十一月の第四週目の木曜日はThanksgiving dayだ。
勿論辞書を見ればそう書いてあるのだけれど、辞書にはきちんとこうも書き加えられている。
「アメリカ合衆国、及びカナダの祝日のひとつ」と。
(カナダの感謝祭は十月第二週の月曜日だが)
その新大陸の祝日が突如として我が家に上陸する十一月末、色々な意味で大変な日々が続く。
まず、英国は十一月第四週の木曜日を休日と定めないから、年休を取って休まなくてはならない。
更に、翌日の金曜日はアメリカでも大抵の州は平日だが、夜遅くまで飲み、大量の七面鳥をお腹につめこんだ状態でまともに仕事など出来るはずもなく、結局金曜日も年休をとることになる。
そこから二日土日を挟めば、もうアイオロスの誕生日は目前で、結局Thanksgiving dayから一週間余りまとめて休みを貰うのが例年の習慣となっている。クリスマスも目前なのに何故この時期に長期休暇なのか、と事務に届けに行く度に視線が痛い……。
次の問題は、毎年どう見ても大きくなっていると見える巨大な七面鳥だ。
最初は確かに軽くオーブン皿に入る大きさだったのに、今年アイオロスが仕入れてきた七面鳥は専用のアルミパンを買わなければ到底収まらないものだった。一羽60ポンド。それなりに痛い出費だと思っていたら、アイオロスはちゃっかり「七面鳥預金」をしていた模様。
これがその七面鳥。
今年はすぐに旅行に出るし、流石にこんな大きな七面鳥は食べ切れない、と、ディナーにカミュを招待した。彼は自分ではもう肉を調理しないと言っていたので、誘ってもよいものか少し迷ったのだけれど、留守中ウサギ達の面倒を見てもらう事になっているため、家の中の備品の在処などを確認してもらう事も兼ねて電話をしてみたら、有難く相伴に預かる、と OK してくれた。
スタッフィング(つめもの)を準備する間、七面鳥に塩をする。岩塩と胡椒をふりかけ、ローズマリーの葉も少しまぶしてビニール袋へ。特につめものをする内側は念入りに。
ウサギのアイオロスがやってきて袋をつついていたが、流石に生臭かったのか、驚いたように飛び退って逃げていった。
七面鳥のお腹は綺麗に洗ってあるのだけれど、その空いた空洞に、首の部分とレバー、心臓、砂肝が袋に入って詰められていることが多い。
これらはグレイビーソースを作ったり、刻んでスタッフィングに混ぜたりする事もあるけれど、アイオロスがあまりこれらの生臭い匂いが好きでないので、私はいつもスープをとるのに使うことにしている。
スタッフィングはそれぞれの家庭の味があるというが、アイオロスにどんな味が良いのかと訪ねてもとんと要領を得ないので(彼は本当に肉以外に興味はないらしい)、既に記憶も薄れつつある実家のシェフが昔作ってくれたクリスマス・ディナーのスタッフィングを思い出しながら作った。
刻んだ玉葱、セロリ、人参、ジャガイモ、マッシュルームに角切りのバゲットを混ぜ込み、セージやタイムなどの香草を混ぜ込んで、ターキーブロスで湿らせて詰めるのが基本のレシピだが、実家のスタッフィングには、それにほうれん草とスライスしたオリーブ漬け、松の実が入っていた。
特にオリーブと松の実は程良いアクセントになるので外せない。ブロスは先の首つると内蔵から煮出したスープを使い、それに少しミルクとワインを混ぜる。あまりバゲットが湿ってしまうと七面鳥から出る油を吸ってくれないので、適量に留めておく必要がある。
スタッフィングをオリーブオイルで炒め、火を通して塩、胡椒で味をととのえ(あまり濃い味にしない、腹の内側に塗った塩が吸収されるので)、冷ましている間に七面鳥を袋から取り出し、たっぷりとローズマリーを擦り込む。本当はセージを使うのだが、たまたま数日前に買ったローズマリーのツリーがあったので、そちらを使った。
シンクで仰向けに置いたところ。いかに大きい七面鳥かがよくわかる……。
オーブンを210度に余熱する。まず高めの温度で皮を焼くのが肉をぱさつかせない重要なポイントだ。
低い温度から焼き始めるレシピもあるようだが、皮を先に焼き固める方が理にかなっている、と思う。
本当はつめものはあまり沢山詰めない方が良いとのことだが、私もアイオロスもつめものが好きなので、腹の部分だけでなく首の付け根の部分にまで詰め込んだ。詰め口は、楊枝を使って閉じる。
後ろから見たところ。
実は、本当は七面鳥は腹側を上にして焼く。その方が見栄えが良いからだが、そうすると胸肉の辺りがパサパサになる。
胸を下にして焼くと、重力で肉汁が胸の方に下がってぱさつかない、とあるサイトで書いてあるのを見かけて、今年はそのようにしてみた。
オリーブオイル100CCにおろした玉葱1個とガーリック一房(一つぶ、ではない)、レモン汁1個分、塩、胡椒を混ぜ合わせ、ターキーの表面にたっぷり塗る。
210度で最初30分焼き、皮がパリッと焼けたところで温度を180度に下げ、先のガーリックオイルをたっぷり塗る。以下、30分ごとにオイルを塗り、しみ出して来た肉汁をスプーンですくって全体にまわしかける事を4回ほど繰り返す。七面鳥の大きさにもよるが、全部で2時間半から3時間半くらい焼く事になる。
途中、ガーリックオイルに混ぜた玉葱が焦げてしまったが、それを綺麗に削いだらこのような状態になった。
我ながら、そんなに悪くない出来だ。
アルミパンに溜まった肉汁は、網で漉してワインとターキーブロス(首つるでとったもの)を加え、小麦粉を入れてとろみをつける。塩、胡椒は味をみてから入れないと、最初からかなり塩辛い事もあるので要注意。
クランベリーソースは、生のクランベリーにグラニュー糖を入れ、ジャムを作る要領で作る。私が見たレシピは、オレンジジュースも加えていた。
マッシュポテトは、アイオロスがとにかくミルクをたっぷり入れたマッシュポテトが好きなので、毎回ミルク多めで作る。普段格好を付けている割には、こういうところだけ、味覚が子供っぽいと思うのだけれど……きっと、母親の味なのだろう。
夜七時頃、仕事帰りのカミュが美味しいワインとチーズを持ってやって来た。少々見栄えは悪いけれど、昼からつききりで仕込んだターキーは、敏感な味覚を持つカミュにもどうやら気に入って貰えたようで安心した。
アイオロスはあの巨大な七面鳥の胸肉一枚分をあっという間にたいらげ、片足の腿(ドラム)と手羽を完食したところで、ターキーの睡魔に襲われた模様。気がつけば、ソファのクッションを枕にして気持ちよさげに眠っていた。
まったく……。
こうしてみると、まるきり大きな子供なのだけれどね……(苦笑)
(あ……子供だから、こう周囲を振り回すのか??)