一年に一回

11月最後の水曜日。
ここイギリスでは違うことなくごく普通の平日。
職場に電話がかかって来た。


「エセル? 何やってんだ? もう昼はとっくに過ぎてるぞ? 七面鳥、取ってきたぞ?」
「…………」
思わず耳に当てた携帯電話を握り締めて、片方の手をがっくりとデスクに突いてしまったとしても、一分近く返答が返せないで居たとしても、仕方がないと、信じたい……。
「………………………(略)。
うん、ロス、お疲れ様。
……………………………(略)。
あの、私はまだ仕事が終わっていないから……」
「何て職場だ、エセル! 明日は感謝祭なんだぞ?! さっさと帰って来い! 鳥を焼くのに何時間かかると思ってるんだ? 明日に間に合わなくなるじゃないか!」
「……………………………………(略)。
うん……分かってる。残業はしないで直ぐに帰るようにするから………」
「しょうがない。じゃあ、俺はマッシュポテトを作っておくからな」
「うん。ありがとう」
……………。
うさぎと遊んで待っていてくれ、とか、
今日は国民休日の前日ではないんだよ、とか、
色々、色々、胸に去来する言葉はあるのだけれど、
毎年明日に合わせて農家と契約して直接七面鳥を用意し、それをバラ・マーケットに取りに行き、今か今かと鳥の丸焼きをオーブンの前で待つアイオロスの姿が脳裏に浮かぶと、言葉が詰まる。
言っても無駄、とか、
なんとかの耳に念仏、とか、
それなりに、浮かばない言葉が無いわけでも無いのだけれど……。
それはそれは楽しそうな、期待で胸を一杯にしている元気のいい声を聞くと、
やはり、今年も何も言えない……。

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