カノンから騒々しい電話が掛かってきた。喚いていたから受話器から耳を離していたので、何を叫んでいたのか定かではないが、「××兄貴」とかシャウトしていたようなので、帰ってからサガに何事かあったのか聞いてみた。
何でも実家から、仕事を辞めて家業を継ぐように言われたそうな。
えっと、今の時代は何時ですか…?
と、困惑する事数秒。で、カノンに家に帰りたくないので代わりに帰ってくれないかと手紙で頼んだと言われて呆れる事数十秒。
なんでいい歳した男が、両親と暮らさにゃならんのだ? 18過ぎたら独立だろう、フツー?
仕方が無いので、ネクタイを外して、襟元寛げて向かいの椅子に座ってもらって「お話」を伺うこと数時間。
結論はですね、私の立場と経験と知識から言わせていただければ、サガ・チェトウィンド氏は現在の職業また生活環境に満足しておられて、これを将来的に維持する事を望まれている。また、弟のカノン氏も自身のご職業を継続する事を希望。お二人とも、家業を引き継ぐと離職しなければならないとの事なので、この場合はその「家業」を采配出来る人間を一人ないし複数人お雇いになって経営はそちらに任せ、お二人はその管理に勤める、というのが妥当かつ合理的な選択に思えるのですが、如何なものでしょうか?
懇切丁寧に無料で話を聞き、以上のような解決策を提示したところ、クライアントは絶望的な表情を浮かべた。(失礼なクライアントだ)
古い文献ばかり読んでいるそうで、本人が何時の時代に生きているつもりなのかは知らないが、クライアントにはup-to-dateの必要性があると判断。洗濯機を使えないとか、料理をした事ないとか、マクドナルドのハンバーガーを食べたことが無いとか、博士号取っていると自称しているが、どんな原始人か無文明の土地から来たのかと驚かされる。
いやはやいやはや。
いや、君の弁は一般的には間違っていないのだけれどね……(汗)
それが通るくらいなら、いくらなんでも私だってカノンに無理を頼んだりはしないよ…
君はいみじくも私を「チェトウィンド」と呼んだが、その名前自体が将来のシュローズベリ卿を約束するもので……(汗)
つまり、カノンに「チェトウィンド」を名乗ってくれ、と頼んで断られた、という事なのだから。
研究は、まあ、望めば続けられると思う。大学に頻繁に顔を出すことは出来なくなるけれどね。
問題は、此処を出て実家に戻らなければならないということで、カノンの将来の花嫁は実家に受け入れてもらえても、君が受け入れられる事はあり得ない、ということだ……(溜息)
おい、こら、ロス。
こんな時だけ奴を立派な大人の男扱いするな。
奴は正真正銘の箱入りなんだから、とっとと箱の中にブチ込め。
カノン、
そういうお前だって、バトラーのヘンリーに随分箱入りに育てられただろう?
お前は本当は綺麗なキングス・イングリッシュが使えるのだから、そういう品のない言葉は極力使わないようにしなさい。
ヘンリーが悲しむよ。