脱稿しました(限定発行本)

11/23合わせの「まっとうなミロカミュFANに石投げられそうな話を思い切りぶちまけようぜ」企画本に掲載する話、私の分は本日脱稿いたしました!
(ちなみにスペースはH41「仔牛ともぐら舎」です。真面目なミロカミュFANの怒りを買いそうな内容なので、わざわざ黄金配置申請したんですが、何故かミロカミュ島配置になったようです…まじヤバい。今迄ずっとミロカミュで出てたから、主催者さんが気をきかせたのかしら(T^T)
石は心の中で投げて、実物は投げないようお願いします!)
で、うちの読者さん側で皆さん興味がありそうか、以下にサンプル載せますので、買ってみてもいいかな、と思った方は一言拍手コメにでもコメントいただけると有り難いです(^^:)
(もちろん、実際に買わなくても構いません。どのくらい潜在的に興味ありそうな人がいるか、という数が知りたいだけなので……)
あんまり少なかったら部数減らさないとだし!(現在30部の予定)
以下ご注意。

  1. 英国シリーズ大人版(webダイアリー版)番外のアダルトカテゴリー話です。流石にこれをwebにのっけるのは(色々な意味で)まずかろう、とオンデマンド印刷、ということになりました。
  2. R18指定本です。
  3. 師匠(ユーリ)とカミュしか出て来ません。というか、ぶっちゃけ、カミュが師匠に調教されて陥落する話です。でも、カミュの思い人はミロです。
  4. 鞭、浣腸プレイ駄目な人はNGです。(サンプルはその部分削ってます)
  5. でも、まあ、小心者なんで、流石に黄金やら聖水やらむにゃむにゃ、というのはやれませんでした。(黄金、聖水が何を意味するか分からない方はググってね♪)実は、話の筋ではそれもアリ、と思ってたんだけど、そこまでいっちゃうとアダルト・エンターテインメントから外れてちょっとシリアスな方向に行ってしまいそうなので止めた。
  6. 調教ムードですが、一応、カミュはそれなりに幸せだと思います
  7. 追記:和海に見せたら「全然エロくない、これのどこがヤバいの?」と言われた…(汗)というわけで、 エロ度合いはあまり期待しない方がいいかもです。ゲイの現実を追いすぎるとまるでエロくなくなるのは分かってるんですが、英国シリーズは現実路線がテーマなので、あまり無視するわけにもいかず。まだまだ勉強が足りんなあ。うーん、エロは奥が深い。(T^T)


というわけで、めちゃくちゃニッチなニーズにしか対応しない話ですが、興味持たれた方は投票(?)よろしく(^^;)
—- 以下サンプル (まだ多少変更の可能性アリ)


   ある冬休み
 カミュ・ルーファス・バーロウは困っていた。
 非常に、困っていた。
 やりたいこと、やらなければならないこと、どうしてもやりたくないことが、こうもきっぱりと別れて並べられているというのに、何故敢えてやりたくない事を選ばなくてはならないのか?
 世の中は、不条理だ。
 今年に限って、彼は非常にモテていた。クリスマスを目前に控え、実家からは家に戻れと矢のような催促が降ってくる。パリで結婚した末の弟にめでたく第一子が誕生し、ロンドンの実家に戻るから久々に一家全員のクリスマスを、と母親は電話口で泣きつかんばかりだ。
 この年になってまた学生に戻り、親に心配をかけている自覚はあるし、弟はともかくその奥方に不義理を働いている自覚は重々にある。クリスマスくらいは家に戻って、甥の誕生を祝うのが礼儀だろうとも思う。しかし、今年はどうしても無理なのだ。
 とにかく忙しいので、本当に申し訳ないが今年も帰れない、と、両親にその一事を飲み込んでもらうのに、イタリアからイギリスまでの国際電話一時間分かかった。
 本当に、頼むから実家でもSkypeを導入してくれ、と今迄何度ついたか知れない溜息をつく。
 それから、カミュの長年の交際相手であった、ミロ・アーヴィング・フェアファックス。
 一昨年のクリスマスに二度目の交際決裂。昨年の大晦日にカミュが暴漢に襲われたことがきっかけで、(友人として)同居生活を始めた。カミュとしては、自分が強引に関係を解消した手前、ミロの世話にだけはなりたくなかったのだが、ミロはカミュの体を心配し、カミュが入院中に勝手にカミュの荷物を自宅に運び込んでいた。
 もともと、互いに嫌いで別れたわけではない。近くに居れば、惹かれ合うのはどうしようもない。
 それで、カミュの方が家を出た。十一月のことだ。
 ミロはその後もカミュにメールを寄越し、なにか不都合はないか、手伝えることはないか、と聞いて来る。その度に、忙しいので……、と言葉を濁して返答するのもなかなか精神的に辛い。
 ミロは、パガニーニ国際コンクールで二位をとったプロのヴァイオリニストで、現在はローマ音楽院でヴァイオリン科の講師をしている。その彼が、学生時代からずっと続けている事がある。
 ローマ市内の教会で行われるクリスマスのミサで、ヴァイオリンを演奏すること。
 そして、今年は、それを聞きに来ないか、と、ミロから花束つきの招待状がきた。
 本心を言えば、ものすごく聴きに行きたい。ミロの無伴奏は、本当に、天の音がする。
 彼のヴァイオリンを聴いている間だけは、全て嫌な事も辛い事も忘れられる……カミュが自分の一生をかけても守りたいと願い続けてきた、大切な宝物だ。
 しかし、カミュはまた、「ごめん」とメールを返信した。
 今年は行けない。いや、もしかしたら、二度とそんな機会は来ないかも知れない。
 今日を境に、自分には、彼の天の音を聴く資格などなくなってしまうのではないか。
 そんな気がするのだ。
 さて、最後に残った選択肢が、カミュの師匠、ユーリ・ドミトリエヴィチ・ナジェインだった。
 別に、カミュはユーリが嫌いなわけではない。むしろ、大変尊敬しているし、感謝もしている相手だった。
 ユーリは、カミュが通うローマ音楽院のピアノ科講師だ。二十九歳でやっとのことでピアノ科に補欠入学したカミュが、一年間ほぼ放置に近い扱いを受けた後に、ようやく出会ったまともな指導者だった。
 モスクワ生まれのモスクワ育ち、モスクワ音楽院卒業。ロシア人にありがちな大柄な体躯で、他の小さな人種の都合などまったく眼中にないロシア人作曲家のピアノ作品も難なく弾きこなすが、一方で驚くほど繊細な表現もする。いまひとつ他の教授のピアノに興味を持てなかったカミュが、音楽院で初めて本気でこの人の指導を受けたい、と思った相手だった。
 カミュは、次の二月で三十一歳になる。そんな年齢からプロのピアニストを目指して学ぼうとする学生を、本気で指導する講師など皆無に等しい。しかし、ユーリはカミュに対し手を抜かなかった。そして、カミュが彼の飼っている二匹のウサギと共に暮らせる新しい下宿を探していると知ると、「その条件ならうちに一部屋空いているけど」とカミュを誘った。
 これが幸運、いや奇跡でなくて何であろうか?
 カミュがそう思ったとしても、責める者は誰もいないだろう。
 事実、全てのからくりが分かった後でも、カミュはやはりそれを幸運だと思っていた。
 そう──からくりとは、つまり、ユーリはゲイだったのだ。
 ユーリに言わせると「薹が立ちすぎている」のだそうなカミュは、おそらく、最初はローマに居ながらフランス語が喋れる数少ない相手としてユーリに気に入られた。ユーリは長年パリで暮らしており、都会の魅力に憑かれた地方出身者の常として、都会的な空気を持った人間に弱い傾向があった。カミュはロンドン生まれのロンドン育ち、母親がパリ出身ということもあって、最初にカーディフ大学で建築学科を卒業した後はロンドンとパリを股にかけて照明デザイナーとして活動していたから、その点でもユーリの興味を惹いたわけだ。
 ユーリはパリで二十三歳の彼氏と決裂し(カミュの予想ではかなり一方的に振られ)、ローマには傷心を癒すためにやって来た。その元カレに、どうやら捨て台詞を吐いてパリを出て来たようなのだ。
 クリスマスまでに、絶対お前より可愛い子を見つけてやる、と。
「君、見た目は結構若いから、ギリ大丈夫」などと失礼な事を言ったカミュの師匠は、カミュの火の車の家計簿を横から覗き込みながら、夜のバイトをやらないか、ともちかけてきた。つまり、一回二百ユーロ払っているプライベート・レッスン代をチャラにするから、そのかわりに夜の相手をしろ、というわけだ。
 レッスンは週二回、一ヶ月で一六〇〇ユーロ。その負担がなくなれば、現在の貯蓄残高でも、なんとか卒業まで賄える。
 少しだけ迷って(時間にしたら、多分五分程度か)カミュは、それを受けた。
 本気で愛情を請われても、それは返せない。今でも、本当に愛しているのはミロだけだから。
 しかし、ホストクラブの真似事をバイトでやれ、という程度ならできる。若い女の子でもないのに、体を売って何かを得られるなら、それは幸運だ。
 何がなんでも、ミロに認めさせたい。自分のピアノを。
 自分が彼のヴァイオリンに強い執着を抱くように、それなしではいられなくなってしまえばいい。
 友達や、恋人の贔屓目ではなく……。
 その為なら、なんだってやってやろうじゃないか、とその時のカミュは思ったのだ。
 思った、のだが……。
 いざ、その日になってみると、かなり気が引ける。
 大体、いくらカミュがミロと付き合ってきたと言ったところで、ホストクラブになど行ったこともなければ、その手のビデオすら見たことすらないのだ。
 一体、何をどうすればいいんだろう?
 まあ……舐めるとか、そのくらいは出来る。ミロ相手にディープスロートもやったから、そのくらいなら、なんとか。あれは、結構プロの技だとどこかで聞いた。
 しかし、それ以外は……てんで分からない。
 カミュは、恐る恐る、某オンラインゲイアダルトビデオ配信会社のサイトを尋ね、いくつかのサンプル動画を見てみた。以下、その内容。
 『その一、ローマの大浴場で最後の審判
 イケメンモデル三十人による、ラファエロの「最後の審判」の再現! 全員がパートナーのアヌスにペニスを挿入し、腰を振る様は正に圧巻!』 
 『その二、友達百人できるかな
 百人全員参加の友達の輪、全員が前のモデルのアヌスにペニスを挿入して一つの輪に! まさにギネスの記録です!』
 ………
 真性のゲイが求める世界って、これなんだろうか?
 この手のものを求められると、少々、いやかなり、困るのだが……。
 あ、まずい、鳥肌立った。
 カミュが寒気を感じて思わずバスローブの襟をかき合わせたとき、二階のユーリの寝室から声がかかった。
 初日
「何、随分遅かったじゃん」
 シャワールームを出てから随分時間が経っている様子のユーリが、小さく口を尖らせて寝室のドアを開けた。ベッドルームは意外に整頓されていて、本棚にはカミュにも読めないロシア語のタイトルの本が結構沢山詰まっている。窓際に、背の高いルームライトが一つ灯っていたが、ベッドの横の小さなサイドボードに置かれた照明は点灯されておらず、そのせいか弱々しい光が四角い部屋をやけに広く見せていた。つい、元照明デザイナーの性で、あのへんに間接照明を仕込んだら、などと計算が頭を巡った。
「いえ、そちらにも準備があるかと思いまして、声がかかるのを待ってたんですが」
「何言ってんの。バイトしてるのはそっちなんだから、準備も整えてさあいらっしゃい、ってのが本筋でしょ?」
「そこからやるんですか?」
「そこからやるの。ところで君、ローション持って来た?」
 ……しまった。それは、持って来ていない。
 思わず黙り込んだカミュに、ユーリは大仰な溜息をついた。
「ダメ。なってないね。それ、商売道具でしょうが。君、本当にやる気ある?」
「ある、と思いますが……何分、慣れてないもので」
「これが二十歳の子なら、それも可愛いんだけどねえ。三十じゃなあ。ピアノもだけど、君、なんでもエンジンかかるの遅いよね」
 また来た、師匠の嫌味!
 初対面のとき、繊細な演奏でカミュを魅了したユーリは、実生活では相当に口の悪い人間だった。この十一月からのふた月たらずで、カミュはそれまでの人生全てで貰ったダメ出しの軽く十倍くらいは、この口に叩きのめされている。
 大体、ユーリは通称twinkと言われる若い可愛い男の子が趣味で、彼氏の年齢の上限は二十五歳と公言しているくらいだから、カミュは大幅に上限を超えているのだ。つまり、何をやっても、満点は貰えないわけで。
 だったら食おうとするな、と言ってしまうと商売にならないので、そこはぐっと我慢して、カミュは続けた。
「……以後気を付けます。で、今日は持ち合わせがないんですが、どうしましょう」
「ま、しょうがないよね、頑張ってよ」
 ……頑張るとは、つまり、ローションなしで入れろってことか?
 経験上、ローションなしでバックに挿入は大変きつい、というか、殆ど不可能、ということを知っているので、カミュは羞恥心を抑えてユーリに頭を下げた。
「すみません。化粧用オイルかクリームないですか?」
「持ってないよ、そんなの。女の子じゃあるまいし」
「軟膏とかでもいいんですが……」
「それもない。いいじゃん。ナシでやれば」
「いえ、それ、最初からハードルが高過ぎます」
「そうなの? 君そんなに干されてたんだ? 元カレに」
 心底可哀想に、という表情をしたユーリに、カミュは思わず溜息をついた。
「……いえ、そういう話ではなくて。あの、師匠が期待するほど私はそういう経験があるわけではないので、そう最初からあまり高レベルなことを求められても困るんですが……」
「そうなの? じゃ、勉強してよ」
「……善処します」
 正直、これだけピアノの課題を詰め込まれて、どこにそんなヒマがあるんだ、とカミュは思ったが、もう反抗するのも疲れてきたので、ひとことだけそう返答した。
「……それじゃ、キッチンからオリーブオイルもって来ますので、ちょっと待ってて下さい」
「えー、食用オイルはベタべタするから嫌なんだよなー。あ、フードプレイの時は別ね」
「プレイ?!」
 ミロは、性生活に関しては中世人並みのモラルの持ち主で、カミュは今迄ミロとの関係でおよそプレイと呼べるような行為をした事がない。いや、行為自体はある……カミュに「勉強したいから」と自慰行為を求めたことが一度あって、あの時はせめてプレイであったらどれほどマシか、と思ったが、なんのかんの言っても、精々その程度だ。
 師匠の求める「プレイ」って、どのレベルなんだろう?
 フードプレイといえば、以前弟が日本のスポーツ新聞のエロ小説欄が凄いとかいって、女性の膣にマヨネーズとキュウリを突っ込んで「サラダ」とかいって食べさせる、とかいうプレイがあったと騒いでいたが(ついでに言えば、どうやって日本語のそれを読んだのか甚だ疑問を感じたが)、そういうのは、絶対嫌だ。膣ならともかく、アヌスじゃ不潔すぎる。
 カミュが思わず身震いしたのを見て、ユーリの口元がにんまりと上がった。
「あ、君、そういうの、好きなんだ」
「誰がですか!」
「よーし決めた、明日はそれね」
「勝手に納得して、勝手に決めないで下さい!」
「で、それは明日の楽しみにとっておくとして、今日はそのサイドボードの下のローションを使っていいよ」
 そう言う事は、最初に言えよ、とカミュが腹の底で叫んだのは言うまでもない。
 ユーリにベッドに腰掛けてもらい、バスローブの胸をはだけさせてキスを繰り返す。いつも、ミロとの関係はこんな風に始まった。違うのは、最初にマウス・トゥ・マウスのディープキスがあるかどうか。キスは、どうしても自分の心が強く反映されてしまうから、まだ出来ない、とカミュが言ったとき、ユーリは薄く笑って頷いた。
「それは分かるよ。お互い、元カレと別れて日も浅いしね。当分、フレンチキスはなしにしよう」
 そんなわけで、こうして売買契約が成立した後も、ユーリとキスは一度もしていない。
 ゆっくり時間をかけて腰まで辿り着いて、バスローブの紐をゆっくりと引き抜く。バスローブの裾が落ち、隠されていた部分が露になる。──と、いきなりカミュの胃袋に衝撃がきた。
 ……別に珍しいものではない。自分も持っているものだし、ミロのものは散々見ている。
 ユーリは綺麗好きで、きちんとシャワーを浴びてきたことも分かっている。
 それなのに、今目前に見えているモノを口に含むことに、強烈な嫌悪感と嘔吐感を感じた。
 恋愛感情というのは、つくづく不思議だ。
 これが当たり前の反応だ。こんなもの、口に含むようなものじゃない。
 それなのに、好きな相手のものなら何とも思わない。その方が、よほど摩訶不思議なのだ。
 
 嘔吐感を宥めて口に含むと少し金属のような匂いがした。こういう匂いって、皆違うのだな、と変なところに意識が飛ぶ。そんな風に頭を働かせることで、なるべく現実から目を逸らそうとしているのかもしれない、と浮遊した意識が考える。
 興奮もなく冷めたまま、無言で口での奉仕を続けていると、ひたひたとユーリに頬を叩かれた。
「あのさ、君、そんなに下手じゃ、そりゃ元カレも逃げるよ」
 見上げると、心底哀れそうな顔をしたユーリの視線がカミュを見下ろしていた。
「下手……ですか」
「だって、全然愛情が感じられないじゃん! こういうのはさ、ハートの問題でしょ! 心のコミュニケーションでしょ!」
「そう言われても……それは、どうしたって好きな相手とそうでない相手とは違いますが」
「プロ意識がないねえ、君! そんなんだから、ピアノもダメなんだよ!」
 そう言われると、軽くムカつく。
 カミュは、先刻より深くユーリのモノを咥え、舌で包み込むようにして愛撫した。
 顔を前後に動かし、手と連動させて刺激を送る。空いた手で、乳頭を捏ねるようにして乳首にも刺激を送る。乳首は射精感に繋がる性感帯で、カミュ自身は大変ここが弱い。しかし、性感帯には個人差があるから、これがユーリのスポットだという保証はない。
 かっとなって速度を早めたのが良かったのか、ユーリの唇からつめた息が漏れ始めた。そうやって成果が出始めると、どんな事でもつい真剣になってしまう傾向が、カミュには昔からあった。男ばかりの三人兄弟、体の弱かった長男と、やんちゃで手のかかる三男の間に生まれたカミュは、努力して褒められることで漸く両親の関心を買って来た過去がある。三つ子の魂百迄、カミュは基本的に、自分の努力を認めて褒めてくれる相手に弱かったし、不出来を責められればなんとしても努力で取り返す激しい部分もあった。
 乳首はあまり好きではないらしい、では腰骨は、と思い、両腕を腰に回して臀部を抱え込むようにして深く咥え直した時、ユーリの声が上がった。
「……いいねえ! そういう情熱的なの!」
 気がつけば、ユーリのモノもかなり大きく育っている。少し気を良くして、カミュは例の技を仕掛けることにした。
 下手だと言ったな。それならこれでどうだ。
 ディープスロートは、モチを吸いながら丸呑みするつもりでやると良い、と、以前パリに留学していた頃に友人になったゲイのカップルが話していた。その時はモチってなんだ、と思ったが、その後、ミロに連れられて行った日本食レストランで食したモチの感覚に、まさにその通りだ、と納得した。
 まだ完全に固くなり切っていないペニスを吸い込みながら丸呑みする感覚は、確かにあの不思議な感触のモチを吸い込む感じに似ている。
 あっ、と切羽詰まった声が上がった。一気に口の中でユーリのモノが膨れ上がり、カミュは途端に咽せた。流石ロシア人。膨らむと相当大きくなりそうだ。
「後ろ向いて、ベッドに膝をついて」
 ユーリに急くようにそう言われて、一瞬背筋が凍った。
 これが、体を売るということだ。
 今更何を、と自分でも可笑しく思うが、その瞬間、カミュは初めてその行為を理解したのだ。
 ミロは、バックが嫌いで、カミュがミロと後背位で繋がった事は本当に数えられるほどしかない。カミュの側が慣れていなくて、体の負担を避けるためにそうする場合と、ミロが自分の表情を見られる事を嫌う時だけだ。カミュに獣の姿をとらせることに対し、ミロには強い嫌悪感があった。
 ──だって、まるで、そこだけが必要、みたいな格好じゃないか。俺は、カミュの全部が好きなのに。
 以前、ミロがそう泣きそうな表情で言ったことがある。
 その時は、別にいいじゃないか、恋人同士なんだから、とカミュは思ったのだ。実際、後背位はアナルセックスには双方に一番負担が少ない。受ける方も、入れる方も、あまり腰が痛まないから。
 しかし、ユーリにその姿勢をとるように言われて、カミュは今初めてミロが呟いた感覚を理解した。
 ……こんな、屈辱的な格好はない。獣の衝動を吐き出すためだけの道具、獣ですらない。
 愛がないというだけで、こんなにも印象が違うものなのか、と。
 咄嗟に、今日は切れるな、とカミュは思った。この状態で入れられたら、確実に入口が切れる。
 実は、ここまでサイズがあると、切れるような状態で入れるのは、入れる側も決して気持ち良くない。締め付けが強過ぎて、痛みになるからだ。
 真性のゲイでそれなりに経験豊富なのだろうユーリが、そのことを知らない筈がない。いきなり押し込むことはしないだろう、とカミュは思ったが、背後に聞こえる息づかいの荒さが、カミュの心臓の鼓動を早めた。
「……なんだ、全然使ってないじゃん」
 ユーリが呆れたような声を出して、それがまたカミュのプライドを引っ掻いた。
「丁度いい頃合いに、そっちも緩めておいてもらわないと。……って、こんなに使ってないんじゃ、無理か」
 ユーリはぴしり、とカミュの尻を叩き、「今日は特別ね」とカミュの腰を抱え込んだ。
 途端、ぬるりとしたものがカミュのアヌスの襞を割って侵入して来た。
 舌を押し込まれている、と気づくまでに、一秒かからなかった。カミュは、思わず飛び起きて背後を振り返った。
「……ちょ、ちょっと! 止めて下さい!」
「何? ちょっと動かないでくれる?」
「何って……そういうのは、まずいです!」
「何が。君、ちゃんと洗ってきたんだよね? 中も洗ったんだよね?」
 ユーリは途端に眉を顰めた。
「……まさか、君、洗い方も知らないとか……」
「一応、その手の本に書いてある方法では洗いましたよ!」
「一応って……あーあ。いつか、その指導もしなくちゃダメなのか。疲れるなあ」
 疲れるのはこっちだ、とカミュは泣きたくなった。
 顔から火が出るとはこのことだ。あんな場所、舌を入れて舐めるものじゃない。ミロにだって、中に入れるところまでは許したことがないのに。
 ユーリは、暫く考えて、いきなり、「まあいいや」と言った。
「もっとヤバい感じの子でやっちゃったこともあるし」 
「は?!」
「いいから、はやくまた膝ついて尻見せてよ。言っとくけど、こっちに任せてくれないと、君も僕も痛い目をみるんだから。怪我したくなかったら逆らわないで、力抜いてくれる?」
「……それって、また舐めるつもりですか?」
「そう、そのつもり」
「あの……指、じゃダメですか?」
「ダメ。時間がかかりすぎる。こっちも切羽詰まってるんだから、いい加減覚悟決めてよね。踏ん切りが悪いbottomってさ、なんか勘違いしてるんだよね。topがしつこく要求してくるまでウンと言わないとかさ。何様だっての。そういうの、もてないよ!」
 えーと、そういう趣味の方にはあまりもてたくないんですが。
 ユーリと暮らし始めて既に二ヶ月近く、言ってもいい本音と、言うと堂々巡りになって面倒な本音の区別はそろそろついてきたカミュは、その本音を言葉にせずに仕舞い込んだ。
「……分かりました。それじゃ、お願いします」
「あのさあ、そう言う事、言わないくれる? 萎えるから」
「じゃあ、なんて言えばいいんですか?」
「簡単だよ」
 ふ、とユーリが笑った。
「恥ずかしい、って頬を染めながら尻を大きく広げて見せればいいのさ。そういうプレイ、君、知らないの?」
 
 ……冗談じゃない!
 絶対絶対絶対、そこまでは堕ちないぞ!!
 ぎりっと奥歯を噛んで、しかし一言も喋らずに、カミュは言われるままに膝をついた。どうせ挿れられるなら、早く解して早く済ませた方がいい。
「強情だなあ。じゃ、せめて、自分で尻割って広げておいてよ。開くのも力要るんだよね」
 貴方は、そんなの屁でもないほどの腕力の持ち主だと記憶してますが?
 そんな悪態も出ないほど、要求された行為を実行するのには強い意志の力を必要とした。
「何それ。中途半端だなあ。それじゃよく見えないじゃん。もっとちゃんと広げて、奥まで見せてよ」
 かちり、と音がして、部屋が急に明るくなった。
 ユーリが、サイドボードのスタンドのスイッチを入れたのだ。
 羞恥で顔に血が上った。
 今の自分の姿、本当に想像したくない。指に力が入りすぎて、関節が石になってしまったみたいだ。
 
 ユーリが背後で薄く笑う気配がした。
 いつまでこの格好をさせておく気だろう。もう何分も経ったのじゃないだろうか。
 カミュには、この時間が永遠に思えた。
 でも、実際は、ほんの数十秒だったかも知れない。実はその間、ユーリは自分のペニスにコンドームをつけていたからだ。勿論、それを急がなかったのは、計算のうちだったかも知れないが……
 ユーリの手がカミュの太腿にかかり、カミュはまた滑った舌が自分の襞を割くのを感じた。
 ……まずい。これって、今まで知らない感覚だ……。
 自分が他人のアヌスを舐めろと言われたら、まず絶対に拒否反応が出る。さっきのペニスどころではないだろう。でも、この感じはゾクゾクする。この、体の中まで割って入ってくる感じ……
 力が抜ける。一度侵入を許してしまうと、最早閉め出す事も出来ない。こんなに脆いものか、と自分で自分に関心し、同時に情けなくも思う。
 ずっと遠ざかっていても、体は感覚を覚えている。外部からの侵入者を阻もうと必死なのは、本当に表の薄皮一枚で、本当は体の内部は常に外から侵略されることを望んでいるのではないかとすら思う。
 長い間埋められることのなかった空洞が、また満たされることを欲して勝手に蠢くのだ。カミュは、自分のそういう所が本当に嫌だった。自立したいと願って、そのように努力してきたというのに、自分という人間の芯の部分は、常に誰かに埋められることを渇望している。
 本当は、自分だって誰かと寝たいのだ。自分の芯に居座っている空虚を自分では埋められないから、物理的に満たして欲しい。
 ミロは結局カミュがbottomをとることになった事が、カミュにばかり負担を押し付けているようだ、と大層気にしていたが、今にして思えば、なるようになっただけだ、とカミュは思う。
 ミロには、他人に空虚を満たしてもらおうという発想そのものがない。だから、挿れられて快感を感じることがない。でも、カミュの側には、確かにそれがあるのだ。
 多分ユーリにはそれも見えていて、それでこんな取引を持ちかけてきたのだろう。
 それなのに、いやいや従っている振りをするのは、狡い。
 
 もし、ピアノを思う存分に弾けるようになったら、この空虚は埋まるだろうか。
 ミロが、ヴァイオリンさえあれば、カミュの存在さえ忘れてしまうように。
 そんな風にミロと対等になれる日は、いつか来るんだろうか……。
 カミュの意識がミロのヴァイオリンに飛んだ時、カミュの柔らかい肉の襞は限界まで押し広げられ、激しい腹部の圧迫感がその淡い意識を突き破って粉々に打ち砕き、カミュは悲鳴を上げた。

「まったくさ、君がバイトしてるのに、僕が君を楽しませてどうするの!」
「……すみません……」
「ま、弟子だから大目に見るけどさ、精々精進して早いとこ上達してくれる? そっちもピアノも」
 
 翌日。
 カミュが朝から大量に出て来た牛肉の塊をどうにか無理矢理胃袋に押し込んだ後、その二倍の量の肉を半分の時間で平らげたユーリが、山盛りのフルーツをお代わりしながら言った。
「大体さぁ、あのくらいでへたって、朝も起きられないって、君ほんと体力なさすぎるよ。それじゃ、君の大好きなブラームスの協奏曲は一生弾けないね! 今日の食事当番だって君だったのに、結局僕が作ってるし。午前の練習、大丈夫なんだろうね?」
「……善処します」
「昨日からそればっかりじゃん」
 カミュとしては、それ以外何も言えない。
 なにしろ、昨夜は明け方四時過ぎまで散々叩き起こされてはイかされて、途中から記憶がないのだ。恐るべきは、途中から殆ど何もできなかった自分とは異なり、体力を使う運動を続けていたはずのユーリが、まったく疲れも見せずに朝七時きっかりに起床したことだった。
 たった三時間弱の睡眠でどうやったらここまで復活できるのか、全く見当もつかない。さらに、そこまで自分が虐め抜いた弟子が、翌日朝からショパンの英雄ポロネーズををまともに演奏出来ると信じているところが、もうカミュには完全に理解不能だった。
 そもそも、今日ピアノの椅子に座れるんだろうか? 自分。
 ユーリは、流石に手慣れているというか、あのような切羽詰まった状況でさえ、カミュの体に傷ひとつ負わせなかった。とはいえ、流石にあれだけ使えば多少は腫れる。食事中座るくらいは構わないが、レッスンは二時間だ。
 ユーリは相当に溜まっていたらしい。全部吐き出してすっきりしたのか、今朝は随分機嫌が良かった。でなければ、あの十倍はお小言を食らって、更にもう一つ追加の宿題も出されていたことだろう。
 音楽院が冬休みで良かった、とカミュは胸焼けする胃袋を押さえながら思った。午前中のレッスンはともかく、午後は少し寝ないと一日もたない。午後はユーリがピアノを使う時間だから、この間だけは、平和に眠れるというものだ。
 ……それに、今は、ミロと会いたくない。
 音楽院に行けば、いくら専門が違うといっても、たまに構内で顔を合わせることもある。これだけ疲れていればミロは理由を尋ねるだろうし、その答えは、いくら今は別れてただの友人だと言っても、とても正直に言えるものではなかった。
「それでさ、今晩の予定だけど」
 フルーツを完食したユーリが、にこにこと上機嫌に両手を組んでカミュの疲れた顔を覗き込んだ。
「昨日の約束通り、今日はフードプレイってことで」
「はあ?!」
 今、今晩の予定、って言ったか?!
「ちょっと待って下さい、これって、レッスン代替わりのバイトなんですよね?! だったら、週に二回とか──」
「何言ってるのさ! 君、昨日のあれじゃ、レッスン時間最初の十分にもならないよ! ってか、そのあと散々僕が気持ちよくしてあげたんだから、むしろ僕が払って欲しいくらいだよね! 今日の午後空いてるんでしょ? 僕のビデオ貸してあげるから、その間にそれ見て勉強しといてよ。あ、あとね、今週はずっと君が食事当番だから。昨日楽しませてあげた分、そのくらいやってくれてもいいよね」
 ……元気になった分、口が回るのもいつもより二割増で早い……(溜息)
 もしかしたら、自分はまともにピアノが弾けるようになる前に、この絶倫ロシア熊の上で腹上死するんじゃないだろうか。
 カミュは半ば本気でそう思い、それだけは、未だに息子の恋人が男であった事も知らない気の毒な両親のためにも、絶対避けなければ、と固く決意した。
 寝てやる。今日の午後は絶対に爆睡してやる。ビデオなんか、一分だって観てやるものか!
── 二週目に続く。

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