた機会がどれだけあっただろう? 少なくとも私が覚えている範囲では、皆無に近い。
つい嬉しくてアルコールも会話も弾み、夕刻の六時前に始まった晩餐が九時に差し掛かる頃、珍しくかなり酔った様子のロスが私の肩を叩いて言った。
「しかしだな、やっぱりあんなモンは使えば開通するんだな! あのハムに出来た事がお前に出来ないはずはないもんな♪ ま、俺が散々絞ってやったお陰だ、感謝しろよ」
私もかなり回っていたが、この一言で酔いが醒めた。
……そういえば……。
実は、アイオロスが、その、ベッドの中で私の性器にあまり触れなくなって久しいのだが(つまり射精をしてしまうと私の方が疲れてしまって早々に寝入ってしまうので)、ここ一ヶ月はそれなりの頻度できちんと吐精させられたのだ。
つまり。
最近、寝室で常にもまして情熱的なアプローチが多かったのは、とにかく回数を稼ぎたかったからなのか?!
………………。
まあ、お陰で、無事開通したのだから、良かったのだけれど………(複雑)。

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