昨日、なんとかぎりぎりアイオロスとサガのアパートメントに着いて大慌てで貸しスタジオに向かった。途中、アイオロスに一発頭を叩かれる。そして、予想通り、今回はオレとアイオロスとサガが一番最後で12分の遅刻だった。
シュラとカミュは既に練習を始めていて、オレとアイオロスは大慌てで楽器を出し、カミュにAを貰って調弦を済ませる。そして、問答無用で練習開始。
90分後、漸く休憩時間に入ったので慌てて楽器を床に寝かせてカミュの側に行く。
「カミュ、どうしたんだ? なんか、やつれてないか?!」
カミュは、うっすら頬がこけていてなんか目の周りの窪みがいつもより深い気がした。
「今週は暇があればピアノを弾いていて、結構食事もスキップしたりして…だからだろう…久しぶりに母に怒られたよ」
カミュは、苦笑いしながら答えた。
カミュの顎を取って、しげしげと見詰るに、顔色も青白い。
「食事ぐらい、ちゃんと取りなよ…。体力は音楽の基本だよ?」
と、眉を顰めて言うと、
「分かったよ。これからは気を付けるよ…でも、お前の方こそいつもは忘れているじゃないか?」
と、笑ってお前に言われるのはな…と言いながら、ミネラル・ウォーターのペットボトルを口に当てて水を数口飲んだ。
今まで向き合っていた顔を反らして、横を向いて水を飲むカミュをなんとはなしに見詰ていると、白い喉元が上下に動く。
カミュがペットボトルの蓋を閉めなおしたのを見計らって、もう一度カミュの顎を指先で捉えて固定すると、向かって右側の頬に口付けた。そして、左側、目頭や額にも順番に。
そうしたら、カミュが軽く頬にキスを一つくれて、オレの肩を軽く叩いた。
「シュラ先輩が戻って来て目に止まったら、しごかれるぞ」と。
カミュは、そのままピアノの椅子に腰掛けて、楽譜を整えながら、
「で? お前はちゃんとさらったのか?」と聞いてきた。
ので、
「いや、今週はバタバタとしていたし、後半はずっと外泊だったから、実のところあんまりさらえてない」
すると、カミュは溜息を付いて、
「今回延長したら、その分はお前もちだからな」
と言う。
「国際便で毎週通ってる人間に、それをさせるか? フツウ」
「お前が本番上手く弾けたら、何か奢ってやるよ」
「何するんだよ! オレの鼻は粘土じゃないぞ?」
カミュが、人の鼻を片手の指で摘んで左右に揺らした。鼻が詰まって変な発音になった。
自分も、持って来たボトルを取りに行こうと、カミュの側を離れた時、
「で? 今週の結果はどうだったんだ? まさか、食いに行って食われていないだろうな?」
突然、がしっと肩に重さを感じた。声の主はアイオロスだった。コーヒー片手にニコニコと人の事を見下ろしている。
そこに、突然バイオリンの音。
狭いスタジオの壁際で、サガが調弦を済ませたバイオリンで指慣らしをしていた。
あ、オレもさらわないと…。
意識がそれた。やっぱりサガのバイオリンは凄く綺麗だ。
「で? どうだったんだ?」
「どうって…女の子はやっぱり全然ちがってた…柔らかいし、骨ばってないし…でも、男は駄目だな…全然抱こうって気になれなかったから苦労した」
「で? 一体何人食えたんだ?」
と、大笑いしているロスに聞かれた。少々むっとして、
「女の子は二回。男は…食ったというか、食われたというか…」
「それで? これからはどうするんだ?」
「さあ…? もし機会があったら女の子とは出来るけれど、男とはもう出来ないというか、多分絶対にやらないな」
アイオロスが一つ高く口笛を吹いた。
あ、サガがバッハを弾き始めた。
「サガ! ちょっと待って、一緒にやろう!」
向こうに居たサガに慌てて声を掛けると、オレは壁際に寄せていた楽器ケースに駆け寄り蓋を開けた。楽器を取り出し、弓を張り、松脂を塗り、手早く調弦して自分の楽譜を掴んでサガの隣に譜面立てを持って馳せた。
うわ…びっちり書き込みがしてある……(汗)
慌てて自分の譜面と見比べて、何かこちらも留意するべきが無いか確認する。
丁度反対側の壁にあるピアノの所では、アイオロスが居て、何か譜面を見ているカミュに話しかけている。ああ、こっちも集中しないと…と、サガに何か気になる点は無いか確認して、「2つの〜」の合わせを始めた。
今回は、初めから5時間の予定を詰めていたので、めでたく延長料金は発生しなかった(安堵)。
そして、七時過ぎにはスタジオの前でみんな解散した。
それから一人空港に向かって、最終便より一つ早い便でローマに帰れて…。
やっと一息。
久しぶりの自分のベッドだ…!(というか、一人で寝れる…!)
明日は日曜日だけれど…仕事しなくちゃ……(zzz……)