つい

不毛な議論に突入して、そのまま気まずくなって10日目。


この手のことは、どうせミロと話しても平行線だと分かっていたのに、何故途中で止めなかったのか……(溜息)
そもそも、いつか相手が死んだら、なんて何十年も先の事を、今真剣に喧嘩する事自体が馬鹿げている。そうとわかっていても、火がついてしまうと止まらないことはある。
話の発端は、どちらかが先に死んだ場合、求められたら献体するかどうか、という議論だった。
まあ、いくら遺言を残しても、いざとなったら切り刻まれるのが可哀想で出来そうもない、という気持ちは分かる。それはまあ良しとしよう。
だが、屍を火葬もせず、コンテナに土と一緒に入れて花を植える、だのと言い出した時には、ちょっと待て、と流石に眉間に皺が寄った。
この私に、部屋の中で腐って土になれと?(怒)
いくら死んだ後は関係ない、といっても、限度がある。
蛋白質の腐敗する匂いは想像を絶するし、そんな文字通りの「鼻つまみ者」になるのは真っ平御免だ。
それは遠慮でなく本当に屈辱的で耐えられないから勘弁してくれ、と言ったら、「自分はそれでも構わない」と返されて喧嘩になった。
こういう感覚は、身近な人間ではやっぱりサガ先輩が一番近い、と思う。アイオロス先輩とは違うかもしれないが、こちらの希望を尊重はしてくれるだろう。ところがミロとなると、、、
最後には、あいつは、自分の感情を優先する。
こちらの気持ちを考慮してくれないわけではないのだろうが、それでも、最終的には奴の希望というか、執念が勝る。
そのことに、時折、なんともいえない脱力感を感じる。
もう、言っても仕方がないと分かってはいるんだが。
あいつは、思い入れの強い対象ほど、そういう傾向がある。だから、別に、こちらを軽んじている訳じゃないし、本当にこっちの事を考えているのか、と訊けば200%そうだと即答する。
でも、それは、私の流儀とは違う。私は、大事な相手の希望はきいてやりたいし、惚れているから、というのを理由にして自分の希望を無理に通したくない。
それが惚れた証だとは思わないし、そう認めたくもない。たとえ、あいつにとってそれが最大限の愛情の証だと、理屈では分かっていても、だ。
生理的に受け付けないものは、いくら頭が受け入れてもどうしようもない。
でも、ミロと付き合って行くには、そのへんをうまく折り合いつけないと破局する。
十年以上抱えてきた不安が蘇るのはこんな時だ。
あいつは、本当は、誰か側にいて居心地のよい相手が欲しいだけなのじゃないか、と。
別に私でなくても良くて、あいつの少々変わった傾向を喜んで受け入れる人間であれば、誰でもいいのじゃないか、だから、最後には自分の希望しか残らないのだろう、と。
こういう不毛な議論に陥る時、あいつは、必ず、「オレは、オレは」と繰り返す。
その中に、私に対する配慮が、私には全く感じられない。
こういうことをいうと、「カミュだってそうじゃないか」と涙を浮かべて抗議する奴の顔が見えるようだが。
私は、私に関する事なのだから、私の希望に沿ってくれ、と話しているのであって、ミロの事ならミロの希望に添う。譲れるものは最初から全部譲っているつもりだし、ぎりぎり譲れないものだけを頼んでいるだけなのだが、あいつには、そういう理屈は通らない。つまり、あいつにとって大事と分類されたものには、それが私の事だろうが、あいつ自身のことだろうが、全く関係がないのだ。
だから、臆面もなく自分の希望を主張してくる。
誰に対してもそうなら、そういう感覚の人間だと諦めもつくのに、他の人間には、それなりに節度を保ってこんな我侭は通さないから余計に始末が悪い。
それを私は可愛いと思えるような人間ではないし、その度に、ミロに都合よく利用されているだけのような感覚に陥る。そうして、二年前に思った事を溜息と共に思い出す。
……そうは言っても、結局、ミロと離れては暮らせなかったじゃないか、と。
折角別れたのに、わざわざよりを戻してしまったのは、結局、ミロ以外の相手では見えなかったからだ。
ミロと一緒にいた頃には見えていた、無数の綺麗なもの。何時もと少し違う世界。
そうして、結局答えはいつもの場所に辿り着く。
利用されているのでも、なんでも、これが見えなくなるよりはましだろう、と。
……全く……。
何故、こんな厄介な相手がいいのか、誰かに理由を教えてほしいくらいだ(溜息)。

「つい」への3件のフィードバック

  1. アイオロス・ヴィンセント・エインズワース より: 返信

    若いねぇ(大笑)
    そんなの、その場になってみなきゃわからんし、相手に都合よく自分の死体を扱われるのがいやなら、相手を先に殺してでも長生きする手はあるだろう?(エセルに語った覚悟だけではままならん場合もあるだろうからなぁ?)
    しかし、俺はかなりの確率で、お前が先にくたばったらあいつは役にはたたんで、やっとなんとか正気に戻った頃には回りの人間が全部済ませてしまっている、という結果になると思うがな?(笑)
    まあ、お前の意に反しそうな時には、今回のエセルの借りもあることだから、俺がとっととでっかい墓石をお前の埋まった土の上に乗せといてやるぞ?
    なんなら、掘り返されないようにコンクリで固めておくか?
    (大爆笑)

  2. カミュ・ルーファス・バーロウ より: 返信

    いえ、だから、不毛な議論だった、と……(苦)
    いいんです。絶対、何があっても、あいつより先には死にませんから。(きっぱり)
    正直なところ、サガ先輩の目を盗んで酒に煙草に不摂生し放題の先輩より先に死ぬとも思いませんが、お心遣いには感謝します(笑)
    でも、酒はともかく、煙草はそろそろ止めた方がいいですよ。
    肺でも癌にやられようものなら、立ち直れないと思いますよ。サガ先輩。

  3. アイオロス・ヴィンセント・エインズワース より: 返信

    爺臭いことしか言えんのか? その口は。
    あのな、癌になる一番の理由はストレスだ。我慢だ。
    煙草や酒をやめたからと言って癌にならん保障はどこにもないぞ?
    (お前みたいな神経質な奴で健康志向の奴こそなりそうだな)
    俺のトコは癌の家系でもないし。
    まあ、俺は何より何かを我慢して長く生きれば幸せって人生哲学はさらさら持ち合わせてないからな。
    エセルも世界一しっかり者の嫁だから何があっても大丈夫♪

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