あのクソ生意気なバーロウの奴に部屋を弄られてから約一ヶ月が経った。
エセルはいたく改造された部屋(やたらにホテル臭い)がお気に入りで、帰ってくるなり居間の燭台に灯りを付けたり、お気に入りのCDを低い音で流したりしている。
ドアを開けて「ただいま」と言うとき、ホント、自分が何処に帰って来たんだか、と思う。
(さすがに2週間休暇を取ったツケはきっかり回って来て、この一ヶ月、エセルより早く帰れたためしがない)
何度か元に戻そうと提案しているんだが、にっこり笑って「嫌♪」なんて可愛く言うもんだから、なかなか強硬手段に出れない。
1000歩譲って、居間のレトロは煮え湯を飲んでやってもいい(コード類がかなりウサギプロテクトの便が良い為)。しかし、この寝室はもういいだろう?
なんでこんなにバーロウ臭さが漂う中でエセルを抱かなきゃならんのだ?!!!
濃く塗り替えられてしまった、折角のナチュラル&手作り感漂う家具の数々は塗り直しが利かん。(全く持ってむかつく)
しかし、このアホみたいに重っ苦しい天蓋布はもう元に戻したっていいだろうが?!!!
一体全体、どんな城ん中に泊まってんだ!!!??
何度も何度も買い物に行こうと誘うのに、
「折角プロがしてくれたんだから」
とか
「私は凄く落ち着くよ」
とか
「いいじゃないか。うさぎだってすぐに馴染んだんだ。君だってそのうちに慣れるよ」
とか、とても可愛い微笑みと軽いキスのセットで反撃してくる。
いつの間にこいつはこんな知恵を付けたんだ……?
そして六月末に、エセルに強請られてそのクソ生意気な奴の六人展だかを見に行った。
「カビ臭く無い近代的な灯りばっか作ってんじゃないか、こいつ!!」
と、エセルに訴えたら、
「だから、うちに合わせてああいう風にしてくれたんだから、大事にしないとね」
と、逆に説教モード入られた。
な、ん、で、この俺がバーロウなんぞにやられた事をありがたがらなきゃならないんだ?!!!!
と更にごねたら、
「だからね、カミュはわざわざ私の好みに合わせてああいう風にしてくれたんだよ?」
とじっと見詰めてくる。
そして、今日もエセルの説得に失敗しての出勤となる。
「外は今日も暑いなぁ」
と言いながら、ボスもオフィスにやって来る。
電話を取り、話しを聞き、アポイントメントの調整をし、書類を埋める。
やっと空いた時間に、ランチボックスを開いていると、
「そう言えば、」
とボスに話を振られた。
「で、どうなんだよ、甘い新婚生活ってやつは?」
俺が、思わぬ苦戦を強いられている旨を伝えると、ボスは頭を振りながら渋い顔をした。
「いいから、カミさんが気に入ってんならそのままにしとけや、お前。家の事には一切口出すな。俺なんて離婚する時に、カーテンの色の事まで理由の中に上げられたぞ?」
………………。
男ってのは悲しい生き物だな。