(カウントダウンになっています。数の大きい順からお読み下さい)
「という訳だから、お前、俺の証人やってくれ」
シュラの耳に、あっ「軽い」、声が響いたのは、5月の初めの事だった。
大体にして、シュラ・コーツの携帯電話が仕事以外の着信音を響かせる事はめったに無い。
その日は、そのめったにない日で、しかも、5月だった。
シュラの眉がぐっと、寄って眉間に小さな皺を刻んだ。
液晶を確認すれば、それは、やはり、というか、それ以外無い、というか、アイオロス・エインズワースその人だった。
きっちり5回目のコールで電話に出たシュラの耳に、「よおっ!」と低い、けれどどこか愛嬌のある声が届く。
「お前、五月最後の金曜日、ちょっと時間空けられるか?」
シュラはすばやく頭の中でカレンダーを捲った。
5月最後の金曜日は、29日だ。
シュラは心の中でため息をついた。
そして、下手な事に巻き込まれるのはゴメンだ、とも。
「そんなこんなで、やっとサガが家から勘当してもらったらしいから、お前、俺の証人になってくれ」
半分くらいしか注意を向けていなかった、もうそろそろ出合って二十年目という数字が見え始めている男の声が、シュラの意識をはっとさせた。
サガ・チェトウィンドと勘当という文字は、決して軽々しく扱えるような組み合わせの話題ではないのだが、この男の能天気さはどうだろう。
そして、「証人」ということは……。
シュラは今度はリアルにため息を吐いた。
「正確な時間が決まったら後でメールでも送れ」
電話の向こうで、男がニヤリとした気配が伝わる。
それをシュラが面白く思わないことなど、百も承知での笑いだ。
「朝10時。昼飯奢ってやるよ。あと、パーティーは土曜の昼からバーロウの家だ。飯はケータリング頼んでるから特に持ち込みの必要はない。まあ、うまい酒があれば家主が喜ぶか」
喉の奥で小さな笑い声を立てながら、電話はあっけなく切れた。
もう一人の証人を確認する暇など無いほどに。
シュラはたたんだ掌の携帯をじっと見、もう一度溜息を吐くと、馴染みの酒屋に行く予定を頭の中で組み立てた。