去る金曜日、私は遂にある決断をした。
決断というのは、今も悲しげな瞳でえせるの方を眺めているウサギのロスのことだ。
この春大病を煩って以来、ロスは急に老け込んでしまった。
あの強靭だった後ろ足で、長い間立っていられずふらつく。
食事も、与えれば喜ぶが、10グラムほどのペレットの半分しか一度に食べられない。
湿度の高い日は、暗く狭い場所に潜り込んで動かない。
ロスの悲しげな瞳の理由は、実は侭ならない体だけではなく、一つ屋根の下に同居する二羽のメスウサギだ。えせるは既に去勢してしまって、ロスに好意は見せるものの勿論繁殖行動は許さない。二羽の子供のプチは、まだ去勢はしていないが、本能的に父親に近い血を感じるのか、ロスが近づくと逃げてしまう。
結果、金網越しに二羽に必死にラブコールを送るロスの心は傷つくばかり、というわけだ。
それでも、矢張り体にメスを入れるのは躊躇われ、これまで去勢することなく過ごしてきた。
だが、この春以降、気分の落ち込みが体調に影響するようになり、つまりはもともと少しみられた躁鬱の兆候が顕著になってきた。
メスウサギ達のように、沈みがちな時に体を舐めてくれる仲間もいない。
それで、ついに、ロスの去勢を決意した。
医者の話では、雄の去勢は雌ほど重要ではないにしても(雌ウサギはかなりの高確率で子宮がんになる)、去勢することにより繁殖以外の楽しみを見つけられるようになり、結果的にストレスが減る、という。
そうなれば、相性の良いえせると同じケージに入れてやってもよいし……。
ロスは私のウサギなので、早速special speciesの専門家が居る大学病院で手術の予約をとった。
それが、先週の金曜日の話だ。
さて、私はそのことを(人間の)アイオロスにはまだ言っていない。
彼がこのことを知れば間違いなく反対をするに決まっているからだ。
とはいえ、明日は病院にロスを連れて行く日、アイオロスには授業がある私に変わって、手術後経過が良好ならばロスを迎えに行ってもらう必要がある。
というわけで、今日は明日の相談をしなければならない。
今晩の献立は、とりあえずご機嫌とりにサーロインステーキ2ポンドを用意したが、はたしてなんと切り出したものか……
はたと窓辺を見ると、ロスが気持ちよさげに足を延ばして眠っている。
明日我が身に起こる激変も知らず、と思うと、今更ながら不憫だ……