うさぎに毛づくろいしてもらってご機嫌に寝た次の日の朝。
すさまじい物音で飛び起きる。
一ヶ月ほど前からようやくプチとブラックベリを同じケージに入れた。
そもそも、ブラックベリをHRSからひきとってきたのは、サガ先輩のところのアイオロスとえせる(どちらもウサギの名前だ)のように、片時も離れずくっついているパートナーがいればプチも寂しくないだろう、と思ったからだ。
ところが、プチが大変臆病な性格のため、お見合いは予想していたよりずっと難航した。
普通なら一ヶ月もあれば仲良くなれるところが、結局2月から数えて4ヶ月もかかってしまったのだ。
で、五ヶ月目の現在、一応お互いに顔を舐め合うくらいには友情が確立したらしいが、依然として寄り添って寝るほどではなく、時折ブラックベリがプチを追いかけてプチがパニックになる。
ウサギというのは相手のパニックを見ると自分もつられてパニックになる生き物なので、そうするとブラックベリの方も狭いケージの中で体当たりしながらプチを追いかけることになり、大変な騒ぎになる。
実は、ここ一ヶ月、何度かこのパニックの物音で起こされていて、二匹が怪我をしないうちに割って入って落ち着かせる作業を繰り返していたので、今日もてっきりそれだと思って飛び起きた。
……が……(汗)。
暴れていたのは、ブラックベリ一匹だった………。
狭いケージの網の隙間に顔を突っ込んで、抜けなくなっていたのだ。
ウサギは筋力の強さに対して骨がもろく、パニックになると自分の筋力で暴れて骨折する。
私が部屋に居る時でよかった。
慌てて飛び起き、ブラックベリの体を動かないように固定する。幸い、まだ怪我はしていなかった。ブラックベリは、必死に頭を網から抜こうと色々な角度で顔を引っ張る。入ったのだから抜けないはずはないが、知恵の輪のようなもので、ある角度でないと通らないらしい。
これは網を切るしかないか、と思ったが、こんな太い針金を切るツールなんて自宅にはない。
どうしたものか、と思案していたら、不意に、網が傾いでその瞬間に顔が抜けた。
ウサギは泣いたりしないが、泣きそうな顔になることはある。
ようやく首枷から解放されて、その目が怖かった、傷ついたと訴えていた。
大事に至らなくて本当によかった。
呆然とした表情のブラックベリを撫でて慰めてやり、危険な金網は撤去してもっと目の細かいものに変えていたら、プチがブラックベリの様子を見にきた。
おや。さすがに傷ついているのが分かって慰めにきたか?
ウサギは言葉を喋らないが、サガ先輩のところの二匹のウサギを見ていると、言葉はなくとも相手が傷ついているときには察して慰めてやる素振りを見せる。
未だ家庭内離婚でもそのくらいの思いやりはあるか、と見守っていたら、なんとプチはブラックベリの顔の下に自分の顔を押し込んで、前足の爪を噛んだ!
……プチ、それは性格が悪いんじゃないか?
たまにブラックベリに毛を毟られるののお返しなのか、単にツメを噛むのが好きなのか(そうかも知れない、プチは母親のえせるにもよくそうしていたらしいし、自分の爪も噛んでぼろぼろにしている)よくわからないが、今やらなくたっていいだろう……。
傷ついているブラックベリは、普段ならお返しに毛を毟る素振りを見せて追い払うのに、それもせずに齧られたままになっている。
家に来てからというもの、プチに怖がられて逃げ回られても、パニックになった挙げ句に頭を踏まれても、じっと耐えていたブラックベリに同情した。
……相手が悪かっただろうか。
プチが相手でなければ、この礼儀正しい子(なにしろ人間にまで毛づくろいしてくれるようなウサギだ)は、もっと幸せになれたのじゃないか?
………。
なんだか、一瞬そんなケースに他に心当たりがあるような気がしたけれど、あまり深く考えないことにした。