悪酔い

サガと昨晩、真面目な話し合いというものをしたんだが、これが、酒より性質が悪かった。
二日酔いより酷い頭痛を感じる……。


今朝は、日課のジョギングをする気にもなれず、コーヒーを入れて窓辺に置いたソファに陣取ってぼぉっと外を見ている。
うさぎには大盤振る舞いの飯をやった。
つらつらと昨晩のサガの話を思い出している。
事を荒立たせずに済ませる判断としては、まあ、上等の部類の判断だろう。
二本切らずに、一本でトリックを仕掛けた医者の判断も拍手ものだ。
体内吸収縫合糸は早いもので3〜4週間、長いもので3〜4ヶ月溶解に時間が掛かる。
今週早々にサガを精子の確認検査に行かせて、まだ無精子状態が続いているようなら、早めに手を打っておいた方がいいだろう。
癒着して、機能しなくなっていたら事だ。
知らず、溜息が漏れる。
昔から、時々突拍子もない事をやる奴だったが……まさか自分に相談無しにこんな事をするとは思わなかった。
カノンの電話の調子が耳に甦る。
『お前も知らなかったんだな、ざまあみろっ!』
って、あの態度だ。
もう少し、利口なやり方があったと思うんだが……。
はあああああっ……。
だから、家を出るのなら早く親と喧嘩しとけと言ったのに……。
俺は、二十歳になる前に、アメリカ国籍を取るかイギリス国籍を取るか選択しなければならなかった。
この時に一回。
職を得た時に二回、それから成るべくちょこちょこと早く動いとけと、言っていたつもりなんだがなぁ……。
はああああああああああああ。
シオンとドウコを見ていれば明らかだ。
実行する側がある程度他人の痛みに頓着できないくらい若くて血気に盛ってないと、こういうのはどんどん拗れていく。
脅しをかけられる材料も揃えておいてやったのに……。
えせるがソファの下にやって来て、「撫でてv」と頭を下げて腹ばいになった。
足の裏でえせるの頭を撫でてやると、足でもいいらしく、大人しく撫でられている。
家を出るのに十何年も掛かったサガも馬鹿だし、強引に介入しなかった俺もサガを甘く見ていた。
ふうううううううっ……。
だが、一番の問題は、この期に及んでも、サガがあの非人道的な世襲システムになんの疑問も抱いていないところだ……。
カビの生えた湿って暗い石の部屋に住み続けて、過去からの「遺産」管財人としての生活をする事に、真剣に疑問を感じていない所だ。
自由に憧れたから、イートンを蹴って自分の意思で学校を選んだんじゃないのか?
自分の意思で生きたかったから、階級の檻を蹴り破って飛び込んできたんじゃないのか?
それまでとは全く違う世界で生きてみたいから、俺に惹かれたんじゃないのか?

………………。
訳分からんぞ…………。
なんか、近年これ程疲れた事は無い。
ぼおっ、と部屋の中を見ていたら、うさぎの二段ベッド(ちょっとした棚をうさぎの逃げ場用に置いていたのが、自然と棚の一階と二階でうさぎが寝るようになった)の上段に寝そべっていたハムの尻がズルズルと壁と棚の間に垂れ落ちて行っている。
チェアマットの上をじわじわと滑る棚の行方を見ていると(結構な音がしている)、ゆるくなったピーナッツバターのようにハムの体は二段ベッドから垂れ下がり続け、
とうとう
落ちた。
…………………。
当の本人は何が起こったか理解していない模様。
大層傷ついた顔をして、呆然としていたが、もう上段のベッドには行かないと決心をしたのか、下段に収まってまた惰眠をむさぼり始めた。
…………ったく……!!
朝っぱらから気の抜ける光景を見せるなよ…………。

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