本日帰宅してびっくりした事に、ドアを開けると「血の海」ならぬ「毛の海」が広がっていた。
なんだこりゃ?!
と思ってよくよく見ると、綿毛のような毛の塊が、玄関から窓までのリビング全域、リビングから寝室の中、そして、バスルームにまでばら撒かれていた。
全て灰色。
プチの小屋(犬用エクサイズパン)を覗いてみれば、その住人はちまい毛ボールのような子うさぎたちしかいない。
今日の日中は誰の運動時間でもなかったはずなのに、と思って探しても、2匹とも見当たらない。
仕方がないので、この一足歩くごとに舞い上がる毛をなんとかするのが先決かと思い掃除機をかける。
正味小1時間かかった。
急ぎの書類があるんだがなぁ……、しかし、愚痴る相手もいないので引き続き2匹のうさぎを探していると、えせるはテレビを置いているリビングの隅の、コーヒーテーブルの下の一角にじっとうずくまっていた。
声を掛けても動かない。
これはおかしいと思い、とにかくプチを確保して閉じ込める事に。
プチは寝室の、これまた隅に高く積まれたエセルの引越し用とかいうダンボールの裏に隠れていた。
引きずり出して巣に放り込む。
どうやら、授乳のために二メートル弱四方のケージに閉じ込められてフラストレーションが溜まり、隣のえせるのケージに飛び込み、えせると争い、その結果、えせるのケージが破られ2匹とも外に出たらしい。
プチを返した頃には、俺が帰宅してから2時間は経とうかとしていたが、依然としてえせるは出てこない。リンゴの皮を剥いてえせるの鼻先に置いてやると始めはなかなか反応を示さなかったが、そろりそろりと動き出し、随分とぎこちなく体を前進させて皮を一口二口齧り、また奥へ戻り、うずくまってしまった。
その隅には赤褐色の液体の染みがあり、えせるの下半身もその色で染まっている。
溜め息を一つついて、携帯を取り出しエセルに連絡をする。
おそらく、プチの方に分があり、えせるは負けたのだろう。
状況を説明すると、エセルの幾分慌てた声が聞こえ、話し合いの結果、コーヒーテーブルの下からはえせるを出し、ローヤルゼリーを飲ませ、様子を見る事に。
体が辛いのか、触られることを極度に嫌がる。
いつもは撫でてくれとせがんで止まないのに子なのにな。
毛と水と、排泄物の散乱したえせるの部屋を綺麗に掃除し、ビランのあるえせるのためにしいてある毛足の長いマットを洗濯機に放り込む。熱く絞った雑巾で床材を何度も拭きプチの匂いを消してやる。
トイレの草を新しいのに取替え、柔らかく敷き詰め、その上にぐったりとしているえせるをそっと乗せてやるとよろよろと動きながら小便をした。
我慢をしていたのか、動けなかったのか……。
その後、少し草を食べ、えせるの大好きなオレンジジュースに溶かしたローヤルゼリーも少し舐める。
が、体が痛むのか床になかなか丸くなれず、体を起こしたままじっとしていた。見ていて気の毒だった。
そのうち、エセルが飛んで帰ってきて二人で交互にえせるを撫でてやる。
体のあちらこちらの毛が毟られ、とくに、首周りには噛み傷が残り皮膚が破れ毛がぶら下がっている。
こんな状態で七匹のうさぎを連れて移動するのは無謀ではないか、と言うと、エセルはむっとしたように黙って返事をしなかった。